第13話「帰宅」
「一緒にお家に行ってもいいですか?」
僕はナツにきいた。ナツは少し悩んでから答えた。
「……いいよ。ここから少し遠いけど、帰っても一人だから……。みんなと一緒なら楽しそう!」
ナツはすぐにそう言ってくれた。泊まらせてくれそうだったので、僕達はかなり助かった。
「ありがとうございます。じゃあ、着いていきます」
「やったー!楽しそうで待ちきれないなー!」
そう言って、ナツは喜んでくれた。そこでふと、僕達が行こうとしていた集落のことを思い出した。もしかすると僕達が向かっていた集落に、ナツの家があるのかもしれないと思った。そう思って僕はナツにきいてみた。
「お家は集落にあるんですか?」
「そうだよ。皆が家族みたいで優しかったんだよ。でも最近、おかしくなっちゃったの」
「おかしくなったんですか?それは、どうしてですか?」
「わかんないの。でも皆、暗くて怖いの。怖くなってここまで逃げてきちゃったの」
奇妙な話だったが、尚更ナツをほっとけなくなった。
「もし何かあったら、僕達が助けますから安心してください」
そうナツに言ったが、僕達が人を助けた事はまだない。正直、僕は不安だった。
「ありがとう!私の事、ちゃんと守ってくださいね」
そう言われると、物凄くナツを守りたくなった。それから僕は、後ろでまだ落ち込んでいたカイラに話しかけた。
「大丈夫ですか?取り敢えず、ナツさんの家についていくことになりました。たぶん、僕達が向おうとしていた集落にあります。でも、少し集落の様子がおかしいみたいです」
「そっか……」
カイラは落ち込んでいて、それどころじゃないようだった。
「なに本気で落ち込んでるんですか!そんなに落ち込んでる場合じゃないですよ!もう暗くなってきてます。雨も降りそうですし、早く行ったほうがいいですよ!」
僕はつい早口になってカイラを説得した。
「そうだな。うん…。よし。行こう!」
元のカイラに戻った。意外と立ち直りは早かった。
「どこに行くんすか」
瓦礫の後ろに隠れていたカズが顔を出してきた。
「ナツの家に行くことになりました」
「ナツって誰?」
カズは何も聞いてなかったのだろうか。取り敢えず、カズにも同じように説明をした。僕はカズに説明をしてから、あたりを見渡した。もうだいぶん暗くなっていて、空模様はますます怪しくなってきた。急がないといけないと思った。僕は焦る気持ちを落ち着かせて、どうすればいいかを考えた。幼いナツは僕よりも足が遅い。その事に気がついて、僕がナツをおぶることにした。ナツには案内だけをさせることにした。
「ナツさん。僕がおんぶするので、背中から僕達を案内して下さい」
「それ、楽しそう!」
ナツは僕の背中にすぐに乗ってきた。意外と重かったが、頑張るしかなかった。
「ナツさん、案内してくださいね」
「分かったー。じゃあ、そっちにまっすぐ進んでー」
指をさしながらナツは僕にそう言ってきた。カイラを先頭にナツに言われた方に進んで行った。カズは後ろから着いてきている。少し進んで、目の前に小高い丘が見えてきた。すると、ナツが左側を指さして言った。
「向こうの方だよ!」
目の前の丘を避けるように、僕達は左側に曲がっていった。
「もう暗くなってしまって、足元が見えないな」
カイラがそう言った。雲が多かったのも相まって、暗くなるのがいつもより早かった。
「取り敢えず、雨が降る前に着きたいですね」
「そうだな。ところでナギト、きつくないか?変わろうか?」
そう言って、前にいたカイラが僕のところまで戻ってきてくれた。
「正直、少し疲れました。でも、大丈夫です。ありがとうございます」
ナツはカイラを怖がっていたので、おぶるのを変わる時に嫌がられる可能性があった。もしそうなったら、カイラがまた落ち込んでしまう。
「そうか。無理はするなよ」
カイラはそう言って、ポケットからマッチとロウソクを取り出した。マッチをすってロウソクに火を灯す。カイラは僕の横に並んで足元を照らしてくれた。
「助かります。ありがとうございます」
僕はカイラに礼を言った。
それから、少し進むと細道があった。
「この道をたどっていけばいいよ」
ナツはそう言った。
「もう少しでつきますか?」
「うん。もう着くよ」
もうそろそろ、体力が限界だったので、その言葉を聞いて僕は安心した。
「あと少しっすか。雨はまだふりそうにないっすね。……良かった」
カズが後ろでそう言った。それからすぐに、パラパラと雨が降ってきた。
「おい、降ってきたぞー。何が良かっただ。お前は雨男か?」
カイラがカズにそう言った。
「ここで雨降ってくるとか、俺も聞いてないっすよー」
そうカズが言うと、カイラの持っていたロウソクが突然消えた。
「クソッ!雨が当たったみたいだ」
ロウソクが消えて、視界が暗くなった。すると、先の方に何かが見えた気がした。
「向こうに明かりが見えませんか?」
ロウソクが消えたからか、僕達が歩いている道の先の方に明かりがポツポツと見えてきた。
「あれがお家だよ」
ナツがそう言った。
「もうすぐだな。怖い住人ってのは気がかりだが、雨がひどくなる前にさっさと進むぞ!」
カイラの掛け声に身が引き締まった。すると、突然ナツが僕の背中で泣き始めた。
「どうしたんですか?もうすぐ着きますよ」
「違うの。怖いの。家に帰るのが……怖いの。あの集落に……帰りたくないの」
「でもここまで来たし、雨も降ってきたから屋根がないと困りますよ」
「だって……。だって、お母さんが……。お母さんが……。」
泣きながらナツは話していた。
「お母さんが、どうしたんですか?」
親に捨てられた事をきくのは気が引けたが、その時は話を聞いてあげた方がいいと思った。
「お母さんは……ね。冷たくなってたの。私が朝起きたら……動かなくなってたの。天井から……ぶら下がっててね。顔が青くなっててね。それでね……」
僕はポツリポツリと見える集落の明かりを、呆然と眺めて立ち止まっていた。冷たい雨が、段々と酷くなってきていた。




