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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)~  作者: 宮間
Round 10.1/空中ステージ

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249:新たなる神話

私・エルナ=バイヤーの乳姉妹でもある、主家令嬢クリスタ=イルクナーは、少し変わった女性だった。


幼少の頃から、おまま(・・・)ごと(・・)より武術の稽古(けいこ)を好み、華麗なドレスより無骨な武具に見とれ、色恋話より英雄譚(えいゆうたん)にときめく様な、男の子のような趣味・嗜好の持ち主だった。


だから、『剣帝流』のお弟子さん達がする英雄的行為に、ひと一倍感動したのは理解できる。



―― だが、今現在、私・エルナまで鳥型魔物の背に乗っている事に、まるで納得がいかない。



「ねーさんの、バカァ~……っ」



私・エルナは、うるさい風の音に紛れるように、何度目かの乳姉妹(クリスタ)への文句をこぼす。



だから(・・・)って、私まで巻き込まないでよぉ……っ」



―― まったく理不尽すぎるよ。


何故(・・)か上司クリスタが同行する決意をして、何故(・・)か自分・エルナがそれに巻き込まれたんだもん。


本当に、『何故?』、『何故?』、だよ。


その理由を問いただしても

―― 『仕方ないだろう。剣帝流にお仕えする事が、我々の任務だろう?』

とか、意味不明な返答しか返ってこないし。


いくら部下(ワタシ)が、

―― 『違うでしょ!』

―― 『剣帝流道場 ―― じゃなかった、興武館(こうぶかん)の運営のお手伝いだよね!?』

―― 『そう(・・)いうの(・・・)に不慣れな、剣帝のおじいちゃんを補佐(サポート)する事が任務だったよね!?』

と、何度言っても何回抗議しても、まるで聞き入れてくれない。



「やだよぉ……、せっかく<帝都>に帰れると思ったのにぃ……。

 実家(おうち)、帰りたいよぉ……」



私は鼻をすすりながら、なんとなく手元の地図に目を落とす。


出発がきまった後にあわてて購入した、北大陸全体が描かれた簡易な(・・・)地図(・・)だ。

冒険者ギルドが、他国へ移動して仕事を()()う冒険者のために売っている、簡易化(・・・)された(・・・)周辺国家の見取り図の様なものだ。


それには、帝国の<金鉱島(ゴルドアイル)>を出発して神王国へ到着するまでの予定進路が、赤矢印で書き込んである。



「―― ん……? あれ、これって……?」



そう、簡易化(・・・)された(・・・)地図(・・)だから、すぐに気づけなかった。



「あれ……、なんか……。

 日没の位置と、目印の山の位置が、ズレてない?」



気づけば、ゾッと血の気が引く。

慌てて地図にかぶりつく。


目印にしていた山が、別の山だったとすれば、今現在、私たちはどこを飛んでいるの!?



(迷った!? ううん、それくらいなら、まだ良いよ。 もしも、進路が北に寄りすぎているとしたらっ)



私・エルナは半ば確信をもって、地図と進路を見直す。

そして、右隣の座席に居る上司の袖を、何度も引っ張った。



「ねーさん! ねーさん! ねーさん!」


「なんだ! 急に!? どうした!」



すると、上司クリスタは私の普通ではない様子に気付いた。

空を飛ぶ音がうるさくて会話しづらいから、話がしやすい様に上半身だけ身体を寄せてくる。



「まずい! まずいよ、ねーさん!」


「だから! どうした!?」


「さっき鳥型魔物(この子たち)が雨雲に突っ込もうとして、何度も方向転換したよね!」


「ああ! それで! 結論を言え!」


「進路、間違えてるぅ! あの目印の山、藩王国の山脈じゃない!」


「なんだと!?」


「あれ! 多分、もっと北! 私たち多分、北にずれ(・・)てる(・・)!」


「待て! 『もっと(・・・)()』だと!? この山岳地帯は、まさか ――」


「―― うん多分、台地央国の方へ向かってる!」

 

