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元カノの妹と同棲することになりまして。  作者: 三久田ともかさ


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相澤家、家訓その⑤ 後編

「おにぃ……ごめん。私はもう、耐えられそうにない……」

 そう言い残し、雛乃は倒れた。


「くそっ……」

 目の前の光景に、俺は意識を保つのがやっとだった。


 鮮やかな赤い液体が、白いTシャツにシミを広げていく。

 雛乃はもう、ぴくりとも動かなくなった。


 霞む視界の先で、栞ちゃんが揺れる。

 うまく聞き取れない。


 いや、聞いてしまったら最後。

 俺も雛乃の二の舞になるだろう。

 朦朧とする意識の中、栞ちゃんから浴びせられる言葉の数々。


 俺ももう、ここまでかもしれない。

 意識を失いかけたその時、栞ちゃんがパタリと倒れた。

 両親と兄貴も、予想外の展開に固まってしまっていた。


 ちくしょう……。

 どうしてこうなった……。


 ♢


「かんぱーい!!」

「「「かんぱーい!」」」

 仕事を終えた相澤家の食卓に、賑やかな声が響いた。


 テーブルには母さんが用意してくれた料理が並んでいる。

 今年の営業を無事に終えられたことに感謝しつつ、ご馳走にありつく。


「栞ちゃん、本当にお疲れ様」

「ありがとうございます!」

 母さんに声をかけられた栞ちゃんが、嬉しそうに頭を下げる。


 こうして一緒に食卓を囲んでいる姿を見ると、なんだか不思議な気分になる。

 つい1ヶ月前まで、彼女がここにいる未来なんて想像もしていなかった。


「いやー、それにしても栞ちゃんが来てくれて助かったな!」

 兄貴が豪快に笑う。

「いえ、私なんてまだまだです」

「そんなことないわよ。常連さんたちにもすっかり人気者だもの」

「そーそー! ヒナなんか今日、栞ちゃんに命救われたし!」


「それは自業自得だろ」

「おにぃが怖いからですぅ!」

 ……誰のせいだと思ってるんだ。


「ふふっ」

 栞ちゃんが笑う。

 その様子を見て、母さんも嬉しそうに目を細めた。


「そうだ。栞ちゃん、お飲み物は足りてる?」

「あ、はい! ありがとうございます」

「お酒もあるけれど、どうする?」


「お酒……ですか?」

 栞ちゃんが少し考えるように首を傾げた。

「実は私、お酒を飲んだことがなくて……」


「えっ!? そうなの!?」

 真っ先に反応したのは雛乃だった。

「栞ちゃん、もう21歳だよね!?」

「うん。でも、飲む機会がなかったから」

 遊ぶことなく、お金を貯めるのに必死だった。

 無理もない。


「そっかぁ。じゃあ今日が初めてのお酒だね!」

「おい、雛乃」

「なぁに?」

「変な飲ませ方するなよ」

「わかってるってば! ヒナだって大人ですぅ!」


 ……信用ならんな。

 とはいえ、栞ちゃんも成人している。

 本人が飲んでみたいなら、少しくらいはいいだろう。

 それに栞ちゃんが酔ったらどんなタイプなのか、少し興味があった。


「無理して飲まなくてもいいからね」

 母さんが優しく声をかける。

「はい。でも……少しだけ、飲んでみたいです」

「それなら、おちょこに1杯だけにしておきましょうか」

「はい!」

 母さんが小さなおちょこに酒を注ぐ。

 栞ちゃんはそれを両手で受け取った。


「じゃあ、栞ちゃんの初飲酒を祝して!」

「雛乃、変な祝い方すんな」

「えー!? めでたいじゃん!」

 雛乃に促され、栞ちゃんがおちょこを口元へ運ぶ。

 そして、ほんの少しだけ飲んだ。


「……っ!」

 きゅっと目を閉じる。

「ど、どう?」

「……少し、苦いような……不思議な味です」


「ははっ! 最初はそんなもんだ!」

 兄貴が笑う。

「無理しなくていいからな」

「はい……」

 そう答えた栞ちゃんは、もう一度おちょこを見つめた。


 そして。

 ちびり。

 また、ちびり。

 少しずつ飲み進め、とうとう1杯を空にした。


「……飲めました」

「おおー! 栞ちゃん、大人の階段登ったぁ! これで栞ちゃんもシンデレラだねー!」


「大げさなんだよ」

 雛乃はいつも通り騒いでいる。

 酒が入っているとはいえ、普段と大差ない。

 むしろ、素面の時から酔っ払っているようなものだ。

 問題は。


「…………」

 栞ちゃんだった。

「……栞ちゃん?」


「…………えへ」

 ……えへ?

