第16話「微笑」
ナツ
10歳。女。
可愛らしいがどこか大人びている。
母親が首を吊って自殺している。
アクタ
ナツの父親。
優しく、真面目。
行商人で月に1度しか帰ってこない。
高身長でガタイがいい。
そう言えば、カズにシナリオの話をしてなかった。カズが第3世代の人間だったことをすっかり忘れていた。僕とカイラは直ぐにカズにシナリオの説明をした。
「本当ですか!?それチートっすよ!そんなこと、ありえないっすよ」
「いや、それがあり得るんだよな。しかも、それがこの世界じゃ普通なんだよ」
騒ぐカズを横目にカイラが冷静にそう言った。
「そんな魔法が使えるのに、こんなに狂ってるのかよ……」
カズはなかなか信じられないようだった。僕達がカズにシナリオの説明をしている間に、アクタがカップを洗ってくれていた。水の流れる音が台所から聞こえてきた。その音を辿るように、何がこの集落を狂わせたのか僕は考えていた。その間も、カイラはカズにシナリオの説明を続けていた。
「欲を満たす……。それはどんな世界の形でも、消えることがない人間の特徴……」
僕は無意識のうちに、アクタが言っていた言葉を呟きながら反芻した。しかし、その言葉からはこの世界がずっと狂っていることが分かるだけで、アクタの妻の死の原因と直接つながるものは何もなかった。何度も考えていると、今も世界が狂っているのが仕方がないような感じがしてきた。しかし、それでは本末転倒だと思った。今はアクタの妻が死んだ理由について考えるだけだ。僕は一旦考えるのをやめてアクタにヒントを求めた。
「アクタさん!この集落が狂った原因を探すにしても、ヒントがいります。なにか心当たりは、ありませんか?」
僕がそう言うと、アクタは流していた水を止めた。その刹那に、屋根を叩く雨音が再び戻ってきた。しかし、直ぐにその音はアクタの声によって僕の意識から掻き消された。
「1人だけ気がかりな人間がいる。集落の外れに住んでいる老人。名前は確か、ダザイだ。怪しいだけかもしれないし、何か知っているかもしれない。憶測の域を出ないから、頼れる情報にはならないと思う」
アクタは冷静にそう言った。確かに誰か1人を疑いすぎるのは良くない。しかし、ヒントはそれだけのようだった。
「ダザイという人ですか……。分かりました。では、明日はその人から話を聞きに行きませんか?」
僕がそう提案すると、カイラとカズは賛成してくれた。もうシナリオの説明は終わっていたらしい。一方で、アクタは腕を組んで悩みながら僕に話した。
「ダザイは他人と話すのを極端に嫌がる人なんだよ。聞き出せるかどうか……」
「でもそれは、話してみないと分からないですよね」
僕はそう言いきった。それ以外に何もヒントがなかったので、ダザイに話を聞きに行くしかないと僕は思っていた。
「そうだな……。とりあえず、聞いてみるしかないようだな」
アクタも納得したようだ。
「ところで、そのダザイって人になんで心当たりがあるんだ?」
カイラがアクタにきいた。
「私がこの集落に帰ってきた時に、たまたま見かけたんだ。ダザイはあまり外に出てくる人間じゃない。それなのに、集落に誰もいなくなった途端、外に出てきていたんだ。人嫌いなだけかもしれないが、怪しいことに変わりはない」
「なるほど……」
納得したのか、カイラはそれ以降静かになった。また部屋の中に静寂が訪れた。屋根を叩いていた雨の音はもう聞こえなくなっていた。誰も喋り出さないこの時間は、誰が乱してもいい雰囲気を持っていながら誰も話しださなかった。雨漏りの水が鍋や桶にポタポタと落ちる音だけが聞こえてきた。しばらくすると、カズがうとうとし始めた。一方で、カイラは腕を組みながら何かを考えているようだった。アクタはナツを撫でていた。寝ているナツの顔を見るために俯きながら、アクタが薄ら笑いを浮かべているように見えた。何故だろうか。とても落ち着かない。すると突然、ゴンッという音がした。
「いってぇー」
うとうとしていたカズがちゃぶ台に頭をぶつけたようだ。それを見てアクタが言った。
「今日はもう寝ましょうか」
「そうだな。たしかに眠い」
カイラがあくびをしながらすぐにそう返した。それから、部屋の明かりを消して全員で川の字になって寝た。雨がやんだからとても静かだった。ベットはなかったけれど、野宿するよりは断然マシだった。しかし、何故か僕は寝つけなかった。他の全員はきっと寝ているのに、どこか落ち着かない。頭の中に冷たくて重たい恐怖に似た何かがあった。それを僕は乱暴に封じ込めてとりあえず目をつむった。そのまま夜が開けるのをずっと待っていた。