「台地央国に隣接する山脈! まさか、ここは<ラーウス山脈>か!?」


「早く進路変こぉ ――」



私・エルナがそう言いかけた瞬間、ガクン…ッと身体が傾いた。

籠形(かご)座席の鉄柵(フェンス)に捕まっていないと振り落とされそうなくらいの傾斜で、急上昇をしている。


何も(・・)知らない(・・・・)鳥型魔物たちが山越えの風に乗って、山脈の上を目指し始めたのだ。





▲ ▽ ▲ ▽



(うわわわぁ……っ。 まずい! まずいよぉっ)



私・エルナは、激しい動きに声をあげられる状況じゃなくて、内心で悲鳴をあげる。



(日の高い頃に何度も方向転換したから、いつの間にか向かう方向を間違えちゃったんだっ。

 よりによって、<ラーウス山脈>の方へ……!?)





―― 世界最大の存在であり、遥か上空を渡り続ける<雲龍(うんりゅう)>は5種5体が存在する。


―― その<雲龍>5体のいくつか(・・・・)は数百年ごとに()を産み落とす、といわれている。





「くっ! このぉ……っ」



横の席では上司クリスタが手綱(たずな)を引いていた。

なんとか鳥型魔物を右隣の個体(つまりは剣帝流のお弟子さん達の方)に寄せようとしているが、今ひとつ上手くいっていない。





―― <雲龍>は超絶の『個』であるせいか、自身の()すら(かえり)みない。


―― (ゆえ)に産み落とされた()はこう呼ばれる、『()とし()』と。





私・エルナと上司クリスタが、そうこうしている内に、最悪の状況に直面する。


<ラーウス山脈>の中央にある三角岳(さんかくだけ)

それに長大な巨体を巻き付けた格好で、休眠している災厄的(・・・)存在(・・)

その瞳を守る瞬膜(しゅんまく)が開き、瞳孔が広がって、目の色が鮮やかに変わる。



(動いた……っ。

 まさか、目覚めたの……!?)



私・エルナは恐怖のあまり、言葉どころか息すら出ない。





―― 当然の事として、親の庇護(ひご)なく産み落とされた()の命は長くはない。


―― 満足に知恵も能力も育たないまま、飢えに狂って地上を食い荒らし、やがて空高くへ(かえ)る事なく死に絶える。


―― しかし運が強いのか、長く生き延びる()(まれ)にいた。





ズ・ズ・ズ・ズ……ッ、と城壁じみた巨大な蛇身が動き始める。

そして、城門の様な巨大な頭部が持ち上がる。


すると、右隣から上司クリスタの悲鳴が聞こえてくる。



「マズい、近づき過ぎたんだ!

 眠って(・・・)いた(・・)七ツ胴(ななつどう)』に感づかれたっ」





―― 生まれ落ちて約150年の間、北大陸を縦断する<ラーウス山脈>を根城としている『()とし()』。


―― ソレ(・・)は、頭の先から前腕までを『頭首(くび)』とすると、その(なな)(ぶん)ほど前腕から下の『胴』が長い事から、『七ツ胴(ななつどう)』とも呼ばれる。





つられるように、私・エルナも悲鳴をあげた。



「やっぱり<ラーウス山脈>!

