267:七ツ胴
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、そんなワケで<金鉱島>に潜んでいた神王国の工作員どもから、飛行移動の手段を強制徴収。
つまり、工作員どもが北大陸の反対からこの帝国周辺まで飛んで来ていた移動手段である、大型の鳥型魔物<雷雲巨鷹>を3匹ゲットしたワケだ。
それに、新妹弟子・羊ツノ少女の『お友達』ルゥキを足した鳥型魔物4匹で、北大陸の西側諸国方面へ向けて、いざ出発。
航空路線『帝国発→神王国着』のチャーター便みたいなモンである。
―― しかし、準備に手間取り、出発したのが昼過ぎなだけに、早くも夕暮れの時刻。
「うわぁ~、だいぶん暗くなってきたなぁ!」
「ええ、お兄様! 日没までに山脈を抜けるか微妙ですわね!!」
俺と銀髪の妹弟子アゼリアは、強風の音に負けない様に声を張り上げて会話する。
同じ鳥型魔物に乗っている者同士でも声が聞こえないくらいの、ビュービューという風の音だ。
いくら空の上とはいえ、この異世界での夜間移動はかなり危険だ。
荷物を背負って飛びっぱなしな鳥型魔物たちの疲労やスタミナも心配だ。
俺たち人間の夕食とか睡眠とかの休憩も必要だ。
とりあえず、近くに森か平原でもあれば、夕食と野宿の準備をしたいところだ。
(とは言っても、こんな山岳地帯じゃ野宿はできないし……)
人里はムリとしても、着地するのは『人間の国の国境の中』でないと困る。
何故なら、『国境の外』というのは、ガチでヤベー人外魔境。
魔物がヤバすぎたり、植物や地形とかの自然環境がヤバすぎたりで、人間が生きていけない場所が大半。
(例えば、北大陸のど真ん中にあり、土地の80%を占める<アートルム大砂丘>とかなぁ……。
なんか聞いた話では、人間や動物どころか、強力な魔物ですら、長居していると魔力を吸い取られて死ぬらしい……)
地面を移動するのはモチロン、上空を飛んで移動するのも危ない。
(なんか空から調査に行って死んだ例がそこそこあるらしい……。怖ッ)
そういった事情から<アートルム大砂丘>を通るのが『大陸を真横に横断する』のが最短ルートなんだが、誰も近づかない。
魔物すら近づかない。鳥や虫すらほとんど居ない。
はるか上空(雲の高さ)をユラユラ流れてる、例の超々々々巨大生物<雲龍>くらいだ。あの激ヤバ地形を横断できるの。
こうやって、大陸ど真ん中にあるヤベー『地形トラップ地帯』を避けた、南回りの迂回ルートで飛行しているワケだ。
―― ヒュ~♪ さすがはファンタジー世界パイセンッ!
―― 魔法とか魔力があるだけあって、起こる厄災すら予想外!
―― 異世界(笑)ファンタジー(呆)っぷりが、ガチ半端ねーぜ!
(ほっっっんと、このクソ世界はぁ! 早く滅びればいいのに!!)
兄弟子、ウンザリしすぎて気が滅入っちゃう。
▲ ▽ ▲ ▽
ビュービューと鳴り続ける、飛行の風切り音。
時速200kmとか300kmとかで高速飛行中だが、あまり変化のない風景。
小高い山の雪景色に夕日が映えてキレーだなー、という感動も最初だけ。
「………………」
そういう退屈な状況がずっと続くと、うっかり関係ない事を考え込んでしまう。
前世ニッポンでいえば、通学路で自転車こいでる時や、会社の営業車で運転する時に、ボンヤリ意識半分で考え事をするみたいな感じだ。
(なんか、この鳥型魔物の背中につけた鞍(?)というか、鉄柵付きの座席って。
ちょっと、前世ニッポンの国技、スモー会場の1等席『升席』みたいな感じだな?
