第12話「ナツ」
僕達は次の集落に向かって進んでいた。昼過ぎ、3回目の休憩の時にカズがお腹が空いたと文句を言い始めた。
「缶詰持ってきとけば良かったじゃないすかぁ。何で持ってこなかったんすかぁ。おしるこぉー」
朝とは態度が大違いで、カズはカイラに怯えることなくそう言った。
「皆、お腹空いてんだよ。黙って休憩しろよ」
そうカイラが言って静かになった時に、僕のお腹が鳴った。それに続いてカズとカイラのお腹も鳴った。
「お腹すいたなぁー」
「お腹空きましたね」
「ほら!やっぱり持ってきとけばよかったじゃないすかぁー」
カイラが開き直ると、皆を縛っていたものがなくなって全員がその場に倒れ込んだ。
「うるさぁい。言うなぁ。そんなことー。私だってお腹空いてるんだよぉ」
「お腹すきましたー」
「焼かれた肉なんかが、どっか歩いてないすかねぇー」
カズがそう言ってから、誰も喋らなくなった。僕達3人はここで餓死してしまうんじゃないだろうかと思った。朝は心地よかった太陽が、今は暑い。本当にそのまま干からびてしまいそうだった。
「死にますよ……このままだと……」
「そんなこと言うなよぉ…ぉ…ぉ」
僕の言葉にカイラがそうつぶやいた。その声が、もう消えそうだった。それから、気がつくと誰も喋らなくなっていた。3人全員が仰向けに倒れていた。朝からずっと歩いて、クタクタになっていたに違いなかった。暑い中で風が吹くと、少し涼しくて気持ちよかった。しばらくして、誰かが死んでないかと少し不安になったけれど、たぶん誰も死んでなかった。2人のいびきが聞こえてきたからだ。こんな明るい所でも寝れるなんてと、僕は驚いていた。しかし、僕も次第に眠くなってきた。きっと、体が疲れ切っていたからだ。太陽の暑さも、段々と気持ちよくなってくる。僕の瞼が少しずつ閉じられていった。
幼い声がどこからか聞こえてきた。弟の声のような気がした。
「あなた達…だぁれ?」
僕は最初、自分が夢の中にいるのだと思った。僕は弟に起こされる夢をよく見るからだ。
「んん……」
僕はゆっくり自分の目を開いた。そこにいたのは、僕の弟ではなかった。まだ幼いのにどこか大人びている少女が、1人で立っていた。少女は少し汚れた白いワンピースを着ていた。
「ねぇ、あなた達はだれなの?」
もう一度、その少女がきいてきた。僕の中でこれが夢じゃないことが分かると、半身をゆっくりと起こした。少女はじっと僕の方を見ていた。
「僕達は旅人です。今は、この先にある集落を目指して進んでいるところです」
「旅人さんなの?すごぉぉーい!」
僕が質問に答えると、少女は嬉しそうにそう言った。少女が言うほど、旅人はすごくも何ともないと僕は思った。実際に、カイラとカズはまだ寝ていて、いびきまでかいていた。カズにいたっては寝相が面白かった。
「そんなことはないですよ」
僕がそう言うと、少女はすぐに否定した。
「なんで?すごいよ!だって、普通ならこんな所で寝れないよー」
それには僕も納得した。納得した僕もさっきまで寝ていたから尚更だ。周りを見回すと、すでに暗くなってきていた。もう日が沈みかけているようだった。僕達は半日歩いて半日寝てしまったようだった。寝る前は晴れていたのに、空には雲が増えて少し肌寒かった。これからの雲行きが怪しかった。今夜は、泊まるところを見つけたほうが良さそうだと思った。それにしても、日が暮れる前に集落に辿り着けるのだろうか。僕は着けない気がしたが、とりあえず2人を起こすことにした。
「カイラさん起きてください!」
そう言いながらカイラの肩を揺らした。
「あぁ?飯か?」
「ご飯なんかありませんよ。今日の夜は雨が降りそうです。泊まるところを早く見つけないとまずいですよ!」
「ふあぁ。あぁぁぁああ?あっ!そうだ!そうだった。私、寝てる場合じゃない!早く行かないと!!」
カイラはそう言うと、すぐに起きたので今度はカズを起こしにかかった。
「んん?何だぁ?肉か?」
「起きてください!肉はありませんよ!移動しま……」僕がそう言っている間に、カイラがカズに蹴りを入れた。
「ギャアアアアアアアアアアアア」
カズは飛び起きて、カイラから逃げていった。そのまま、瓦礫の後ろ側に隠れてしまった。
「肉なんてもんはな、お前が寝てる間に私とナギトの2人で食っちまったよ!」
カイラがそうカズに叫んだ。
「まじか……よぉ。」
いや、食べてない。なぜそんな嘘をカイラがついたのかも分からなかった。カズに寝てしまった後悔をさせたかったのだろうか。もしそうなら、かなり上手くいっていた。カイラは得意げに笑いかけてきた。僕は苦笑いをカイラに返した。
「わぁー。皆起きたねぇ。おはよー」
少女の声が背後から聞こえてきた。そういえば、2人を起こすことに必死になっていて、少女の事を忘れていた。
「あの女の子は誰だ?」
「知りません。僕も寝てたんですが、あの子が起こしてくれたんです」
僕がカイラにそう言うと、カイラはその少女に近づいていった。
「あんたは誰だ?家に帰らないのか?もうじき暗くなるぞ」
「お姉ちゃん、ちょっと怖い。怖い人とは話すなってお母さんから言われてるの。だから話さない」
そう言われて、カイラはかなり落ち込んでいた。僕はカイラに何も言わずにバトンタッチして、少女に話しかけた。
「お家に帰らなくて大丈夫ですか?お母さんが心配してると思いますよ」
名前をきく前に、気になっていた事をきいた。
「大丈夫。お家もう誰もいないもん」
この少女は捨てられたのだろうか。そう思うと、とても可哀想に思えてきた。
「そっか………。名前は何ていうんですか?教えてくれますか?」
「ナツっていうの。あなたは何て言うの?」
「ナツ、ですか。可愛い名前ですね。僕の名前は、ナギトです」
「素敵な名前!」
そう言われると、とても嬉しかった。それと同時に、僕がナツの助けになりたいと思った。ナツはまだ自分が、捨てられた事を理解していないかもしれない。あるいは理解したくないのかもしれない。取り敢えず、ナツをほっといてはおけなかった。
ナツ
女 10才。母親に捨てられた少女。
可愛げがあるが、どこか大人びている。