 台地央国の隣とか、ここ『()とし()巣窟(そうくつ)』じゃない!? もおヤダぁ~!!」





▲ ▽ ▲ ▽



北大陸を縦断する<ラーウス山脈>の主・『七ツ胴(ななつどう)』。


ソレ(・・)にとって、今までの休眠状態は、一種の仮死状態だったのかもしれない。


クマやヘビが冬越しするためにする『冬眠』の様に、極限まで生命活動を抑えていたのだろう。

パッと見た目では、長大で巨大な人工構造物(タテモノ)と勘違いしそうな竜体(カラダ)に莫大な魔力がみなぎり始めた。


私・エルナは、その魔力の光の強さに、思わず顔を引きつらせる。

まるで、日暮れを前に松明(たいまつ)が列をなして(とも)される様な光景。

魔力感知能力の『第三の目(サードアイ)』ではなく、普通の目ではっきり光を感じる。

それ(・・)程に(・・)、すさまじい魔力の量だ。



「ひぃ……っ」



その長大で巨大な竜体(カラダ)を内側から輝かせる魔力量は、領主騎士という<()(かん)(ゆる)し>の魔剣士であっても数万人分に相当するだろう。

脅威力5の大型魔物と比べても数千倍以上、そんな桁外れの魔力量まで(ふく)れ上がっていく。



すると、右隣の上司クリスタが、呆然とした声を漏らした。



「これが、生きて(・・・)いる(・・)()とし()』……っ。

 ここまでの存在かっ!?」



こうなれば、凡人であっても、魔剣士であっても、あるいは強大な魔物であっても、同じだろう。

どんな存在(モノ)でも、この圧倒的な存在と格の(・・)違い(・・)を理解させられる。


だから、私たちの下も(・・)、ビクリと地震のように揺れた。

大人(おとな)の人間でもひと呑み(・・・・)という、この巨大な鳥型魔物でも、その視線を受けただけで身震いしたみたいだ。


どちらも魔物だとしても、あまりに体格が違いすぎるのだから、仕方ないよね。

まるで、小鳥の雛の巣に、大蛇が侵入して大口を開けているような物なんだから。


何者であっても背を向けて一目散に逃げ出すような、死の化身が目を覚まし、鎌首を持ち上げているんだから。



『―― グゥラアアァ~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!』



超大な巨竜の咆哮(ほうこう)が夕空を震わせた。

それは、もはや音というより、爆圧に近い。

ビリビリビリィ……ッ!と、あらゆる物が震えた。


私たち、空にいる全てを金縛りにする。

人間も鳥型魔物も、全て動きを止めた。

騎乗している鳥型魔物<雷雲巨鷹(サンダーバード)>の羽ばたきが止まったせいか、ゴウゴウとうなっていた風の音すら止まっている。


だから、時間すら止まった ―― そんな錯覚すら覚えた。





『―― リアが一番槍ですわぁ~~~~~! トリャァ~~~~!!』





「……は?」「……え?」



思わず、右隣の上司と声がそろった。

…………なんか、いま、飛んで、いった?


山の頂にある城門のような、超巨大なワニの様な顔面が、慌てたように左に動く。



―― まるで(・・・)思い(・・)がけず(・・・)顔に(・・)飛んで(・・・)きた(・・)石弾か(・・・)何か(・・)()避けた(・・・)様に(・・)!?



「……は、はいぃ?」「……な、なんだ今のは?」



私・エルナと上司クリスタが、顔を見合わせる。


そして、20m以上ありそうなワニの様な顔面が、『なんだ今の?』とばかりに後ろへ振り返る。



『……ガァッッッ!?

 ―― オオォ~~ッッッ!!』



怒りのような声が、また大気を震わせる。

超巨大な鎌首を振り回わされ、大きく竜顎(あぎと)をあけて山肌に()みついた。

ゴゴゴォ……ッ、と局所的な土砂崩れが起きる。



「え、何……?」


「……なんだ、いったい何が起きている?」



私・エルナと上司クリスタは、困惑しながらも声をひそめて話し合う。


いや正確には、()とし()七ツ胴(ななつどう)』は、ヘビの様に長い自身の胴体の途中に()みついたみたい。


まるで、意味が解らない。


さらに、何度も何度も、場所を変えて自身の胴体に噛みつき続ける。

そして、その度に、ゴゴゴォ……ッ、ズドドォ……ッ、と山の表面で小さな土砂崩れがいくつも発生する。



「何? いったい何なのっ」


「わからんっ、だが今がチャンスだ。

 何か(・・)に気を取られている内に、少しでも離れようっ」


「そ、そうね! 逃げ出すチャンスよっ」



私たちの間でそんな風に話がまとまる。

上司クリスタが鳥型魔物の首元につながる手綱(たづな)を引いて、動くように指示を始める。





▲ ▽ ▲ ▽



騎乗している鳥型魔物が、ようやく正気にかえったのか、バタバタと翼を動かし始めた。


その瞬間、思わずビクッとする程に大きな声。



―― 『おい、コレ持っとけ!』



男の子の声と同時に、私・エルナの元へと何かが飛んできた。


慌てて受け取ると、それは(さや)に入った<短剣(ナイフ)>。

木製の鞘に付いたベルト通し用の金具輪(リング)には、細い鋼糸(ワイヤー)が通されている。



「―― え、何これ?」



そんな私・エルナの疑問に、何故か(・・・)手元から男の子の声が響いて、答える。



『ソレ、絶対に(はな)すなよ!