 何だ、今の。

 栞ちゃんの頬が、ほんのり赤く染まっている。

 目元も少しとろんとしていた。


「母さん」

「……ええ」

「これ、酔ってない?」

「……そうみたいね」


 早くないか?

 おちょこ1杯だぞ?

「……母さん、栞ちゃんにはもう飲ませないでくれ」

「ええ。そうしましょう」


「しおりちゃーん?」

 雛乃が顔を覗き込む。

「…………」

「だいじょーぶ?」


「……ひなのちゃん?」

「うんうん!」

「……えへへ」

「…………」


 雛乃が固まった。

 ……おい。

 お前までどうした。


「おにぃ……」

「何だよ」

「栞ちゃんが……」

「見ればわかる」

「うっそ、どうしよ、かわいい……」


 ほんのりと赤く染まった頬と、甘い吐息。

 普段とは違う栞ちゃんの姿に、思わず心臓が高鳴る。


「…………」


「おにぃ?」

「何でもねぇよ!」

 しかし、当の栞ちゃんはそんなやり取りなど気にも留めず、ふらふらと立ち上がった。


「栞ちゃん?」

「…………」

 とことこ。

 こちらへ歩いてくる。


「お、おい。危ないから座って……」


 すとん。


「…………は?」

 俺のあぐらの上に、栞ちゃんが座った。

 何のためらいもなく。

 まるで、そこが自分の指定席であるかのように。


「…………」

「…………」

 食卓が静まり返った。


 いや。

 待て。

 ちょっと待て。

 何が起きてる?

 俺は今、何をされている?


「……栞ちゃん?」

「…………ん」

 返事なのか何なのかわからない声を漏らすと、栞ちゃんは俺の両腕を取った。

 そして、自分の体の前で交差させる。


 ぎゅっ。

「…………」

 ……結果、俺が膝の上に栞ちゃんを座らせ、抱きしめる形となった。

 何だ、この状況。

 どうすればいい?

