第10話「夢」
話の途中からカイラの視点になります。
僕とカイラとカズは3人で横になった。誰も喋らないと静かな夜は、ロウソクが尽きていくと同時に暗くなっていった。
「そう言えばカズは第3世代の人間なのか?」
カイラが何気なくカズにきいた。僕もそれは気になっていた。
「第3世代?なんすかそれ。俺は2015年生まれっすよ」
カズは話の内容をよくわかっていないようだった。
「じゃあやっぱり、第3世代じゃないか。私達の世代は3121年から始まってるからな。で、今は3624年だ。ちなみに私達は第4世代」
「え?じゃあ、第1,2世代もいるんですか?えぇ?歴史でそんなこと習ってないな。てか、そんなSFみたいな話があるはずがないっすよ」
すっかり目を覚ましてしまったようにカズが驚いて言った。僕は静かにふたりの話を聞いていた。
「SFってなんだよ」
カイラの質問がまた始まった。きっとカイラは第3世代に興味があるのだろう。
「サイエンスフィクションっすよ。科学の空想みたいな感じっすかね?でっかい星が落ちてくる類の物語の事っす」
カズの口調を聞いていると、いつも少しだけ違和感がある。どこかの訛りなのだろうか。昔の喋り方なのだろうか。少し軽いその口調は、僕に何処か頼りなさを感じさせていた。
「すこし難しいな。星が落ちるなんて、そんな怖い事をなんで物語にするのか分からないな。」
「えぇ…。たぶん……スリルを味わいたいんすよ。昔はもっと色んな事が便利になってて、つまらなかったから」
カズはカイラの質問に相当、悩んでいた。カイラもまた、理解するのに苦労していた。
「分かった。まぁ、お前は取り敢えず第3世代だな!それで、人間だ」
カイラが突然、話を切り上げた。たぶん、分からなくなったのだろう。
「取り敢えずですけど、それでいいっす」
カズはここまできて仲間外れにされないように、妥協したようだった。
「はやく寝ましょうよ」
僕は話の区切りがついたのを見計らってそう言った。
「そうだな。もうロウソクも消えたしな」
カイラがそう言うと、誰も喋らなくなった。喋る人のいない外の世界は、やっぱり静かだった。寝ようと言ったのは僕なのに、静かになるとちょっとだけ寂しく感じた。隣にいるのに、なぜか暗闇ひとつ挟むだけで遠いように思えた。僕はもう寝たであろうカイラの方に、わざと寝返りを打った。微睡みの中で見たカイラの寝顔に、僕はすっかり安心して眠りに落ちた。
曇天の下の草原に私は立っていた。どこかで見覚えがある景色だった。風が少し強かった。そこにポツンポツンと、二人の人間が相対していた。
「私は私だ。……がお前で当然であるように……」
なにか言っていた。聞き覚えがあった。私の心がざわつき始めた。
「お前が……を止めようと……」
嫌な感じがした。きっと、これは悪い夢だ。そしてきっとこれは、私の記憶だ。私にとって、2度と思い出したくない大切な記憶だ。
「私はお前を……殺す」
そう聞こえた。その瞬間、サッと血の気が引いていく感じがした。
「やめろ。やめろやめろやめろ。こんな事、思い出したくない!」
私は耳を塞ぎ、思わず声を張り上げた。しかし、夢は思う通りには終わってくれない。
「姉ちゃんに殺された方がマシなんだよ!」
弟の声が聞こえてきた。
「やめてくれ。そこから、逃げてくれ!早く走って逃げてくれ!」
私のその思いは、小声にも出せなかった。私の呼吸がどんどん荒くなっていったからだ。声を出すほどの余裕がなかった。気がついたら、ドサッと背後から音が聞こえた。生温い何かに足が浸っていった。私はもう叫ぶことすら出来なかった。思わず顔を手で覆い、目を瞑った途端に場面が変わった。
「カ……カイラ……ちょっとこっちに来なさい」
父の声がした。瞑った目を恐る恐る開けた。目の前にあったのは懐かしい家の内装だった。肩の力が一気に抜けていく。私は徐々に落ち着きを取り戻していった。たぶんここは父の史料室だ。歴史家の父は史料室を持っていた。その部屋には本がたくさん置いてあった。
「お前は強い子だ。だから守っ……しい人がいる」
そう言いながら父は何かの本をめくっていた。
「カイラ、こ……を読んでごらん。お前には少し……しれんが」
父からその手に持っていた1冊の本を渡された。
「その本にはね。……のことが書……ある。お前にはこの……の鍵を守ってもら……んだ」
父の目は大きく見開いていた。それはまるで、私に命令しているかのように主張してきた。。何としても、私にそれを守って欲しいらしかった。本の表紙には大きな白い塔の絵が書いてあった。本の題名は『マグノリア』だった。私が本の表紙を何となく眺めていると、また場面が変わった。今度は私の部屋だった。見慣れた窓際に、どこかで私が見つけてきた紫色の花が飾ってあった。隙間風で少し揺れている。
「お願……。頼む」
父はそう言って、私に土下座していた。
「なぜ……き受け……い?」
父は少し興奮気味だった。私は父から狂気を感じ取っていた。しばらく父は私に土下座したまま黙っていた。嵐の前の静けさと言うのだろうか。不気味な感じだった。しばらくして、父がまた口を開いた。
「これでも駄目な……方ない。分かった。お前のシナリオを……たせ!」
そう言うと、机に置いてあった私のシナリオを奪おうとした。意地でも私に鍵というものを守ってほしいらしい。私は必死に抵抗した。しかし、歴史に取り憑かれた父にはかなわなかった。私はシナリオを父に取られてしまった。
「仕方ないこ……。許して……よ」
そうとだけ言うと、父は薄ら笑いを浮かべながら部屋をあとにした。それは抑えきれない笑みといった感じだった。私は父の後を追った。ものすごく怖かった。歴史に取り憑かれた父は何をしてもおかしくない。父は史料室の中に入っていった。私はゆっくりと史料室の扉を開けようとした。しかし、鍵がかかっていた。扉が開かない。扉が………
私は目を覚ました。まだ少し眠かったが、夢の続きを深追いしたくはない。どれもこれも嫌な記憶ばかりを、私に思い出させるからだ。私は体を起こした。もう外は明るくなっていた。夜の間に新しいものに入れ代わったように、空気が冷たかった。ふと見ると、カズもナギトもすごい寝相でまだ眠っていた。私はふたりを起こさないように、ひとりで静かに背伸びをした。そして、穴から出て周りを見渡した。空はきれいに晴れていた。どこまでも続く瓦礫の世界を太陽が照らしている。そんないつもの景色が、今日は少しだけ心苦しかった。
クル
カイラの父親であり、狂った歴史家。
歴史を研究することさえ好まれない世の中なので、変わり者として周りに知られている。歴史のことになると、取り憑かれたように行動を起こす。クルは身体能力が高く、娘のカイラに受け継がれている。