 あと、落ちないように、座席のフェンスにしがみついておけ!』



年下の男の子からの、有無を言わさぬ強い口調の指示だった。

私・エルナが言われるままに従うと、またも空気が震えた。



『―― グオオォ~~~~~ッッッ!!』



山脈中央の高い山に居座った()とし()七ツ胴(ななつどう)』が、苦しむように頭を振り回し、最後に頭を跳ね上げた。


ブォン……!という音が響いて、何か(・・)がこちらに飛んでくる。

ソレ(・・)をクモの巣? ―― あるいは、投げ網? ―― みたいな物が広がり、空中でキャッチする。


途端に、私・エルナが持たされていた<短剣(ナイフ)>が、グンッ!と引っ張られる。

言われるまま座席横の鉄柵(フェンス)にしがみついてないと、そのまま落下するくらいの勢いだった。



「ビ、ビックリしたぁ……っ」



手元から伸びる細い鋼糸(ワイヤー)の先を目で辿(たど)れば、剣帝様のお弟子さん2人が乗る、右手の鳥型魔物<雷雲巨鷹(サンダーバード)>へと繋がっている。


さらに、もう1組が乗る鳥型魔物(たしかルゥキという名前のちょっと違った種類)との間にも、細い鋼糸(ワイヤー)が伸びている様だ。



「なん、だったの……?」



私・エルナの疑問に答える様に、黒髪のお弟子さんはシュルシュルと細い鋼糸(ワイヤー)を巻き上げている。

そして最後に、銀髪の女の子を魔物の騎乗用座席まで引き(・・)上げた(・・・)



「―― はぁっ!?」


「まさか!!?

 あの子が飛んでいったの!? 『七ツ胴(ななつどう)』の所まで!!」



黒髪のお弟子さんが急に始めた、(なぞ)の作業。

その内容が、うっすらと予想がついて、冷や汗が出る。


―― 銀髪の子が、魔物へと突撃

―― 噛みつき攻撃を(かわ)しながら、胴体をあちこち攻撃

―― 最後に巨大な頭に張り付くが、魔物が頭を振った事で投げ飛ばされた


―― そして、黒髪の子は、投げ飛ばされた少女を回収するために、鋼糸(ワイヤー)の投げ網を使った


私・エルナは、ゾワゾワゾワァ……ッ、と鳥肌が立つ。

隣に見る上司クリスタの横顔は、血の気が引いて青白いくらいだ。



「うそでしょ……っ」


「あの子たち、正気なの……っ」



それは、もはや勇敢どころか、蛮勇を超えて、無謀に近い。

例えば、竜巻。

例えば、雪崩。

例えば、火山の噴火。

そういう自然の脅威に対して、突撃している事に等しい。


七ツ胴(ななつどう)』とは、<雲龍(うんりゅう)>の『()とし()』とは、そういう(・・・・)存在なのだから。





▲ ▽ ▲ ▽



『リアちゃん、ああいうのに一人で向かって行くの、やめような?』


『でもお兄様! 鳥さん達を食べようとした、悪い子ですわよ?』



この細い鋼糸(ワイヤー)を伝っているのか、黒髪少年と銀髪少女のやりとりが手元から聞こえてくる。



『それに、大した装甲ではありませんでしたわ!

 ジャ……………ァデンのトカゲに比べたら、柔らかいですわよ?

