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瓦礫世界のシナリオ進行  作者: namakox
第三章「砂漠」
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第30話「裏の路地」

カズの過去話です。

俺は腰を低くして静かにゆっくりと声のするほうに近づいていった。路地裏は真っ暗だった。そこで俺はネオンが輝くこの街の裏側を見た。月明かりだけで照らされたこの街はやけに冷たかった。


「やめてよ!もう、出入り禁止にしてもらうから!」


女が騒いでいた。俺は路地裏にあったゴミ箱の影に隠れて様子を見ていた。


「金は払うと言ってるのになんだその態度は!」 


男がそう言うと大金を地面に叩きつけているのが見えた。俺が追い求めていた獲物がそこにいた。金に溺れ、金に踊らされている。あの男にあんな金は必要ない。あの男にあの大金は使いこなせない。俺は男の体格、声質からあの男が何者かわかった。パパラッチたる者、怪しい有名人の声と体格、顔くらいは熟知している。あの男は恐らく国会議員のサクラツトムだ。中年太りに声は高めの気持ち悪い奴だ。俺は静かにレコーダーの電源を入れた。サクラツトムは女に決して手を上げようとはしなかった。しかし、国会議員らしからぬ暴言が口からこぼれていった。その言葉端まで取り残すことなく、俺が仕掛けた罠に自ずと飛び込んでくる。この瞬間がもっとも楽しい瞬間だ。獲物に知られずに獲物を貪るこの瞬間が最高に楽しい。俺は恍惚な笑みを浮かべながらつい息で笑ってしまった。


「誰かいるのか!」


男が神経をとがらせてこちらに近づいてきた。しまった。獲物に見つかるのは最悪の事態だ。パパラッチは顔をばらすわけにはいかない。男はどんどんこちらに近づいてくる。いや、もう目の前にいた。男は正真正銘のサクラツトムだった。俺は咄嗟に四つん這いになり酔っ払いのフリをした。


「すいません。ちょっと吐きそう・・・で・・・」


俺は喉の奥に指を突っ込んで嗚咽を吐いているフリをした。飲んだくれが吐き気で路地裏に避難することはよくあることだった。


「飲みすぎたのかい?パパラッチさん?」


なぜか気づかれていた。それでも俺は嘘を押し通そうとした。


「いや・・・パパラッチ?ウゲェッ。飲みすぎただけ、俺はサラリー・・・」


俺はそう嘘をつこうとした瞬間にハンドバッグが開いていることに気づいた。やってしまった。奴は確実に気づいている。ハンドバッグの中にはデジカメと一眼レフカメラが入っていた。どうにかしないと、俺のパパラッチ人生が終わる。


「おい!カメラをこっちによこせ!」


こちらが物騒になってくると女が叫びはじめた。


「サラ!静かにしろ!」


サクラツトムが怒鳴った。女の名前を聞いた瞬間に俺は閃いた。ただし、この方法はあの”サラ”という女にかけるしかないところがあるが、今は時間稼ぎになれば何でもよかった。そうとなったらやるしかない。


「早くそのカメラを渡せ!」


サクラツトムが急かしはじめたのを皮切りに俺は俺がでっち上げたストーリーを奴に畳みかけた。


「分かったよ。本当のことを言ってやるよ。サラは俺の彼女だ」


「え...」


男はそう言って一歩下がった。サラという女はキョトンとした顔でこちらを見ていた。俺はすかさずウインクで意思疎通を図った。


「サラに頼まれたんだよ。最近、うっとうしい客がいるから助けてくれって。彼氏だったら行くしかねえだろ?」


「そうだったのか・・・それは・・・」


そう言って男はさらに一歩下がった。


「お前に奥さんはいねえのか?彼女はいたことねえのか?そんなことはねえよな。だったらお前には分るよな?俺の気持ちが!」


そういって男を睨みつけた。俺の目の前にいるのはかつての獲物で今の敵だ。


「サラは俺に相談を持ち掛けてきた。乱暴な国会議員さんがいるってな。だから、俺は証拠を掴み、裁判に持って行ってお前を表舞台から引きずり降ろしてやろうと思っている。ついでに金を巻き上げて2人で新築2階建て一軒家に住むことまでな!」


最後のは余計だったかもしれない。というか、こちらの作戦を全部、言った。大丈夫だろうか。サラにちゃんと設定が伝っただろうか。


「本当にすまなかった」


思いのほか男は俺の話を信じていた。男は少し薄くなった頭を下げて謝ってきた。


「もう二度とサラに近づかねえなら、許す」


「あぁ。もう二度と指名しないと誓うよ」


「指名じゃねえ。近づかねえかどうかを聞いてるんだ」


「近づかない。すまなかった」


国会議員にしてはしっかり謝ってきた。サクラツトムの性格は俺の予想した通りのビビリ野郎だった。


「サラ、こっち来い」


俺はそう言ってまたもやサラにウインクをした。サラはそれを察してウインクを返してこちらに来た。


「今回は見逃してやんよ。じゃあなクソジジイ」


ビビりきった国会議員にそう吐き捨てて、俺はサラの手を握り、路地裏をあとにした。サラの手はとても冷え切っていた。

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