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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)~  作者: 宮間
Round 10.1/空中ステージ

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248/249

248:英雄的行動

ゴゥゴゥと強風に震える、強化ガラス。

その向こうには、夕焼けに染まる空と山脈が見えた。


私・エルナ=バイヤーは、何故か(・・・)空を飛ぶ魔物の背中に乗って神王国へと向かわされていた。



「なぁ……なんでぇ……こんな事にぃ……っ」



高高度の大気の寒さで震える口唇(くちびる)から、思わず愚痴が漏れた。


地平線のように横切る稜線(りょうせん)には、白い雪が積もっている。

怖々と下を向けば、ゾワッとする程に地面が遠く、ほとんど緑のない不毛な山岳地帯がどこまでも広がっている。


時々、視界の端で砂煙や火花が散っているのは、おそらく巨大魔物の縄張り争いだろう。

ズドォーンッ!と、ずいぶん(・・・・)()離れた(・・・)地表(・・)から雷鳴か爆発みたいな音が響く事もある。



―― 空の上から見下ろす景色は、見るからに『国境の外』だった。

つまり、人間の(・・・)住む(・・)領域(・・)では(・・)ない(・・)場所(・・)

強大で凶悪な魔物が闊歩(かっぽ)する、どこの国も領土にしたがらない人外魔境の地。


ほとんど、『世界の果て』の光景だ。



「い、意味がわかんないよぉ……」



それもこれも全て、バイヤー家が仕えるイルクナー家令嬢にして、私の乳姉妹であるクリスタのせいである。


主家令嬢・クリスタ()が、生来から(わず)っていらっ(・・・)しゃる(・・・)向こう見ずで後先を考えない暴走(へき)が、またも発症あそば(・・・)された(・・・)のだ。



クリスタ(ねーさん)のぉ、ばかぁー……っ」



私・エルナは、当人がいる右側座席を見て文句を(こぼ)した。


だけど、当の本人にはそんな声は届いてもないだろう。

ビュービューと吹きすさぶ飛行音のうるささもあるが、それ以上に、本人の様子が普通ではないのだから。

我が乳姉妹(ちしまい)()は、まるで湯上がりのように上気したピンク色の(ほお)をしている。



「……フフッ。 ウフフ……ッ、もう、ダメェ……。

 いけませんわ……もう、旦那(だんな)様ったらぁ……っ」



きっと彼女(クリスタ)の頭の中には、『囚われの姫と白馬の王子』が出てくる童話のような、ロマンチックな物語が流れているに違いない。



「なんでぇ……なんでぇ、わたしがぁ……巻き添えになるのよぉ……っ」



私・エルナは、そんな他人のロマンス劇に、端役(はたやく)として強制参加された事が全くもって納得いかなかった。





▲ ▽ ▲ ▽



『剣帝』様のお弟子さん達は、異常だった。

しかも、事前の予想というか。想像を遥かに超える次元(レベル)で。



『お食事中すみませぇ~~~~ん!

 (ため)()りの押し売りで~す、ヤラレ役お願いしま~すっ』


『な……なんだ、テメーは ―― ガァッ!?』



急に廃墟へと突入すると、そこに隠れていた悪人面(あくにんづら)をいきなり、やたらと(・・・・)短い(・・)模造剣(ナマクラ)で殴り倒し始めた。



『な、な、な、何考えてるんですか……ぁっ』


『え、新しい武器のならし(・・・)だけど?』



黒髪のお弟子さんは、私・エルナの抗議に軽く答えて、すぐさま殴り込みを再開する。


しかもなんか、今になって思い返すと『他国(ヨソ)工作員(スパイ)』とか『黒ずくめの仲間』とか『炎罪(ゲヘナ)の民』がどうこうとか、色々おかしな事を言ってた気がする……。



