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氷雪に咲く覇王  作者: はわか
正編
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25/28

隠された思惑 ―終わらせる為に―

城に着く頃には、日はすっかり落ちていた。

ノクスは一直線に執務室に向かうと、扉の前で一度立ち止まる。


(今日……アイゼルは、ずっと執務室にいるはずだよな)


アイゼルの予定なら把握している。

側近として、数週間分のスケジュールは頭に入っている。

今日は会談や視察等の予定はないので、執務室で仕事をしているだろう。


ノクスは一度目を閉じ、気持ちを落ち着けるように長く息を吐いた。

そして、意を決してドアノブに手をかける。


「戻ったか」

「……ああ」


扉を開けると同時に、アイゼルの声がした。

ノックもせずに入るのはノクスしかいないので、誰だか確認するまでもないのだろう。

ノクスは静かに扉を閉じると、その場に立ったままアイゼルを見つめた。


聞きたいことは山ほどあるのに、うまく言葉が出てこない。

部屋の入口で黙ったままのノクスに、アイゼルは小さく息を吐くと、書類に印を押しながら問いかける。


「視察はどうだった?」

「え?……そうだな、思った以上に整ってた。クラス分けや選択科目も合理的だし、学生の活気もあったな。校舎や庭園の設備もしっかりしてた」

「そうか」


ノクスの感想に、アイゼルは頷く。

わずかに表情が緩んだのは、それだけあの学校に力を注いでいるからだろう。


学校は、国力の底上げのために"平等な学びの場が必要"という考えで設立された施設だ。

だから、学校教育においては身分による差を設けていない。

友人同士で互いの能力や人柄を知っていれば、将来、仕事をする上で助けになることもある。


もちろん、国家として身分階級そのものは残っている。

だが、それは誰かを踏みつけるためではない。

誰が何を担うのか、その責任を明確にするためのものだ。


……それは、それとして。


「………特進クラスも、見てきた」

「それで?」

「城に似せた造りなのは、城で働く人材育成を目的にしてるから……だよな?」

「そうだ」


ノクスの問いに、アイゼルは短く答えた。


(違ぇだろ、聞きてぇのはこんなことじゃねぇ……)


聞きたい。けれど、それを口にしたら、何かが崩れてしまう気がした。

歯切れの悪いノクスの様子に、ようやくアイゼルが視線を向けた。


「何か、私に聞きたいことがあるのか?」


その言葉に、一瞬身体が震えた。

小さく息を吸い、早まる鼓動を押さえ込むように胸元へ拳を当てる。

そして、呟くように切り出した。


「中枢選抜クラスって……何だ?」


掠れるような低い声に、アイゼルは「そんなことか」とばかりに答える。


「資料に書いてあっただろう。校長からも説明を受けたはずだが」


確かに書いてあった。

詳細までは資料ではわからなかったが、目的やカリキュラムについて校長から説明も受けた。

ただ——その内容に、納得できなかっただけで。


「確かに、国の中枢を担う人材の育成みてぇだった。一般の授業に加えて、城で働くために必要な知識や技術、マナーを身につけて、更に重鎮レベルの職務内容や責任、軍制度について学ぶ機会がある。……政治の流れについても、だ」

「その通りだ。何か問題が?」


あまりに淡々と、平然と返すアイゼルの態度に、ノクスは耐えきれず声を荒げた。


「俺が何年あんたの側に仕えてきたと思ってんだ!?あの内容と、進め方——違和感しかねぇんだよ!しかも、……あんたは月に一度、特別講義を行ってんだろ」

「………」


普通であれば、幹部を目指すための内容と捉えられるカリキュラム。

しかしノクスは、十三歳の頃からアイゼルの側に仕えてきた。


彼がどんな教育を受けてきたか、知っている。

内容によっては、共に講義を受けたことすらある。

そして、ノクスでも決して立ち入れない、皇帝直々の講習時間があったことも——……


そんな彼だからこそ、その違和感の意味に気づいてしまった。

喉の奥が、ひどく乾く。


「中枢どころじゃねぇ。あれじゃ、まるで……皇太子教育じゃねぇか」


絞り出すような声で告げるノクスに、アイゼルは静かに言った。


「私が、学生の中から後継者を選ぼうとしているとでも言いたいのか?」

「……俺だって、最初はそんなわけねぇって思ったけどよ……」


普通なら、後継者は皇族——つまり、アイゼルの子供になるはずだ。

しかし、アイゼルはいつまで経っても妃を選ぼうとしない。

国のためなら政略結婚すら厭わないはずなのに、それをしない。


たとえ今、皇妃の条件に合う相手がいなかったとしても。

教育で補える部分や、補佐で賄えることは、いくらでもある。

それなのに、かわし続けることが、どうしても引っかかっていた。


「あんたが結婚しねぇのは、自分の子供を作る気がねぇんじゃねぇのか?……だから、優秀な人間に、跡を継がせようと——……」

「何故そんな必要がある」

「……皇族の血を、絶やすため……か?」


最後の言葉にだけ、アイゼルの眉が僅かに動いた。

しばらく沈黙が続いたが、やがてアイゼルは一度目を閉じ額を軽く押さえた後、ノクスに向き直る。


「——問いかけているようで、貴様の中では確信しているようだな」

「……………」


黙ったままのノクスに、アイゼルは立ち上がり、静かに——だが、はっきりと告げた。


「そうだ。——皇族の血は、私で終わらせる」



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