↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元カノの妹と同棲することになりまして。  作者: 三久田ともかさ
過去から未来へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/59

夏の花火と彼氏。③


「いやー! モテる女は辛いわー!」

 迷子センターを後にしてから、雛乃はずっとこの調子だった。


「お前、四歳児相手に何言ってんだ」

「年齢なんて関係ないもーん!」

「あの子が結婚できる頃には、お前はもうおばさんだよ」


「失礼な! 私の容姿は50歳まで変わんない設定なの! 大人の魅力が年齢を超越してるの!」

「はいはい」


 まったく。

 どこぞの戦闘民族の血でも混じってるんじゃないだろうな。

 たいちくんも、とんでもない女に惚れてしまったもんだ。


「栞ちゃん! おにぃが冷たい!」

「雛乃ちゃん、モテモテでしたね」

「でしょー!? 栞ちゃんはわかってるねー!」


「……でも、よかったですね」

「ん?」

 栞ちゃんが、優しい表情を浮かべ呟く。


「たいちくん、お母さんに会えましたから」

「……そうだな」

 お母さんと一緒にいられない、栞ちゃんだからこそ何か思うところがあったのだろう。

 

「いやー、それにしても、あんなに懐いてくれるとは思わなかったなー!」

「はっ、懐くどころか、お前がたいちくんに遊んでもらってたもんな」

「どういう意味!?」

「そのまんまの意味だよ」


 ちょうどいい。

 雛乃のお陰でもやもやと考えなくて済む。

 最近、色々あったからな。

 少し自分がわからなくなっていた。


「やれやれ……」

 呆れた様子の雛乃がなにか話している。

「おにぃみたいに子ども心を忘れたくなんてないね!」

「大人の魅力とやらはどこへ行ったんだか」

 こっちがやれやれだ。


 そんなやり取りをしているうちに、周囲の人の流れが変わり始めた。


「おっ! おにぃ! そろそろじゃない!?」

「そうだな。どっか座れる場所探さないとな」


 人混みを避けながら歩いていると、少し開けた場所を見つけた。

 幸い、三人が並んで座れるくらいの空間が残っている。


「ここでいいか?」

「おっけー!」

「はい」


 俺たちは持ってきた敷物を広げ、腰を下ろした。


「おにぃうるさいから私、栞ちゃんの隣~」

 などと、一番うるさい奴が仕切った結果。

 栞ちゃんが真ん中で、左右を俺と雛乃が挟む形となった。


「わぁ……楽しみですね!」

 栞ちゃんが夜空を見上げる。

 その横顔を見て、俺もつられるように空を見上げた。


◇


 ヒュウウウ……。

 夜空に、一筋の光が昇っていく。


 ドォーーンッ!


「わぁっ!」

 栞ちゃんは花火を見つめ、思わず声を漏らした。


 大輪の花が、夜空いっぱいに広がる。

 赤、青、緑。

 色とりどりの光が弾け、ぱらぱらと散っていく。

 少し遅れて届く、身体の芯まで響くような轟音。


「おー! 綺麗だねー!」

 雛乃も子どものように声を上げる。


「本当に、綺麗ですね……」

 次々と打ち上がる花火。

 夜空を鮮やかに染め上げては、瞬く間に消えていく。


 綺麗なものほど、儚い。


 そんなことを考えていると、栞ちゃんと再会した日のことを思い出していた。


 行く当てもなく、途方に暮れていた彼女。

 一緒に暮らすことになって。


 初めはどこか遠慮がちだった彼女が、少しずつ笑顔を見せてくれるようになった。


 何気ない食卓。

 他愛もない会話。

 雛乃も交えた、騒がしい時間。


 思い出が、打ち上がる花火とともに浮かんでは消えていく。


 ……もう、ずいぶん経つんだな。

 ふと、隣に目を向ける。


「わぁ……!」

 栞ちゃんは、目を輝かせながら夜空を見上げていた。


 今、彼女は何を考えているんだろう。

 ……いや。

 どうして俺は、そんなことを気にしているんだろうか。


「……っ!?」

 突然、隣から身体を押された。


「す、すみません!」

 栞ちゃんが慌てたようにこちらを見る。

 どうやら雛乃側から押されたみたいだ。


「ちょっ、雛乃!」

「ごめーん! こっち人増えてきてぇー!」

 見れば、雛乃の向こう側に人が集まり始めていた。


 どうやら、少しずつこちらへ押されているらしい。


「い、いや。こっちこそごめん」

「いえ! 恭佐さんは何も……!」


 肩が触れる。

 浴衣の袖が、俺の腕に重なった。

 爽やかな甘い香りが漂う。


 同じ家で生活しているはずなのに、どうしてこうも意識してしまうのだろう。

 心臓がドクドクと脈を打つ。


 ヒュウゥゥ……。


 ドォーーンッ!


 再び花火が打ち上がる。

 腹の底まで響くような音。

 きっと、花火を見ているからだろう。

 この音が、きっと。


 いや。


 違う。


 隣に座る彼女。

 綺麗に結い上げられた髪。

 丁寧に施された化粧。

 浴衣の襟元から覗く、白い頸。

 夏の暑さのせいだろうか。

 ほんのりと赤く染まる頬。


 待ち合わせ場所で初めてその姿を見たときも、思わず言葉を失った。


 花火の光に照らされるたびに、彼女の表情が浮かび上がる。


 そんな彼女から、目が離せないでいた。


 ……ああ。

 心臓がうるさい。


◇


「わぁっ! 見てください!」

 栞ちゃんが夜空を指さした。


 花火が上がるたびに、無邪気な笑顔を見せる。

 大きく花開くときには目を輝かせ。

 散り際には、どこか儚げな表情を浮かべる。


 その一つひとつを、心から噛み締めているようだった。


 ……なぜだろう。

 いつの間にか、俺は花火よりも彼女の表情を追っていた。


 ああ。

 俺は、この笑顔が……。


 ヒュウゥゥーー……。


 ひときわ長い音が、夜空に響く。


 ドォォォンッ!!