『―― え!? えぇ! ええぇ!? ど、ど、どうしよう! ねえ、どうしたら良い?』



私は、抗議というか、常識的な指摘を全く取り合ってもらえず、困惑して周囲を見渡す。



『ま~た兄弟子が暴れてる……』

『お兄様の事です、その内に飽きて戻ってきますわ。それよりリア、お腹すきました』

『ねえねえ見て、花の王冠つくったー。 こういうの、(なつ)かしくない?』

『フオォ~~! そういうのリア初めて見ましたの! すごいですわ、器用ですわ、シゥイ天才ですわ~っ』

『えぇ~、そんな事ないよ、うふふ~。 それじゃ、一緒に作ってみる?』

『あ~……、俺、そっちで素振りの練習してるから』



他のお弟子さん達は、のんきな様子。

女の子2人なんか、廃墟の敷地の端の草むらに座り込んで『草花の王冠作り』なんかを始めてしまう。



『……え、えぇ……っ』



どうも、この子達にとっては驚くような事ではないらしい。

日常茶飯事というか、見慣れた光景らしい。


なぜだか急に、ヤクザ者らしき不逞(ふてい)(やから)たむろ(・・・)する場所に殴り込んだのだが……。


しかもそれは、他国の工作員(スパイ)らしき特殊な()(ずみ)をした者が混じっている、敵対組織の非合法な隠れ家(アジト)らしいのだが……。



(―― なんでみんな、普通の顔してくつ(・・)ろいで(・・・)いるのよぉ~~っ!?)



私・エルナみたいな小心者からすれば、少年少女の豪胆さは理解不能な程だ。

むしろ、ちゃんと状況を理解しているのか、疑わしく思えるほどだ。



―― そうやって、私が落ち着きなくウロウロしていると、黒髪のお弟子さんが戻ってきた。



『フイィ~……、おまっとうさん。

 昼メシ前に、いい汗かいたぜ』



しかも、魔剣士でもない人間が、7~8人ほどの人間を鋼糸(ワイヤー)か何かでグルグル巻きにして、ズルズルと引っ張ってくる。



再度言おう。

―― 魔剣士でもない『未強化(なまみ)』の人間が、だ。

―― 7~8人ほどの気絶した大人をズルズル引っ張ってくる、のだ。

目の前の起こっている事が、まるで理解できない。


成人男性の体重が平均70~80kg(キロ)だとすれば、(ゆう)に500kg以上の重量をズルズルと引っ張ってきている事になる。

きゃしゃで小柄で、一見すれば少女然としている少年だけに、その体重の10倍くらいを引きずり回している事になる。


まるで現実味がない。

奇術(マジック)か何かとしか思えない。



『ぅ、ぅう……こ、これって夢……?』



私・エルナとしては、常識なんてモノを遙か彼方に投げ飛ばされた光景に、目眩(めまい)しかない。


すると隣から、まるでヤカンの蒸気が抜けるような吐息。



『―― フゥ~……ッ』



声の主は、私と同じメイド服の着た、()姉妹(しまい)にして上司のクリスタだ。

貴族の娘でありながら、幼い頃から武勇(ぶゆう)(たん)に憧れてきた彼女としては、街中に潜む他国の間者(スパイ)をあっさりと叩きのめす、この小柄な豪傑(ごうけつ)に感じ入るものがあったんだろう。



貴方(あなた)(さま)は、いつもこの様(・・・)な事(・・)を、されているのですか?』



クールな美貌のメイド騎士は、(つと)めて冷静な声を出す。

しかし、その表情はまるで『憧れの先輩の活躍に見入る士官学校の女子生徒』みたいだった。





▲ ▽ ▲ ▽



私・エルナにとって、『夢か幻か』と疑うような出来事は、まだまだ続く。


新米の弟子と紹介された少年少女2人が、常人とは違う姿形をしていたのだ。

彼ら2人が冒険者用の安物の鉄兜(ヘルム)を脱げば、そこに肉食獣の耳と、草食獣の角が生えていた。



『―― ……っ』



私・エルナは、

―― (まるで、おとぎ話に出てくる『人に化けた魔物』じゃない……っ)

と、恐ろしさ(・・・・)忌まわしさ(・・・・・)で、小さく身震いまでした。


何にせよ、このまま昼間の街中で話す状況ではない。

すぐさま、場所を冒険者ギルドへ、その貸し出し個室へ、と移す。

そこで語られたのは、私・エルナのような凡人の想像を(はる)かに()えた、驚愕(きょうがく)の事実。



『俺たちは ―― 俺とシゥイは「(とが)(たみ)」なんだ。

 北大陸の西側の、神王国の近くに先祖代々隠れ住んでいた……』


『隠れ里には、私達は「古代魔法文明の生き残り」だって、言い伝えがある……。

 本当かウソか知らないけど』



そのままの流れで同席させられた私・エルナと上司クリスタの2人は、

―― (古代魔法文明の生き残り!?)

