第17話「崩壊した集落」
僕は時々、目を開けたり寝返りをうったりしながらその夜を過ごした。他の皆は全員が寝ていた。横に寝ていたカイラの方に寝返りをうって、出来るだけ自然にカイラの手に触れた。僕の手の汗でカイラが起きてしまわないか心配になった。それでも、誰かに触れていなければこの夜を越えられない気がした。気づいたらというか、次第に夜が開けていくのを見ていたというか。それくらいに意識がはっきりしていなかった。そのまま朝になっていた。明るくなったのに気がついて、僕は目を開けて周りを見た。壁に開いた穴や隙間から、朝日が部屋の中を照らしていた。反対側の壁には、星空のようにその光が散らばっていた。寝つけなかったからか、僕はとても気だるかった。だから、起き上がることができなかった。しばらくその朝日を横になったまま見ていると、やっと眠れそうになってきた。静かな日常がすぐそこに目を覚まそうとしているのに、僕はこれから眠る。そう思いながら僕は目を瞑った。目を瞑れば、気だるさはどこにも無かった。
「おい!おきろー!もう朝だぞ!」
カイラの声が聞こえてきた。
「まだ、朝じゃないですかぁあぁぁぁあ」
アクビをしながら目を開けないままで、僕はカイラにそう言った。
「だから、朝なんだよ!早く支度して、ダザイのところにいくんだろ?」
「あぁ、そうでした」
僕はそれを聞いて、ダザイに話を聞きに行くことを思い出した。
「そうでしたねぇ。ふぁああぁ」
本当に眠かった。今まで生きてきた中で一番眠かったと言ってもおかしくはない。
「さっさと起きろよ!」
カズの声も聞こえてきた。目は開けてないから、声だけでカズだと分かった。何故か少し楽しそうな声色だった。少し気になったが、一向に僕の目は開きそうになかった。しばらくして急に周りが静かになった。皆が僕を起こすのをあきらめたと思った。そのまま少しでも長い時間ほっといてほしいと思った。その時だった。背中に衝撃が走った。
「痛ぁぁぁぁぁあああーー!」
僕は流石に目が覚めて、飛び起きた。カズは僕が痛がっているのを見て、笑っていた。ムカつくが痛くて何もできなかった。
「早く起きろって言ってるだろ!」
カイラは怒っていた。きっと、カイラの蹴りが僕の背中に炸裂したんだろう。それにしてもかなり痛い。
「もう、蹴らないで下さいよぉ……」
僕は泣きそうな声でそう言った。カイラは許してくれそうもなかった。ナツとアクタは当然のように起きていた。アクタは朝御飯を作っているようだった。美味しそうな匂いが漂ってきていた。
僕達は朝御飯をいただいてから身支度を整えた。そして、僕達3人とナツとアクタで家を出た。予定通り、ダザイの家に向かう。ダザイの家にはアクタが案内してくれた。アクタについていっている間に、僕は集落を見回してみた。夜に集落に着いたときは気づかなかったが、廃墟がたくさんあった。外に出ている人は僕達以外にいなかった。相変わらず集落は静かで、明るくなっても閑散としていた。
「静かだな」
カイラがそう呟いた。
「一ヶ月前までは賑やかだったんだよ。変わりすぎて、本当に気が滅入りそうだ」
アクタはそう言いながら落ち込んでいた。
「ねぇ、お父さん!もうすぐ着くよ!ダザイおじさん、久しぶりに会うから楽しみ!」
ナツは以前からダザイと知り合いだったようだ。
「そうだな。ナツは小さい頃、お世話になってたよな。まぁ、いつからかダザイは他人と関わらなくなったからな。もうナツのことも忘れてるかもな」
「絶対、ナツのこと忘れてないよ!だって、ナツも覚えてるもん」
アクタは何も言わずにナツの頭を撫でた。ナツは少し嫌がっていた。その瞬間、アクタには冷たいところがあるような気がした。なんでもない言葉に、その人の本性が垣間見えることがある。僕はその時のアクタの言葉にそれが見えた気がした。少しだけ怖いと思った。それからしばらくして、僕達はダザイの家の前についた。アクタが玄関のドアをノックした。
「アクタだ!最近のこの集落について聞きたいことがあってきた。教えてくれないか」
アクタがそう言うとドアの小窓が勢いよく開いた。ギョロっとした目が忙しなく周りを見回していた。
「おいおい。他にも誰かいるじゃねぇか。ワシは外に出んぞ。というかアクタ、お前はワシに本当は何をしに来たんだ?」
こちらから見ると目だけで話しているように見えるダザイは、かなり気味が悪かった。それに加えて、早口なダザイの言葉はかなり聞き取りにくい。しかし、その言葉は鋭かった。
「この集落、最近おかしくなっただろ?さっきも言ったが、その理由を知らないかお前にきこうと思ってきたんだ」
少し慌てながらアクタがそう言った。
「ワシは二度も同じことを聞きたくて聞いたのではない。まあ、何を考えているかは大体わかるが。確かにこの集落は静かになったがワシは関係ないぞ。アクタ、お前はワシを疑っておるじゃろ?静かになってよかったと思うが、ワシは何もしてない。じゃあの!」
ダザイはそう言うとドアの小窓を勢いよく閉めた。僕たちの前を乾いた風が吹き抜けていった。




