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氷雪に咲く覇王  作者: はわか
正編
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21/28

休暇の申し出

アイゼルが即位して、各国への通達や式典の準備、法の再確認や暫定的な勅令の発布などを優先順位を付けて迅速に進めていた。

その裏で、水面下で行っていたことがあった。

それは、一年前に処刑された少女の調査だ。


先帝が亡くなり、後ろ盾がいなくなったからだろう。

尻尾を掴むのは、予想以上に容易だった。

ノクスが魔力の痕跡を目視できたことも大きかった。




わかったことは幾つもある。


あの黒いローブの男たちは、国内に秘密裏に実験施設を持つ組織だった。

その内容は、魔核を用いた人体実験。

被験体は主に孤児だ。


あの少女もその一人で、名は「ミレナ」。

実験の成功体ということで、先帝に献上され、スパイとして働かされていたと知った。


そして。

……任務に失敗して、処刑されたことも。




関係した者は全て捕らえ、情報を聞き出し、処罰した。

しかし、どうやらこの組織は一国だけに根付いたものではないらしい。

ここにあった施設はあくまでも"支部”のようなもので、本拠地は他国にあるとのことだった。


すぐに密偵を各国に送ったが、そう簡単には見つからないだろう。

もどかしさはあるが、皇帝であるアイゼル自身が他国に調査に行くわけにもいかない。

結局、情報を待つしかなかった。


そもそも国内インフラの整備や軍事計画の見直し、粛正法の再確認、内乱・混乱が起きない体制作りなど、他にも仕事は山のようにある。

他国のことは臣下たちに任せる他なかった。


そんな折、アルナゼル王国へ出向いていた密偵から、一通の文書が届いた。

任意の相手の手元に直接転送できる魔道具で、他者に見られる可能性が極めて低いため、極秘任務の際に使われている。

アイゼルは静かにその文に目を落としそして、僅かに眉を寄せた。


組織に関する内容ではない。しかし、急ぎ報告しておきたいとのことだった。

アイゼルは口元に手を当て、僅かに思考した後、ノクスに声を掛ける。


「貴様にも、知る権利はあるな」

「?」


おそらく、この報告を急ぎで送ってきたのは、ノクスがいるからだ。

アイゼルに知らせるだけなら、定期報告でも十分だっただろう。

不思議そうにしているノクスに、アイゼルは先程の文書を手渡した。


「アルナゼル王国からだ」

「は……?」


アルナゼルはノクスの出身国だが、国への愛着は薄く、家族との関係も良くない。

それはアイゼルも知っているはずだった。

だから、わざわざ伝えてきたということは——ノクスが唯一心を許していた"彼ら”に関することなのだと、すぐに気づいた。


そして、決して良い知らせではなさそうだということも。


嫌な予感がする。

ノクスは黙って、その文書を開いた。


「……………」


表情を変えないまま、しばらく無言で文面を見つめ続ける。

そして、その紙を黙ってたたみ直すと、アイゼルに差し出す。


「俺には、もう関係ねぇ」


淡々とそれだけ言い、仕事に向き直る。

あまりにも淡白な反応だった。

いや、——淡白過ぎる。


それほど簡単に割り切れる話ではないだろうに。


(分かりやすい奴だ……)


だが、あえて声はかけなかった。

アイゼルは文書に視線を向けないまま、静かに処分する。


【アルナゼル王国第三王子が暗殺されたとの情報を得ました。詳細は確認でき次第お伝えいたします】


簡潔に内容が書かれた、その報告書を——。






ーーーーーーーーーーーーーーー






その後、ノクスは仕事に没頭した。

まるで道具のように感情を出さず、ただ黙々と働き続けている。


その様子が気にならないわけではない。

だが、感情を押し込んででも側近の勤めを果たそうとする姿は、誇らしくすらあった。

この国が、今はまだ不安定だということを理解しているのだ。




そんな状態が、二年近く続いた頃。

アルナゼル王国に関する、曖昧な情報が一つ入った。


——ノクスが突然の申し出をしたのは、その数日後だった。


「少し、休暇を取りたい」


その言葉に、アイゼルのペンを持つ手が止まる。

確かに、即位したばかりの頃と比べれば、大分国も落ち着いてきた。

魔晶石の採掘は軌道に乗り、加工を施すことで優れた産業を生み出すことが出来ている。

学校の設立も準備が整い、来週末には開校予定だ。

属国との関係も安定してきた。


しかし、まだ問題は多い。

暴君時代の爪痕は所々に残っており、未だ苦しみから抜け出せない者たちも少なくない。

旧体制の残党による小規模な騒動も、各地で燻っていた。


先帝に取り立てられた貴族たちの処遇問題も残っている。

例の組織に関しても、新たな情報は掴めていない。


この状況で——休暇が欲しい、だと?


一日二日……いや、一週間くらいであれば、問題なく許可しただろう。

しかし、そんな短期ではないことくらい、すぐに察した。


「どのくらいの期間を望んでいる?」

「一ヶ月……くらい」

「一ヶ月か。その不在の際、貴様のこなしていた仕事を誰が担うというのだ?」


ノクスの仕事量は決して少なくない。

それどころか、本来一人でこなせる量ではなかった。

そのことはノクス自身もわかっている。

だからこそ、躊躇いがちに目を逸らしていた。


その様子に、アイゼルはため息混じりに言う。


「まあいい。……一ヶ月だな」

「……え?」

「確かに、今まで休みがなさすぎた。それくらいは許可してやる」


驚くノクスに、アイゼルは続けた。


「ただし、もし他国に行くことがあるならば、入国手続きは気をつけることだ。気安く行き来できる身分ではないとわかっているな?」

「ああ、わかってる」


アルナゼル王国王弟子息という出自と、グレイシャ帝国皇帝の側近であるという立場。

仮に観光目的と言ったところで、警戒する国は少なくないだろう。

彼がそんな迂闊なことをするとは思っていないが、念の為の確認だった。


ノクスは一礼すると、執務室をあとにする。

扉が閉まると、アイゼルは静かに息を吐いた。

そして執務机の引き出しに触れ解錠すると、中から小さな魔晶石を取り出す。

淡い水色をしていて、細長い形のそれには細かく美しい加工が施されている。

覗き込めば、中には透き通るような虹色の光が揺れていた。


「完成まで、あと少しだったのだがな……」


この光がより鮮やかになれば、完成の合図だ。


アイゼルに付与魔術の適性はない。

だが、一般には知られていないが、製法を正しく理解していれば魔道具を作ることは出来る。

ただしその素質を持つ者と比べると、相当な時間を要するのが難点だ。


これはノクスの特殊能力に関わるものなので、他人には任せられない。

彼の力について教えられないのもあるが、かなり複雑な魔術式を使用するため、アイゼル以外に扱う事は不可能だ。

だから、ずっと前から極秘で制作を進めていたのである。


「——帰って来るまでに、仕上げるか」


あと二週間も経たずに完成する予定だ。

だから、戻ってきた時に渡そう。

そう決めると、手の中の魔晶石をそっと握りしめた。


(これがあれば、……多少は楽になるだろう)



ここから本編のノクス登場に繋がります。

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