 時間をかけたら、リアひとりでも、なんとかなりそうでしたわ!』


『―― うん、今さっき、大ピンチを兄ちゃんに助けられたの忘れてるね?』


『妹ちゃんを助けるのは、お兄様の役目ですので!』


『まあ、ともかく。

 今は退治するヒマないし、もうそろそろ日も暮れるし、先に行くよ?』


『見た事のない珍しい魔物でしたのにぃ……。

 狩れないのは残念ですわ~』


『まあ、帰りがけにヒマだったら寄ろう。

 それより、リアちゃんの2年生の新学期に間に合うか、の方が心配だけどな』



私・エルナにとっては、

―― (これって幻聴じゃないの……?)

と疑うほどに異常な会話だった。


隣席の上司クリスタも同じような感想らしく、震える声でなんとか絞り出す。



「い、意味が、わからない……」


「うん……そうだね……」



まずもって、『珍しい魔物だから(・・・)狩る』という考えが理解できない。

魔物退治を専門とする冒険者だって、そんな異常な考えをしている者は居ないはずだ。


基本的に、人間よりも魔物の方がはるかに強い。

だからこそ、人間は知恵と技術を使わなければならない。

魔物の種族ごとの習性・特性・生態を研究し、対策をきちんと用意し、作戦通りに討伐する。

それが、魔物退治の常識のはずだ。



「剣帝流って、おっかないね……」


「そ、そうだな……」



私・エルナと上司クリスタは、お互いに引きつった顔で、こそこそと話をする。

すると、私の持つ<短剣(ナイフ)>に付いた細い鋼糸(ワイヤー)から、また『剣帝流』のお弟子さんたちの声が響いてくる。



『さて、なんかウチの妹弟子が余計なちょっかい出して、魔物を怒らせたみたいなので』


『違いますわ。あのヘビモドキったら、最初から鳥さんを食べる気でしたわよ?』


『怒らせたみたいなので! 仕方なく兄弟子の俺が責任を取ります!』



私・エルナと上司クリスタは、顔を見合わせる。



「責任って……?」


「どういう意味だ……?」



続いて響いてきた声は、予想外の答えを告げてくる。



『そういうワケで、俺が「殿」(しんがり)をするので、他は先に行っちゃって?』



その言葉を最後に、細い鋼糸(ワイヤー)だけが引き戻され、シュルルル……ッと離れていく。



「し、しんがりって、まさかっ」


「まさか(おとり)になるおつもりですか!

 お止めください、我が殿方(キミ)ぃ!」



私たちが慌てて後方を向いた瞬間、ちょうど山脈を越えたらしい。

4匹で編隊飛行していた巨大な鳥型魔物のうち1匹だけが、スー……ッと後方へ離れていく。


よく見れば、鳥型魔物のの長大な翼に鋼糸(ワイヤー)が巻き付いていて、羽ばたきを抑えているようだ。



『ガアアアァ~~~~~~ッッッ!!』



超えたばかりの山脈の稜線(りょうせん)に、巨大な『三本指の手』がかかる。

そして向こうから、超巨大な竜頭(あたま)が持ち上がってくる。


()とし()七ツ胴(ななつどう)』が、すぐ後ろまで迫ってきたんだ。


私たちが騎乗している脅威力4の鳥型魔物<雷雲巨鷹(サンダーバード)>が、荷車を丸ごと空中にさらう程に大型だとしても、追いかけてくる巨影はその5倍は(ゆう)にある。

城壁の門のような、超巨大な頭部であり(あぎと)だ。


その大顎(おおあぎと)が開かれて、遅れて最後尾を飛ぶ4匹目の鳥型魔物へと追い迫る。

あまりに巨大すぎて距離感が狂うが、もう丸呑みにされるまで、1分ほどの猶予(ゆうよ)もないはずだ。



「うそうそうそっ! こんなの絶対に無理だよぉ~~!!」


「クソ! 何か! 攻撃魔法の<魔導具>(マジックアイテム)は!? 何かないのかっ」



私たち2人は大声をあげて焦るが、しかし騎乗している鳥型魔物は逃げるのに必死。

どんどん最後尾の1匹と、『剣帝流』のお弟子さん達と距離が離れていく。



『―― グゥラアアァ~~~~~~~ッッッ!!!!』



またも聞いた者全てを金縛りにするような、爆圧の咆哮(ほうこう)が空に響き渡る。


しかし、それに対抗する様に鳴り響き、逆にかき消してしまう程の甲高い音が響き始めた。



ィィィィイイイ……ィン!

