第14話「抱擁」
ナツ
10才 女
可愛げがあるが、どこか大人びている。
母親が首を吊り自殺。それを見て、家から逃げ出していた。
僕達3人は全員がナツの話に驚いて、その場に立ち止まってしまった。きっと全員が、降ってきた雨に気を取られる前にその耳を疑った。僕は母親がナツの目の前で首を吊っている光景を想像してしまった。信じられないくらいに残酷な光景だった。雨は酷くなるばかりなのに、全員が言葉を失っていた。お陰で、お互いが近いのに遠いようなそんな感覚になった。何を話したらいいかも分からなかった。
「だから……ね。家に帰るのは……嫌なの。見たくないの」
ナツがそう言った。誰も何も言えないこの時間を、その言葉が辛うじて繋ぎ止めた。僕はおぶっていたナツをその場におろした。
「え……なんで、降ろしたの?……!」
ナツがそれを言い終わるとほぼ同時に、僕はナツを抱きしめた。僕はこういう時にどうしたらいいのか分からなかった。それでも、心の中には言葉を通り過ぎて、僕の体を動かす何かがあった。ナツは今まで我慢していた分をすべて吐き出すように僕の首元で泣いていた。
「何も言わなくていい。何も考えなくていいですよ。僕達がここにいますから。あなたから嫌と言われるまで、ずっといますから……」
僕はやっと心に追いついた言葉を声にした。ナツはそれに泣きながら頷いた。
「絶対に一人にはさせないからな」
後ろから声がした。カイラも僕と同じ気持ちらしい。それからしばらくして、胸元から小さな声がした。
「ちょっと……苦しい……よ」
僕が強く抱きしめすぎていたらしい。ナツがそう言ってきた。
「すいま……せん……」
僕もいつの間にか泣いていた。辛いのは本人なのに、涙が止まらなかった。雨が僕とナツの涙を洗い流していった。僕の涙は誰にも気づかれないままに流れていった。それで良かった。
「……行こうか」
カイラがそう言ってきた。
「そう……ですね」
そう言ってもう一度、僕はナツをおぶった。
「行きま……しょうか」
カズが無言で僕の言葉に頷いた。カズもカズなりに色々考えているようだった。僕達は再び集落に向かってまた進みはじめた。ついに本降りになってしまった雨に濡らされながら、僕達は進んだ。集落に着いた頃には、皆がびしょ濡れだった。僕達は取り敢えず、適当な家の軒下で雨宿りをした。集落は雨が降っていたからか、誰も外にはいないようだった。家の明かりはついているが、どこか寂しさが漂っていた。雨の音がうるさくて、生活音や話し声が聞こえなかったせいかもしれない。
「早く家を探しましょう。風邪を引いちゃうので」
「そうだな。ナツ、家はどこだ?」
カイラがナツにきいた。そう言えばナツはもうカイラに慣れたらしく、普通に返事をした。
「あっちだよ」
そう言ってからナツが指をさした方に、明かりがついていない家が一軒だけあった。
「行きましょうか。ナツさんは大丈夫ですか?」
「……う、うん」
ナツは明らかに無理をしているようだった。
「無理そうなら俺達だけ先に見に行くとかどうっすか?」
カズがめずらしく良い事を言った。
「ナツがいいならそれでも良いかもしれんな」
カイラがそう言って、僕に目で合図を送ってきた。カイラはまだ、ナツと話すのが億劫なようだ。
「それでもいいですか?」
僕がきくとナツは静かに頷いた。ナツも賛成したのでそうする事にした。
「おじゃましまぁぁぁーーす」
カズがナツの家の扉を開けてから静かにそう言った。まるで泥棒の様にカズは家の中に入っていった。
「誰もいないか?」
カイラは周囲を警戒しながらカズに続いた。2人はナツの家の中に入って、母親の死体を見えないところに移す担当だ。僕は外でナツと待っていた。軒下で待っていると横殴りの雨があたってきた。今夜の雨はいつもよりも激しかった。そんな雨が降る中に人影が薄っすらと見えた。僕は、身構えた。ナツを庇いながら、辺りをもう一度見回した。
「誰ですか!そこにいるのは分かってますよ!」
そう叫ぶと、向こうから声が聞こえた。男の声だった。
「ナツ……か?ナツなのか?」
かなり身長が高いその男は、体格も良く、僕よりも強そうだった。戦えば勝てそうもなかったが、僕は身構えた。
「名乗ってください!誰ですか!」
僕はその人影に叫んだ。すると後ろでナツが叫んだ。
「お父さん!帰ってきた!」
僕は疑った。こんな雨の中、外に出歩いている人間は怪しいと思った。
「本当にお父さんなんですか?」
「うん。この集落で1番おっきいからすぐわかるよ」
男は確かに背が高そうだった。
「ナツ!」
そう叫ぶとその男はこちらに近づいてきた。ナツは僕の前に出て男に手を振っていた。僕は止めようとしたが、間に合わなかった。父親は優しそうな顔つきだった。僕の目の前で2人は抱き合った。
「怪我してないか?大丈夫か?お腹空いてないか?」
ナツの父親はナツを物凄く心配していたようだった。しばらく、そんな会話が続いて、僕はそれを見ていた。
「もういいよお父さん!離して!」
ナツがそう言うと、父親は苦笑いをしながらナツから離れた。それから立ち上がって、僕の方を見て急に真面目な顔に戻って言った。
「あなたはだれですか?」
僕は少しだけ緊張して肩が縮こまった。
「僕は旅人です。ここの近くを通りかかった時にナツさんに会って、泊まるところを紹介してくれました。あと2人仲間がいるんですけど、今は家の中で……。ナツさんからお母さんの話を聞いたので──」
僕は慌てながらも父親に説明した。
「なるほどな。分かった。娘を連れてきてくれてありがとう。私の名前はアクタだ。今夜はここに泊まっていきなさい」
「ありがとうございます!アクタさん!あ……取り敢えず家の中にあと2人いるので、止めにいったほうがいいですかね?」
「いや、その必要はないはずだ。妻の死体は私が移動させたよ。だからもう家の中にはない」
「そうだったんですね。じゃあ、もうそろそろ戻ってくるか……」
僕がそう言っていると、扉が音を立てながら開いた。