ちょうどタタミ2枚分くらいありそうな広さだし)
そんな事に気付くと、
―― (どうしてスモーの勝敗はギャンブルにしないんだろうか、儲かりそうなのに……)とか。
―― (実はヤクザ者が裏で『スモー賭博』してるのかな? コーシエンの『野球賭博』みたいに……)とか。
―― (そう言えばなんか……。 野球賭博でヤクザとモメて会社に迷惑かけてた上司がいたな……)とか。
―― (たしか『100倍以上の大穴を当てたのに、ちゃんと払い戻しされなかった』みたいな話だったっけ?)とか。
―― (ケッ、コレだからヤクザ者は……。カネは取るのに払わないとか、どうしようもないカスだなっ)とか。
―― (やはり違法ギャンブルはクソ! ギャンブルの運営は公正明大な国営企業に限るなっ)とか。
色々と思考がとっ散らかる。
(やはりJR▲! JR▲しか勝たん!)
そんな事を考えていると、頭の中に例のファンファーレが流れ始めた。
―― ♪パァ~ッ パラ~ッ パラァ~ッ パパパァ~!
―― (脳内アナウンス)8番ハ■ボテ■レジー! 第1コーナーにさしかかるぅっ
「まがれぇ~~~! ハ■ボテぇ~~!!」
「―― ん? ハリ■テ……?
お兄様、今なにか言いましたの?」
俺が思わず奇声ったというか、野次ったというか ――
―― ともかく、思わず大声を上げたら、隣で女の子座りするアゼリアにまで聞こえたらしい。
「いや、リアちゃん何でもないんだ。
気にしないで」
「……?」
夕日の赤い光に銀髪を染める美少女魔剣士さん(美麗すぎて雪の妖精さんかな!?)が、可愛らしく小首を傾げた。
そんな妹弟子から視線を外して、再び思考の中に没入する。
(……しかし。
なんか色々と思い出してみたら、前世ニッポンもロクでもない連中が多かったな)
今までは、なんかキラキラでステキ印象があった、倫理観バツグンの科学万能ワールド・前世ニッポン。
俺は、ちょっとホームシックだったんだろう。
あるいは、故郷(前世の!)懐かしさというか、ひいき目というか、思い出補正というか……。
そういう虚像がハガれてくると、色々とザンネンな実像が思い出されてくる。
▲ ▽ ▲ ▽
(例えば、俺の主戦場だったゲームセンターだって、マナーの悪い客がゴロゴロいたし……)
対戦台で負けた腹いせに、怒鳴る、台を殴る、台を蹴る。
それくらい、まだカワイイ方だ。
―― 俺の少年期・青年期のショーワ後期からヘーセイ中期なんて、まだまだ禁煙・分煙がすすんでない頃。
街中そこら中、いやそれどころか屋内どこでも、普通の店舗内や公共施設、さらにはバスや電車みたいな公共交通機関の中でも、喫煙OK!
あちこちにタバコの灰皿が置かれていて、街中にスパスパとタバコの煙が充満してたワケだ。
だから、タバコがらみのトラブルがいくらでもあった。
吸い殻、タバコ灰どころか、ヤニの混じったツバを地面や、床に吐き捨てる(もちろんマナー違反! 店員に注意される)くらい、日常茶飯事。
ゲームセンターの画面やボタンを、タバコの火でジュッとやって焼きあとを付けたり(もちろん器物破損! 犯罪です!)。
脱衣マージャン台で負けて悔しいからって(相手はプログラム!)、画面の上に灰皿ひっくり返したり。
クレーンゲームの景品が取れなかったからって、コイン投入口にタバコの吸い殻押し込んでいたり。
そういう、マナー最低な汚客だって、いくらでも居た。
(それこそ、前世ニッポンの競馬場とか行くと、タバコと酒のゴミが散乱。
レース中は中年オッサンのヤジばっかりだったからな……)
俺がさっき叫んだ『まがれぇ~~~! ハ■ボテぇ~~!!』とかくらい、声援とか応援の部類。
全然、まだまだ、だ。
あんなのカワイイもんよ。
『カネかえせー!』『下手くそ』『競馬やめろ!』『XXXX死んじまえ!』『馬肉になっちまえ!』
ヤジというか、罵声というか。
あと、外れた馬券を客席に投げ捨てて帰る、負けた時の悪しき習性とか。