 ィィィィイイイ……ィン!

  ィィィィイイイ……ィン!

   ィィィィイイイ……ィン!

    ィィィィイイイ……ィン!

     ィィィィイイイ……ィン!

      ィィィィイイイ……ィン!

       ィィィィイイイ……ィン!



「あおい……光……?」


「まさか、アレは……!?」



甲高い音が、フ……ッと消失。

ギャリィン!!と、金属かガラスが強く(こす)られたような異音。


そのわずかな合間に、不思議と黒髪の少年の声が耳に届いた。




―― 『秘剣・三日月(みかづき)四ノ太刀(しのたち)八重裂(やえざき)』、と。




一瞬だけ、青い魔力の輝きが水平に大きく広がり、すぐに消える。


ドボォン……ッ!と、赤い体液が盛大にまき散らされた。

まるで、()とし()七ツ胴(ななつどう)』がその超巨大な口から火を吹いたのではないか、と思うような光景だった。


大開けにした大顎(おおあぎと)の両端と、舌から鮮血を噴き出したのだ、と私・エルナが解ったのは()とし()七ツ胴(ななつどう)』の頭が、山脈に力なくもたれかかってからだ。


迫っていた超巨大な竜頭(あたま)が、巻き戻されるように、山脈の稜線(りょうせん)の向こうへと消えていく。


そして、1分か2分ほどして、大絶叫が上がる。



『―― グゥ、ガァ~~~~ッッ!!

 グゴォ! グゴォオ~~~~~ッッッ!!!

 ガァ!! ガァアア! ギガァ~~~~!!』



さらに、ズドン!ドガン!ドスン!と、まるで遠雷のような地響きか地鳴りが響いてくる。



「く、苦しんでる……?

 苦しんで、暴れているの……?」



私・エルナがおそるおそると推測を言う。

隣席から、こらえきれないとばかりの笑い声が上がった。



「は、ハハハ、アハハハハハ!!

 ―― りゅ、りゅ、竜殺の撃剣(ケン)! まさに、竜殺の撃剣(ケン)だ!!」



上司クリスタは、窮地を脱したストレスの解放もあって、狂った様に笑っている。



その向こう側で、ようやく追いついてきた鳥型魔物<雷雲巨鷹(サンダーバード)>の姿が見える。

そして、騎乗している黒髪の少年は、気負い一つない表情で、ヒラヒラと手を振って無事を知らせてきた。





▲ ▽ ▲ ▽



私・エルナ=バイヤーにも、ようやく理解できた。

上司であり乳姉であるクリスタ=イルクナーが、『剣帝流』のお弟子さん達に異常に執着する理由を。



彼らは、英雄ではない。

そんな、安っぽくありふれた存在ではない。



彼ら『剣帝流』の撃剣(ケン)は、新しい時代を()(ひら)く。

今まで不可能とされてきた事を、全て(くつがえ)して、世界そのものを()()える。


千年先にも語り継がれるだろう。

そんな人物が本当にいたのか、と疑われるだろう。

しかし、偉大なる変革(へんかく)をもたらした足跡(そくせき)は、世界に(きざ)まれる。


あるいは、神王国を(おこ)した半神半人(デミゴッド)剣神(けんしん)』の様に、後世において崇拝の対象となる存在。



これは、後に神話として語られる物語なのだ。


私たちは今、新しい神代(かみよ)の到来を()()たりにしているのだ。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 以前の話で『この世界のドラゴン→星を荒らすクソデカ害獣、しかも強い』って感じで紹介されてましたからなぁ…。 そんな化け物に向かって突撃だけでもヤバいのに、一撃叩き込んで追い払った…
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