と、驚きのあまり、思わず顔を見合わせた。


冒険者ギルドの防音処理がされた部屋とはいえ、驚きの声を抑えるのに必死だった。

すばやく二人で目配せして、窓が開いていなか、ドアが閉められているか、盗み聞きする気配がないか、と気を遣ったくらいだ。



―― つまり、『古代魔法文明の生き残り』が居た、というのはそれくらいの大事(だいじ)なんだ。


その事実が明らかにされれば、世界中を巻き込む戦争を引き起こしても、おかしくはない。

何故なら、古代文明の最盛期に比べたら、現代の魔導技術なんて『子供の玩具(おもちゃ)』程度の水準(レベル)なのだから。

彼らの身柄を欲しがる国や組織なんて、()いて()てる程に居るだろう。


有能な権力者や為政者(いせいしゃ)であれは、この少年少女の2人について、即座に存在の(・・・)抹殺(・・)を指示するかもしれない。


魔導技術の発展。

あるいは、古代魔導の再興。


それらは、魅惑(みわく)的を通り過ぎて、人間社会の滅亡原因にすら()()る劇薬だ。


なにせ、竜を支配する程の栄華を極めた古代魔導文明は、魔導技術が発展し(・・・)すぎた(・・・)せいで(・・・)滅んだ(・・・)、と伝えられているのだから。



私・エルナが、考え事をしていた内に、話が進んだらしい。



『そんな事言ってないでしょ! わたしはただぁ ――』



獣の耳を生やした少年と、獣の角を生やした少女は、にらみ合っていた。


私・エルナは、上司クリスタの合図を受けて、用意していたお茶を全員に配膳(はいぜん)する。



『―― まあまあ、お2人さん落ち着いて』



当然、飲んだり食べたりする瞬間というのは、会話が止まる。

話す声が止まれば、感情の起伏も多少落ち着く。

また会話の途中に別の事が挟まれば、話題の転換もしやすくなる。


こういった事を上手く利用して会談の流れをコントロールするのは、貴族にとっての必須技術だ。



―― それからの話は、……ごめんなさい。

あんまり思い出したくない、かな。


ただ聞いているだけでも悲鳴が出そうになるくらい、ひどくて、むごい話だった。


生きたままの人間を斬り刻み、魔物の肉体とつなぎ合わせ、強力な生命を作り出す。

そんな、古代魔導技術の伝承。

それが本当かどうか確認するために、神王国と<四彩>の『緑』(ウィデ)が行った人体実験。


それこそ、あの場に居合わせたのが『本当の侍女(メイド)』であれば、話の途中でトイレに駆け込んで戻して(・・・)いた(・・)くらいだろう。


領主騎士として魔物と戦い、時に仲間の重傷や死も見てきた私たち2人だって、話の凄惨(せいさん)さに青ざめたくらいだ。





▲ ▽ ▲ ▽



貴方(あなた)(さま)の意気込みはわかりました。義侠(ぎきょう)(しん)も』



そう感じ入る声で進言したのは、上司クリスタ。



―― 私達はようやく、お弟子さんたちが、あのおとぎ話に出てくる『人に化けた魔物』の様な姿をした少年少女を保護した理由が解った。


正義、だ。

人間として正しい行いと、仁義の心だ。

まさに、魔剣士の皇帝(ちょうてん)たる流派。


このお弟子さん2人は、まだ未熟で年若い少年少女に見えても、『活人剣』であり『人類守護の剣』たるべくして、魔剣士の正道を歩んでいるのだ。

例えそれが、どれ程に険しく、()しがたい、苦難の道であっても。



―― だからこそ、私の乳姉妹(ちしまい)・クリスタは諫言(かんげん)した。

着込んだメイド服が一層似合うような表情で。


彼ら剣帝流一門(いちもん)が、絶世の勇士であり、(いばら)の道と知りながらも正道を突き進む、騎士として敬意をもって礼を示すに相応(ふさわ)しい相手だと解ったから。


