第26話「砂の粒」
動く砂丘達はズシンズシンと音を立てながらそれぞれのペースで上下していた。僕達3人はその中の砂丘のひとつに乗ってそれを見ていた。壮大な景色がうっすらとした砂煙を空に上げながら一斉に動くと天変地異が起こったかのようだった。この巨大生物は群れをなして行動している。外から見るとおそらく、空中に浮いた砂漠のように見えているだろう。それにしても、こんな巨体を地面の下に隠しているなんて誰も思わなかっただろう。砂漠そのものが生きていた。砂漠は動いていた。風は巨大生物が進む方向に吹き抜けていっていた。
「あの老人が言っていたとおりだ。砂漠は動いてるんだな」
カイラは壮大な景色をぼうっと眺めていた。
「そうみたいですね」
「あっついなぁ」
カズはそう言いながら生ぬるい空気を手で仰いでいた。僕達はしばらくこの巨大生物の上で過ごすしかなさそうだった。暑さを耐え凌げば勝手に進んでくれる。しかし、僕達は行きたいところに進めているのだろうか。そんなことを気にしたところでこの大きな自然の流れには逆らえそうになかった。僕達は砂漠に運ばれていくしかなかった。
夕日が砂丘の下に沈んでいくのが見えた。上下していた砂丘達は黒いシルエットを最後に残してその輪郭を暗闇の中に溶かしていった。まだ地上は明るいのだろうか。あたりは少しだけ涼しい風が吹くようになってきていた。巨大生物の足元、ひとつひとつの砂漠の切れ目から太陽の光が漏れていた。僕達はその景色に息を呑んだ。とても幻想的な景色が広がっていた。巨大生物が動くたびにその光は木漏れ日のように空をちらちらと照らした。その瞬間、ズシンズシンと響いていた足音が少しだけ静かになった気がした。
「きれいだな」
カイラが砂丘に座りながらそう言った。
「そうですね」
カズはカイラの横で眠っていた。この砂漠にもいつもの様に静かな夜が近づいてきていた。地上ならもう少しの間、日が顔を出している時間だった。僕とカイラとカズは砂丘の上に横になってそのまま眠ってしまった。
目前に真っ白な世界が広がっていた。そこに灰色の輪郭だけの歪な文字が浮き上がっていた。
『大丈夫だ』
その4文字を中心にぐるりと僕は回ってみた。文字は空間に浮いているようだった。静かな白い世界にその文字の輪郭だけがあった。何が大丈夫なのだろうか。僕はその文字を眺めていた。すると、透き通った水面を濁すように文字は消えていった。そしてまた何かが浮き上がってきた。
『続けるよね?』
この文字は僕に問いかけているのだろうか。再びその文字は消えていった。
『あぁ…』
浮き上がってきた文字はそこで途絶えていた。僕はまだこの旅を続けたい。その思いが文字になってくれたのだろうか。明るい光が白い天井から差し込んできた。明るい光はゆっくりと僕の目を覚ました。その光は朝日だった。砂丘は動きを止めて辺りは静かになっていた。あれだけ動いていた砂丘は物音ひとつたてず、それが逆に僕の恐怖心を逆撫でした。宛のない旅の始まりの日のように、カイラとカズがいなくなっていた。静けさが嵐の前の静けさのような雰囲気を僕の周りに漂わせていく。胸の鼓動が周りの砂を震わせるほどに鳴っている気がした。風が吹き、顔を上げた僕の目前にあった朝日は砂丘の縁を光で描いていた。




