表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷雪に咲く覇王  作者: はわか
正編
PR
22/28

隣にいるべき存在

※アイゼル視点です

ノクスが帝国に戻ってきたのは、休暇期間の一ヶ月を優に過ぎた後だった。

転移陣が使われたことに気づき、出迎えてやれば例の王子と一緒にいた。

目的が無事果たせたのかと思えば、「様子を見たいからあいつについて行きたい」と言い出した時は耳を疑った。

何を考えているんだ、と。


結局、例の組織の「現地調査任務」という名目でまた出ていった。


まあいい、魔晶石は渡せた。

あの魔晶石は、魔眼を抑えるためのものだ。

魔眼とは、私が勝手につけた名だが、あの能力には適しているだろう。

魔力を視認できる能力——それは有用ではあるが、見えることを過信して、真実を見落とす可能性もある。


常に見えてしまうことで、疲弊することもあるだろう。

……だから、早く渡したかった。


またしばらくは戻ってこないだろうが、最終的にここに帰ってくるならば、問題ない。


あいつには、大事な”役割”がある。

私に意見できるのも、感情をぶつけられるのも。

——止められるのも、ノクスだけだ。


だから、必ず帰ってこい。






ーーーーーーーーーーーーーーー






それから数ヶ月ぶりに姿を現したノクスは、随分スッキリとした表情だった。

おそらく、他の者から見れば特に変化はないだろう。

だが、雰囲気でわかる。色々と吹っ切れたようだ。


「報復は果たせたのか?」


問いかけてみれば、「余裕だった」という返事が戻ってきた。


「あんたの特訓と比べれば、遊びみたいなもんだったよ。……なんで、あんな奴恐れてたんだってくらい」

「他人を排斥することで権威性を保とうとする奴など、衰退するだけだ」


大国の魔術師団長ともなれば、実力自体はあったはずだ。

しかし、他者を落とすことばかりを考えていたものなのであれば、自身の研鑽は怠っていた可能性が高い。

そんな者が、ノクスに敵うはずがない。


——実力も、精神面も。


だが、その排斥という下策にも、感謝すべき点はある。

お陰で、私は有能な側近を得ることができたのだからな。

これほどの才能を手放してくれて、謝辞を述べたいほどだ。


「次の師団長はまともな奴ならばいいのだが。あの国とは友好条約もある、付き合いやすいに越したことはない」

「どうだろうな。俺は会ったことねぇし……。真面目だとは聞いてるけど」


聞けば、それは昔なじみの兄だという。

ただその兄弟は折り合いが悪いらしく、あまり接点はないようだった。

まあ、外交に支障がないのならば何でもいい。


その時、不意にノクスの表情が曇る。

そのまましばらく黙っていたが、意を決したように口を開いた。


「……あんたは、業は自分に還ってくるって、前に言ってたよな」

「ああ」

「もし、今度は俺が魔力路を壊される側……つまり、魔術が使えなくなったら、どうする?」


世界最高峰とも言える魔術の才覚。

それを失った自分に、何が残るのか。


——そう、言いたいのだろうか。


何をそんなに深刻な顔をしているのか知らないが、……愚問だな。


「貴様の魔術以外の戦闘能力は壊滅的だ。私の護衛はできなくなるだろう」

「………」

「その分書類業務を三倍に増やしてやる」


私の言葉に、ノクスは「は!?」と素っ頓狂な声を上げた。


「さ、三倍って……終わるわけねぇだろ!?今でもどれだけ……」

「ではもう少し身体を鍛えろ。体術で護れるなら問題ない」

「あんたの"もう少し”は異常値なんだよ!」


文句を言いながらも、その声にはどこか安堵が混じっているように感じた。


(……その魔術は、私の"望み”の為に必須ではあるが……、これほど有能な人間を手放す理由にはならない)


公務においても、ノクスに匹敵する者はおそらくこの国にいないだろう。

臆することなく私に意見できる人間も貴重だ。

手放してやる気など、毛頭ない。


長い息を吐いて呼吸を落ち着かせていたノクスは、ふと何かを思いだしたような顔をした。

まだ何かあるのか、と思った私に、少し言いづらそうに切り出す。


「……信じるか、わからねぇけど」

「何だ」

「ミレナのことだ」


その名前に、心臓が一瞬痛む。

忘れたことなどない、あの時救えなかった少女の名だ。

例の組織の犠牲者、そして捨て駒扱いという帝国の闇を象徴する出来事の当事者。


しかし、ノクスが続けた言葉は、私にとってあまりにも予想外だった。


「生きてるぞ、今も」

「……は?」


らしくもない声が出たと、自分でも思う。

生きている、だと?

父上に処刑されたというのに——……?


いや、だが可能性は確かにある。

あの処刑はすぐに処分するのではなく、雪山に拘束するものだったはずだ。

後になってあの場所を訪れた時には何も残っておらず、魔物の餌になったのだと思っていたが……。


「詳しいことは、約束だから言えねぇ。だが、いい奴に出会って幸せそうにしてる。あんたになら、生きてることだけは伝えていいって、そう言ってた」

「そう……か」


いつもなら流暢に出る言葉が、上手く紡げない。

ただ、妙な感覚を胸の奥に感じた。


ずっと重くのしかかっていた何かが、取り除かれたような。

鋭く刺さっていたものが、抜けたような。

そんな感覚だ。


(生きていてくれた……。私は、手を伸ばすことすら叶わなかったというのに)


詳細は語れないというのなら、これ以上は聞かない。

ただ、彼女を救ってくれた"誰か”には、感謝しか浮かばなかった。

知るすべがない以上、そんな機会はないだろうが——もし何かあれば、力になろうと思えるほどには。


だが、これ以上そんな感傷に浸っている暇はない。


「さて……そろそろ仕事を始めるか。貴様がいない間に滞っていた業務は山のようにある」

「……だろうな」

「急ぎのものは全て捌いたが、猶予のあるものは残っているから覚悟しておけ」

「わかってる」


しばらく眠れない可能性があるのを理解しながらも、ノクスは素直に頷いた。

自分の行動の代償を理解しているのだろう。


とはいえ、懸念や執着が解消されてこの国に戻ってきたというのなら、行かせた価値はあった。

黙々と仕事に取り掛かるノクスを見ながら、思う。


(やはり、私の隣には……貴様がいるべきだ)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