 目の前には栞ちゃんの頭があり、甘い匂いが漂ってくる。


 ごくり。

「おにぃ……」

 雛乃が震える声で呟く。


「……何だ」

「ずるい」

「俺に言うな。それにこっちは色々とやばい」


「ヒナもぉぉぉ!!」

 駄々をこねるように雛乃が勢いよく立ち上がる。

 そして、栞ちゃんの正面に回り込んだ。


「ほーら、栞ちゃーん!」

「…………?」

「お姉ちゃんですよー!」

「……おねぇ、ちゃん?」

「そうそう! ねぇねぇ!」

 ……何を教えてるんだ、お前は。


「…………」

 栞ちゃんが、ゆっくりと雛乃を見上げた。

 そして。


「……ねぇねぇちゃん?」

「…………っ!!」

 雛乃が胸を押さえた。


「はぁう……」

「……おい?」

「…………」

「雛乃?」


「……むり」

「は?」

「かわいすぎて……むり……」


 つーっと。

 雛乃の鼻から、赤いものが流れ落ちた。

「おい!? お前、鼻血出てんぞ!?」

「……本望……」

 そのまま雛乃は床に崩れ落ちた。


「雛乃ぉぉぉ!?」

 ……何やってんだ、こいつ。

 しかし。

 栞ちゃんの攻撃は、まだ終わっていなかった。


「…………」

 今度は、俺の顔を見上げる。

 とろんとした目。

 ほんのり赤い頬。

 そして、普段よりずっと無防備な笑顔。


「……にぃにぃ?」

 そう言って首を傾げた。

「…………っ!!」

 ……ぐはっ。


 心臓が。

 心臓が何かおかしい。

 いや、落ち着け。

 相手は酔っ払いだ。

 しかも初めて酒を飲んだばかりの、完全に判断力が怪しい状態だ。


 ここで動揺してどうする。

 俺は大人だ。

 28歳だ。

 社会人だ。

 落ち着け。


「……にぃにぃ?」

 下から上目遣いに見つめられた。


「…………」

 ……無理だ。

「恭佐!?」

 兄貴が声を上げる。


「お前、顔真っ赤だぞ!?」

「うるせぇ!!」

「ははははっ!!」

 親父が腹を抱えて笑っている。

 母さんまで口元を押さえて肩を震わせていた。


 ……この家族。

 誰も助けてくれねぇ。


「にぃにぃ……」

「……はい」

「…………えへへ」

 栞ちゃんは満足そうに笑うと、俺の腕をさらに強く抱きしめた。


 ……やめてくれ。

 理性がもたん。

 いや、変な意味じゃない。

 ただ。

 かわいすぎる。


「おにぃ……」

 床に倒れていた雛乃が、ゆっくりと顔を上げる。


「……ヒナ、決めた」

「何をだよ」

「明日から栞ちゃんのこと、ねぇねぇって呼ぶ……」


「好きにしろ……」

「おにぃは、にぃにぃね……」

「絶対やめろ」

「……にぃにぃ」

「お前が言うな!!」


 再び笑い声が響く。

 まったく。

 今年最後の最後で、とんでもないことになった。

 しかし。

 しばらくすると、栞ちゃんの動きが少しずつ小さくなっていった。


「……栞ちゃん?」

「…………」

 返事がない。

 代わりに、規則正しい寝息が聞こえてきた。


 ……寝たのか。

 おちょこ1杯で。

 しかも、俺の膝の上で。


「……母さん、毛布取ってくれる?」

「ええ、ちょっと待ってね」

 母さんが立ち上がる。

 俺は栞ちゃんを起こさないよう、そっと姿勢を整えた。

 慣れない環境であんなに働いたんだ。無理もないだろう。

 横にして寝かせようとした、その時だった。


「…………おかあさん」

「…………」

 小さな声。

 寝言だった。

 けれど、その一言で。

 さっきまで賑やかだった食卓が、静かになった。


 栞ちゃんは、もう一度だけ呟いた。

「……おかあさん……」

 俺は何も言えなかった。

 彼女が何を思い、誰を夢に見ているのか。

 それはわからない。


 ただ。

 今の栞ちゃんが、安心して眠れているのなら。

 それだけでいいと思った。


「……栞ちゃん」

 母さんが戻ってきた。

 手に持っていた毛布を、そっと栞ちゃんの肩にかける。

 そして。

 その髪を、優しく撫でた。


「……お疲れ様」

 まるで、自分の娘に語りかけるように。

 栞ちゃんは眠ったまま、小さく笑った。


 ……ああ。

 栞ちゃんが、こんなにも安心した顔で眠っている。

 それだけで、十分だった。


 ここが彼女にとって、少しでも安らげる場所になっているのなら。

 俺は、それが嬉しい。


 ♢


 なお。

 この事件を受け、相澤家では緊急家族会議が開かれた。


 議題はただ1つ。

 栞ちゃんの飲酒について。


 審議の結果、全会一致で新たな家訓が制定された。


 相澤家家訓その5。

 『栞ちゃんにお酒を与えるべからず』

 死人が出るからだ。

 異議は認めない。

えーいかがでしたでしょうか?


日本酒の熱燗や芋焼酎のお湯割りの美味しい季節がやって参りましたね。

皆さんの初めての飲酒体験はいかがでしたか?

僕はひたすら色んなお酒を頼んで好みを探したものです。

読者のメイン層30〜40代くらいかなーっと思いながら書いているのですが、どうなんでしょう?


集計機能とかあったら面白いなぁと思った次第です。


改めてこの作品をお読みいただきありがとうございます。

続きを読みたい!

っと思ったそこのあなた。

ブックマークをして更新通知をお待ち下さい。

それではまた明日……

後2日働いたらやっと休みだ……


ストック作らねば……!!

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