そもそも、ガンバって走ってる動物相手に怒鳴ってどうすんだよ……、という残念な感じというか。
客層の外見以上に、性根の小汚さが半端なかった。
―― そう言えば、思い出した。
なんか、前世ニッポンの会社勤めの時に、
『俺も好景気の時に生まれていれば……っ』
とか、やたらと言ってた、若手というか後輩が居たけど ――
(―― あの頃特有の、ニッポン全般の『小汚さ』には耐えられないだろうなぁ。
アイツ、割と潔癖だったし……)
ゴキブリやネズミを見たくらいで大騒ぎする、イケメン気味の男性後輩の腰の引けた感じを思い出して、ちょっと苦笑。
―― 人間は、手の届かない幻想に憧れ、それが現実になったら幻滅する。
(そう考えると、今の俺も『格闘ゲームのあった素晴らしいニッポン!』という、決して戻れない前世世界を幻想として祭り上げ、いつの間にか囚われていたワケか……)
空を飛びながら見る、絶景の夕日のせいだろうか。
郷愁と、夢やぶれた空しさみたいな感傷が湧き上がり、うっすら視界を滲ませる。
(まああの頃のニッポンって、先進国というより途上国だったからな。
公衆トイレとかも不衛生で、中華の端の観光地とか行くと、たまにそういう雰囲気で思い出すよな~)
▲ ▽ ▲ ▽
そんな事をボンヤリ考えていると、景色が変わる。
空気も変わる。
防寒防風のマントを羽織っていても、空気が斬りつけるように冷たくなる。
―― 壁のように広がる大きな山脈を越えるため、鳥型魔物たちが、いっせいに上昇し始めたのだ。
すると、さっき思い出してた前世世界の中華の観光地を思わせる光景が目に入る。
「おっ、山の途中に、なんか長い城壁みたいなのがある……?
え、万里の長城?」
俺の前世世界の世界遺産にも似た、不思議な建築物だ。
山脈の中心にある一番高い山の表面に、城壁(?)みたいな物がグルグルとラセン状に登っている。
結構離れた所から見てもハッキリ解るくらいのデコボコなんで、人の背丈の数倍はありそうだ。
いや、よく見たら石造りというより、砂とか岩とかを盛り上げた感じか?
大きな塹壕みたいな感じなのかもしれない。
砂と岩の盛り上がりが、小高い山の中腹からグルグルと巻き付くように登り上がっている。
山を含めた全体の形状は、ネジ山のギザギザ部分みたいな感じというか、ドリルの回転刃の部分というか。
―― おい、そこ! ウ●コ(笑)とか言わない!
「なんか、山の頂上にもスゲー物が建ってるなぁ……」
塹壕だか城壁だかが、ラセン状に登り上がった先にある、一番高い山の頂上付近には、さらに巨大な構造物がドーンと居座っている。
白い雪をかぶって半分白くなったソレは、巨大な『城門の装飾』に見えた。
山城の入り口に、権威をあらわす巨大彫刻を付けているのかもしれない。
その巨大彫刻は、ちょっとメガネワニに似た『ブサイクな竜の頭』だ。
魔除け的な意味なのか、あるいは実際に鳥型魔物を追い払うためなのか、大口を開けた威嚇の表情をしている。
(もしやコレって本当に、『万里の長城』と同じような目的で作られた構造物なワケ?)
なお、前世世界の中華の世界遺産である『万里の長城』の建造目的は『外敵を防ぐための防壁』だ。
その中の人達が安心して暮らせるための、防衛施設だったはずだ。
(となると……、こんなヘンピな場所にわざわざ住んでる人がいるワケ?)
え、マジ?
こんな人外魔境みたいな場所に住んでる人が居るの?
ってか、山の頂上付近にわざわざ城をつくるとか、本格的にバカじゃね?
どこの国の人間だか解らんけども、この世界の常識とか知らんのか、コイツら?
兄弟子、呆れのため息。
―― あ、そういえば“““君ら”””にも説明した事なかった、かな?
この異世界ファンタジーって、空飛んでる巨大魔物がウヨウヨ居るから、空に近い場所って危ないんだよ。
ほら、俺たちが今乗ってる鳥型魔物<雷雲巨鷹>とか、セスナ機くらいデカいし?