だからこそ、(いさ)めるような言葉を、あえて口にする。

熱く血をたぎらせる義挙(ぎきょ)の空気に、冷たい正論を投げかける。



『しかし、相手は大陸の反対にある遠方の国。

 一体どうなさるのですか?』



一介の騎士として、上司クリスタはこう問いかけた。


もはや、個人でどうにかなる問題の程度(レベル)ではない。

国家なり、組織なり、大きな権力と金銭による後ろ盾が必要となる。


いくら『剣帝流』が、時の皇帝陛下に寵愛を受けた帝国第一の流派だとしても、それだけ(・・・・)で国家の方針を動かすのは難しい。

いや、はっきりと、それだけ(・・・・)では無理だ。


熱い想いのままに駆け出したとしても、すぐに断崖絶壁にぶち当たる。

無数の問題が浮かび上がり、熱意だけではどうにもならず手詰(てづ)まりとなる。



―― だから、何かしらの方策はあるのですか?、と。



『大丈夫だって。

 俺だって、ちょっとは考えるんだからっ』



黒髪の男の子から返ってきたのは、軽い答え。

少し、大丈夫かな?、と不安になるくらい、あっけらかんとした声だった。


そして、銀髪の女の子は、私・エルナが描き始めていた簡易な地図をのぞき込んでくる。



『神王国ってどこにありますの? よく聞きますけど……』



そうだよねー、と思いながらも軽く説明する。

大陸の反対側にある国なんて関わりがなさ過ぎて、士官学校の生徒さんでもうろ覚えだろう。



『えーっと、北大陸の反対側なので……、だいたいこの辺ですね。

 ここが帝国で、これが ……――』



だから、現実がよく解るように、細かな日数を言って聞かせる。

彼らが、いかに難しく簡単ではない選択をしているのか、それがはっきりと自覚できるように、詳細な旅路を示してあげる。


私たちには、私たちの仕事があり役目がある。

だから、彼らを(その行動と目的が、いかに正しく立派な事であっても)手伝う訳にはいかない。


私たちに出来る手助けといえば、まだ若く未熟な彼らに、大人として厳しいながらも忠告をしてあげる事くらい。



―― しかし、私・エルナは、まだまだ、まるで解っていなかった。


この黒髪の男の子と、銀髪の女の子。

『剣帝流』のお弟子さん2人が、どれ程に常識外で規格外なのか。





▲ ▽ ▲ ▽



そう、簡単(・・)な事だった。


帝国に密やかに侵入している他国の工作員(スパイ)が居るなら、彼らに問いただせば良い ――

 ―― ただ(・・)それだけ(・・・・)、なんだから。


そして、彼らから『侵入の方法』を奪い取れば良い ――

 ―― ただ(・・)それだけ(・・・・)、なんだから。


あまりに簡単(・・)な方策だ。

簡潔で、明解で、確実な方策だ。



―― もしも(・・・)それが(・・・)本当に(・・・)できる(・・・)ので(・・)あれば(・・・)



一般人に紛れ込んでいる工作員(スパイ)を見つけ出す?

そして、警戒して潜んでいる隠れ家(アジト)を探し出す?

さらに、密入国の手段という敵の機密情報を聞き出す?


そんな事が今すぐできるなら、誰が苦労するものか。

領地を守る騎士や、治安維持の衛兵が、年単位でする仕事だ。

莫大な人員と時間がかかって、はじめて達成する、一大成果だ。



(そんなデタラメな事を、本当に簡単(・・)にやらないでよぉ~~!?)



つまり、本職の工作員(スパイ)が待ち構える隠れ家まで、簡単(・・)に見付けだすだなんて。

さらに、暗殺術を(おさ)めた魔剣士数人を、簡単(・・)に叩きのめすだなんて。

その上、密入国の手段である『大型の鳥型魔物』を奪い取り、簡単(・・)に従えるだなんて。


あまりに簡単(・・)に、その日の内に『神王国』へ向けて出発するなんて。



(そんなムチャクチャな事なんて、普通の人間に想像できる訳ないじゃない!?)



人助けにせよ。

悪党退治にせよ。

圧倒的な武力にせよ。


もはや、英雄的、ではない。

英雄、そのものなのだ。


帝国(・・)最強(・・)流派(・・)『剣帝流』。

その言葉の意味を、思い知らされた。




―― その、あまりに『簡単(・・)』に常識外れを繰り返す『英雄』の()(さま)をすぐ(そば)で見たのが、悪かったのかもしれない……。



「―― ああ! ああぁ~~……っ!!

 さすがは、我が殿方(キミ)っ! 身も心も全て捧げて、お仕えいたしますぅっ!!」


「………………」

(……もうダメだ、この乳姉(アネ)。 どこかに飛んでイっちゃってる……っ)



メイド服姿の主家(ウチ)令嬢クリスカ(おヒメさま)

なんか、熱湯風呂から上がったばかりみたいなピンク色の顔して、内股でモジモジしながら、おかしな事を口走っていた……。


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