第31話「撮高」
しばらく、俺はサラの手を引いて大通りの中を進んでいった。たいていの客がどこかの店に入りきって、道中が閑散とする時間。ネオンの明かりが道を照らしていた。影に色が点かなくなった静かな場所で俺ははじめて口を開いた。
「大丈夫ですか」
そう言いながら俺はサラの手を放した。サラは軽くお辞儀をしながら話した。
「ありがとうございます。もう少し遅かったら危なかったです」
その言葉にあの国会議員の顔がちらつく。税金をありったけ国民から吸い取ったかと思えば毎日のように宴会を開き騒ぐ。度胸もなければ倫理観もない。
「よかったです。それにしても面倒くさい客ですね。ほんとに酷い。気をつけて帰ってくださいね」
私は一服しようとズボンのポケットから取りだしたタバコに火をつけて肺を燻した。そして胸ポケットに入れていた音声レコーダー兼盗撮用カメラを覗き込み、日々の鬱憤を晴らす。最高の写真が撮れていた。
「カメラで撮ってたんですか?」
サラが聞いてきた。パパラッチと気づかれる訳にはいかないので咄嗟の嘘で誤魔化した。
「実は大学で接客業について研究していて街の中を撮影してたんですよね」
なんとも言えない嘘をついてしまった。
「そういうことだったんですね。すいません。忙しいところ…」
「大丈夫ですよ!いいネタが撮れたので」
本音でそう言いながら、カメラを覗き込んだ。インパクト抜群の最高の写真が撮れていた。パパラッチはこの瞬間がたまらない。明日の新聞の一面はこいつで決まりだろう。俺はポケットからスマホを取り出して、盗撮用カメラからスマホに写真を移した。それから出版社の知り合いに一斉送信した。この間、30秒ほど。慣れた手付きで逃すことなく仕留めた獲物を新鮮なまま卸す。
「スマホ…あっそうだ。今度、お礼がしたいので連絡先交換しませんか」
サラはそう言ってスマホを取り出した。
「いいですよ」
メッセージングアプリを起動してお互いの連絡先を交換した。
「カズヒロさんっていうんですね」
そういえば名前を言ってなかった。
「そうです。高木カズヒロ…です」
名前を名乗るのは少し恥ずかしかった。
「そういえば私の本名を言ってなかったんですが、笠田サラっていいます」
「そしたら、また後日お礼させてくださいね」
笑顔でそう言うと一礼して、サラはそのまま自宅に帰っていった。2日後、俺が撮った写真がネットニュースに出回った頃にサラから連絡が届いた。