 大きな花火が打ち上がった。

 視界いっぱいに広がる光。

 辺りが一瞬、真昼のような明るさに包まれる。


「すごいですよ! 恭佐さ……ん?」


 じっと見つめてしまっていたせいだ。

 振り向いた栞ちゃんと、目が合ってしまう。


 花火の光に照らされた、その顔。

 大きく見開かれた瞳。

 少しだけ開いた唇。

 そのどれもが目が離せないほどに。


「……綺麗だ」


 気がついたら。

 自然と、口からこぼれ落ちていた。


「……へっ?」


「……っ!?」

 やってしまった。

 何をかはわからない。

 だけどそう思った。


「あっ、いや! その、ほら! 今の花火!」


「あっ、あーー! ですね! そうですよね!」


「……ああ」

 大きな瞳から目を逸らす。


「…………」

「…………」

 

 お互い言葉が出てこない。

 けれど俺たちは、ほとんど同時に夜空へ視線を戻した。


 ……何やってんだ、俺。


 いや、でも。

 別に変なことを言ったわけじゃない。

 実際、花火は綺麗だった。


 ……本当に?


 先ほどまで続いていた花火が、ふっと途切れる。

 次の打ち上げまでの、少しの間。

 夜空には、先ほどの花火の煙が漂っていた。

 次第に風に流され、ゆっくりと形を変えていく。


 ……静かだ。


 周囲には大勢の人がいる。

 話し声だって聞こえている。

 それなのに。

 隣にいる彼女との間だけ、妙に静かに感じられた。


「あ、あれー。それにしても今日は暑いですねー」

 栞ちゃんが、ぱたぱたと手で顔を仰いでいる。


「そ、そうだな」

「夏ですもんねー」

「……ああ」


「…………」

「…………」

 ……会話が続かない。


 ちらりと隣を見る。

 栞ちゃんは、まだ手で顔を仰いでいた。

 その頬は、さっきより赤くなっているような気がした。


 反対側の雛乃は、何も言わない。

 いつもなら、こういうときに限って余計なことを言い出すくせに。


 それにしても。

 次の花火は、まだだろうか?

 ほんの少しの時間が、やけに長く感じられる。


 花火は上がっていない。

 だけど。

 この胸の音だけは、鳴りやまなかった。


◇


「……恭佐さん」


「ん?」

 栞ちゃんが、囁くように俺を呼んだ。

 見ると、彼女は夜空を見上げていた。


「私、お二人に会えて、本当に良かったです」


「……えっ?」

 突然の言葉に、思わず聞き返してしまった。


 栞ちゃんは、こちらに顔を向ける。


「いつも、とっても楽しいです!」


「……そっか」

 薄暗い夜を照らすような笑顔。


 思い出す。

 初めて再会した日のこと。

 あのときの彼女は、今にも消えてしまいそうな顔をしていた。


 何を考えているのかもわからなくて。


 どこか危なっかしくて。

 放っておけなかった。

 それが今は、こんなふうに笑っている。


 ……よかった。


 本当に。

 そう思った。


 その笑顔が、眩しくて。

 俺は、また目を奪われてしまう。


 ヒュウウウ……。


 ドォーーンッ!


「わぁ! 始まりましたよー!」


 再び花火が打ち上がる。

 栞ちゃんが嬉しそうに夜空を見上げる。


 赤い光が、その横顔を照らす。

 次の瞬間には青く。

 そして、金色に。


 無邪気に笑う彼女を見ていると、先ほどの出来事が頭に浮かんだ。


『ぼく、ひなのちゃんとけっこんする!』


 たいちくんの言葉だ。

 ……結婚、か。


 思わず苦笑する。

 まだ小さな子供なのに、あんなにも真っすぐ自分の気持ちを伝えていた。


 それに比べて、俺は。

 ……いや。

 何を比べてるんだ。


 そもそも、自分のこの感情が何なのか、それすら理解できてもいないのに。


 俺はもう一度、夜空を見上げた。

 大きな花火が咲いては、散っていく。

 その光が消えるたびに、夜の暗さが戻ってくる。


 ……一緒に暮らし始めて、もう八ヶ月。

 俺たちは、別に恋人同士じゃない。

 同じ家で暮らしているだけ。


 ただ、それだけの関係。


 ……本当に、そうなのだろうか。


 隣では、栞ちゃんが楽しそうに花火を眺めている。


 俺は彼女と。


 栞ちゃんと。


 どうなりたいのだろう。


 夜空に打ち上がっては、散っていく花火を眺めながら。


 そんなことを考えていた。



はい。

最終回に向けて色々と読み直しをしたりしていて、つい時間が溶けている今日この頃。


いつも登場人物の一人ひとりが何を考えて、何をするのかを大切に書かせていただいてます。


そんな中、今回だけでなく恭佐視点の話では「結局何考えてるの?」と思うことがあるかと思います。

正直いうと私にもわかりません。


どういうこと?

と思う方もいるかもしれませんが、「その時の彼」を描くと自然とそうなった。

だから私にも「その時の彼」の気持ちはわからない。

だってそもそも答えなんてないんだもの。

と言うことになります笑


周囲に対しておせっかいをして来た彼が、自分自身のことになると途端にわからなくなる。


自分の初めての感情に戸惑いながら、最後に彼がどう答えを出すのか、最後まで見届けて下さると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。