第9話「缶詰」
ロウソクで照らされたこの空間の奥をよく見ると、これまた直方体の茶色い箱が幾つか置いてあった。カイラもそれに気づいたらしく、同時に箱に近づいていった。
「どうしたんだよ。なんかあんのか?」
カズはそう言いながら僕の後ろに着いてきた。近づいて見ると、茶色い箱には「はにわ食品」と書いてあることが分かった。
「ハニワショクヒンってなんでしょうか。」
僕は落ち着いた口調で言った。
「食べれるんじゃないかな?『食』ってかいてあるし。」
カイラは疑問形のまま僕に返してきた。
「はにわ食品!?こんな瓦礫ばっかの世界にも、はにわ食品があるのか?!」
カズが何か知っているように驚いていた。
「何か知ってるのか?」
カイラが直ぐにカズにきいた。
「知ってるも何もっすね……昔は知らない人がいないくらいの大きな食品メーカーだったんすよ。」
カズはカイラの質問に答えた。
「メーカーってなんだ?」
カイラの質問は続いた。それは僕も意味がわからなかった。
「メーカーってのは、なんかを作る会社みたいな感じっすね。」
カズは思い出しながら答えている様だった。
「カイシャってなんだ。」
カイラはカズに質問を繰り返した。確かに会社と一言で言われると僕も分からなかった。
「なんて言えばいいかな。何人かの人が集まって、皆でひとつの利益を稼ぐ場所みたいな……?」
カイラは頷きながら理解しようとしていた。僕には少し難しいかった。
「じゃあ、あれは食べ物なんでしょうか?」
僕は2人に向かって言った。僕にとっては取り敢えず、食べ物かどうかが重要だった。
「食べれるかどうかは置いといて、多分そうだ。」
カズは僕にそう言った。
「箱を開けてみるか。」
カイラはそう言って茶色い箱を指さす。
「そうですね。」
もし食べ物なら、とても貴重だ。僕はそう思ってカイラの意見に賛成した。カイラは箱を開けた。僕はカイラの後ろから箱の中身を覗き込んだ。箱の中にはもっと小さい錆びついた金属製の入れ物があった。その入れ物はとてもたくさん箱の中に入っていた。
「かなり固そうですね。」
僕はそう言って、それをひとつ手にとった。
「これは、なんだ。」
カイラはカズにきいた。カズは僕とカイラの知らないことを思いの外、知っている。
「缶詰っす。それは鯖の水煮っすね。あんまり美味しくないし、まず腐ってると思いますぜ。」
カズがそう言ったにも関わらず、カイラはそこにあった瓦礫に缶詰を叩きつけて開けようとした。
「結構、固いんだな。」
カイラはカズに言った。
「危ないですよ!そんな開け方したら中身が飛び出てきますよ!」
カズは咄嗟にカイラを止めようとした。
「ん?中身が生きてるのか?」
そう言ってカイラは缶詰を振りまくった。チャプチャプと音がしたのが聞こえた。
「そうじゃなくて。食べ物が入ってるんです。それが出てきますよ。きっと腐ってますけど。そこの出てるとこに指を引っ掛けて開けてください。床において。」
カズはカイラに声を大きくして言った。
「それを、先に言ってくれよ。」
そう言ってカイラは慎重に缶詰を開けていった。中身は完全に液体だった。不思議な臭いがした。
「まぁ、腐ってるっすよねぇー。」
カズは当然のように言っていたが、少し残念そうだった。
「食べれそうに無いですね。」
僕も臭いからそう言った。これは食べれる物のにおいではない。にも関わらず、カイラはそれを少しだけ食べたらしかった。
「まずっ!なんの味もしないっ!捨ててくる。」
そう言ってカイラは、少し食べた缶詰の残りを捨てに穴から出て行った。
「それ臭いから遠くに捨てて下さいよ。」
鼻をつまみながらカズは言った。
「カイラさんはなんで食べようとしたんだ……」
僕がそれに驚いていたら、箱の奥の方からカズが別の缶詰を取り出していた。
「ほらよ。水と乾パンがあったぞ。珍しいな。」
「カンパンってなんですか?」
僕は直ぐにカズにきいた。
「硬いパンだ。俺も初めて見た。開けてみようぜ。」
そう言ってカズは慣れた手つきで缶詰を開けていった。
「昔のパンって黒いんですね。どこか毒々しい。」
缶詰の中身のカンパンを見て、最初に出た言葉だった。
「それはカビ生えてるからだ。どれも食えんな。水はいけそうかなぁー?」
そう言ってカズは水の缶詰を空けた。
「飲めそう。ちょっとしかないけど。」
カズの言った通り、1缶に2口分の水しか無さそうだった。
「諦めて寝るしかねぇかなぁ。お腹空いた。死ぬ。」
カズはそう言ってその場に横になってしまった。
「捨ててきたぞ!」
そう外から聞こえたと思ったら、穴からカイラが降りてきた。
「あれはやっぱり食えたもんじゃないね。まずい。」
「また、食べてみたんですか?」
「少しだけな。」
正直、カイラはこういう所が逞しすぎる。こんな感じだから外の世界で生きていけるのだろうか。僕はこっそりそんな事を思っていた。それからまた、カイラは箱の中身を漁り始めた。
「変なのばっかあるなー。このオシルコって何だ?」
カイラがそう言うと、寝ていたカズが咄嗟に体を起こした。
「おしるこあるんすか!腐ってるとは思うけど、好物だったんすよねぇ。」
「開けてみますか。」
僕はそう言って、オシルコの缶詰をカイラから受け取って開けてみた。何気に僕が缶詰を開けるのは初めてだ。思っていたより、固かった。
「やっと開きました!中に何か残ってますよ。濃い紫色ぽい何かが……。」
僕がそう言うと、カズが近寄って見に来た。
「これいけそうじゃね?食べてみる。」
そう言ってカズは少しだけそれを指の先につけて舐めてみていた。
「味薄くなってるけど、甘い。まだ食べれそう。」
カズはそう言って、オシルコを全て飲み干した。
「全部たべたんですか!えええーーー。」
「だってなぁ。俺の好物だし。死にはせんだろ。」
カズは当然のように言った。そういう所が少しイラッとくる。僕にも少し残してほしかったのに。
「まだ2つあったぞ。ちょうどいいな。」
そう言ってカイラはそのひとつを僕に渡してくれた。僕の機嫌はもとに戻った。僕とカイラは缶詰を開けてから、少しだけ指につけて舐めてみた。
「少し甘いな。舌の上がザラザラする。」
カイラが言った。
「それは小豆ですよ。おっと…小豆は豆みたいな食べ物のことっす。」
カズがカイラにそう答えた。二人が話している間に僕は食べ始めていた。
「甘いです。甘いですよ!いけますよこれ。」
そう言ってから僕は全部食べた。甘いものはこの世界ではとても貴重だ。僕は味わいながら食べた。カイラもオシルコを食べ始めた。
「ほんとだ。少し甘い。」
カイラは驚いた顔をしてどんどん食べていった。
「美味しかったですね。」
「そうだな。」
そう言ってカイラは最後の一滴まで飲み干した。カイラが食べ終わったのを見て、カズがねむたそうに言った。
「もうそろそろ寝ましょうぜ。食ったら眠くなってきた。」
僕は欠伸をした。確かに眠かった。振り向いて見たロウソクがだいぶん短くなっていた。灯りはそう長くは持ちそうになかった。
瓦礫
この世界の瓦礫の中には、形を留めているものもある。何かのコンテナや鉄骨などの丈夫な瓦礫は、第4世代が再利用して使っている事がある。