さらには、そんな鳥型魔物がマメ粒に思えるくらいデカい、<雲龍>とかいうワケの分からん超々々々・巨大生物が雲と一緒に漂っているし。
だから、前世ニッポンではよくあった『高い場所から見下ろすエライ人』とか皆無。
砦や見張り台みたいな高い建物の上に登るとか、<空飛ぶ駒>みたいな<魔導具>を使うってのは、鍛えられた軍人さん達が活躍する命懸けの任務。
(一応、【飛翔】とか【浮遊】とか空飛ぶ系の魔法がある世界だけど、『高い所に上るのはバカと煙だけ』という価値観なんだよなー……)
しかも、この山脈は高度が高いせいか、ほとんど木が生えていない、ゴツゴツした岩山。
つまり、人間より大きな鳥型魔物に襲われても、隠れてやり過ごすための『森』や『林』が無いワケだ。
(そのために、逃げ隠れする塹壕みたいなの掘ってるのか……?
いや、ある意味、山頂から麓までを行き来する『砂と岩のトンネル』みたいな感じなのかな……?)
俺は、小高い山にラセン状になっている、砂色ウ●コの巻き巻きみたいな物の正体に、察しが付いた。
「なんてムダな労力を……。
そこまでして、こんなヘンピな場所に住む理由あるか?」
思わず、そんなボヤキが漏れちゃう。
▲ ▽ ▲ ▽
―― すると、左の鳥型魔物の方が騒がしくなる。
うん?、と見てみると、<雷雲巨鷹>乗ってるメイド騎士さん達がバタバタしてた。
『うそうそうそぉ!』
『もしや、あの<ラーウス山脈>へ迷いこんでしまった!?』
ビュービューとうるさい風の合間に、意味深なセリフがいくつも聞こえて来た。
しかし、それをたしかめる前に、視界の端で何かが動く。
なんか大きな岩が転がった?、気が……?
いや、山肌が、ズゴゴォ……という感じで土砂崩れ?
「ん…?」
アレ、なんか、今……。
巨大な『城門』? 巨大な『装飾』?
あの山頂にある……、メガネワニみたいな『不細工な竜の頭』も……、動いた……?
それが俺の気のせいではない証拠が、隣にある。
「―― …………っ」
右の席に座る妹弟子がピリピリと緊迫の表情で、息を潜めている。
完全に、息を殺して『敵』の動きに注視する、魔物退治の時の表情。
すると、また左の方からメイド騎士さん達の悲鳴が聞こえてくる。
『マズい、近づき過ぎたんだ!
眠っていた「七ツ胴」に感づかれたっ』
『やっぱり<ラーウス山脈>!
<台地央国>の隣とか、ここ「堕とし仔の巣窟」じゃない!? もおヤダぁ~!!』
「…………」
俺は、今さらながら、魔力センサーのオリジナル魔法【序の四段目:風鈴眼】を自力詠唱。
すると、今までは森の植物くらいに魔力反応が薄かったため構造物か自然物と思ってた『砂と岩の盛り上がり』から、魔力の光が強く輝き始めた、
さらに、ズズズズ……と、ヘビの様に動き始める。
「……………………」
山頂にある、メガネワニみたいな『ブサイクな竜の頭』。
俺が巨大な竜頭を見て、『城門の装飾』だと判断した理由は、そのサイズ感。
1~2km離れた所から見てもハッキリ解るそれは、おそらく縦に20m、横に30m程はありそう。
それが生物だとは思わないサイズ感だ。
それに、生命として希薄すぎるくらい魔力反応がない。
せいぜい、植物並みのうっすらとした魔力だ。
だから、構造物を素材である何かしらの錬金素材か、構造物内部に置かれた<魔導具>の魔力反応なんだろう、と決めつけていた。
「…………………………………………」
ソレが竜頭を持ち上げ、大きく裂けた口を開く ――
―― 豪ッ!と、空気が破裂するような咆哮が夕空に広がる。
ビリビリビリィ……ッ!と、あらゆる物が震える。
そして、人間も鳥型魔物も、全て動きを止めた。
時間すら止まった ―― そんな気がした。
── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!
── ちょうせんしゃ あらわるっ!?
「……ぉ、おぅ……」
―― 兄弟子、さすがに絶句。
///////!作者注釈!///////
2026/05/08 乱入メッセージ表示が抜けてたので追加しました(超大事な事)




