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元カノの妹と同棲することになりまして。  作者: 三久田ともかさ


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30/46

田中、襲来。


 12月28日。

 実家の相澤食堂で仕事を手伝い始めて、3日目。


 栞ちゃんは客席周りの清掃を手伝い、俺は厨房で食材の仕込みをしていた。


 ちなみに雛乃は、夢の中だ。


「こんちわー」

 開店前だというのに、ずかずかと店内へ入り込んでくる男。

 雛乃に負けず劣らず騒がしい。


「なんの用だよ、淳」

「よっ! 恭佐! 元気してたかー?」

 屈託のない笑顔に、陽のオーラを纏った男。

 自称・親友の長谷川《はせがわ》 淳《あつし》。


 奇しくも、栞ちゃんとの出会いのきっかけとなった榊原美麗。

 その美麗と俺が出会うきっかけを作った男でもある。

 大学を卒業してからは、年に数回顔を合わせるかどうかといったところだった。


「さっきまでは元気だったよ。さっきまではな……」

 騒がしいやつを相手にするのは疲れる。

 そういうのは、雛乃1人で十分すぎるくらいだった。


「いやー、おじさんが倒れたって聞いたからさ。仕事納めも終わったし、手伝おうと思ったんだけど……」


 淳の視線が、客席を清掃していた栞ちゃんへと向けられる。

「いやー、どうやら必要なかったみたいだなー!」


 その声に気づいた栞ちゃんが、こちらへ振り返る。

 手にしていた台拭きを置き、淳に向かって丁寧に頭を下げた。


「あっ、初めまして。榊原栞と申します。恭佐さんのお友達……でしょうか?」

「榊原……」

 ほんの一瞬。

 淳の表情から、いつもの軽薄そうな笑みが消えた。


「…………?」

 首を傾げる栞ちゃん。

 淳の様子もすぐに元へ戻る。


「あー、どもども! 恭佐の親友やってまーす。淳でーす」

「自称だけどな」

「ひどくない!? せめて他称にして!!」


 おちゃらけた様子の淳に、栞ちゃんは少し困ったように笑っていた。

 そんな栞ちゃんを、淳は笑顔のまま見つめている。


「…………」

 表情こそいつもの淳だったが、どこか探るような視線にも見えた。


「あら、淳くんじゃない! 久しぶりねー。今日はどうしたのー?」

 厨房から母さんが出てくる。


「お久しぶりです、香織さん! 今日もお綺麗ですね!」

「あらやだ淳くんったら。そんなこと言っても唐揚げくらいしか出ないわよ♡」


 出るのかよ。

 てか、出すなよ。

 母娘そろって原価圧迫させんな。


「ありがとうございまーす! 手伝いに来たんですけど、人手足りてそうなんで、このあと3人! いいっすか?」


「あら、ありがとう。もちろんいいわよ。ゆっくりしていってね」

 そう言い残して、母さんは厨房へと戻っていく。


「んで、あとの2人って誰だよ」

「それは来てからのお楽しみ〜」

 ニシシッと笑う淳に、小さくため息を吐いて仕事へと戻る。


「邪魔だけはするなよ」

「りょー!」

 そして淳は開店までの間、端の座敷に腰を下ろし、ぼんやりと店内を眺めていた。


 いや。

 正確には、その中の1人を。

 栞ちゃんを。


♢


 ガヤガヤ。

 開店前だというのに、店の外が騒がしくなってきた。

 毎年この時期は、地元の常連さんたちが集まって忘年会を開く。

 今日も忙しくなりそうだった。


「おはよぉ〜」

 盛大にあくびをしながら、雛乃が顔を出す。

「遅ぇーよ。栞ちゃんがほとんどやってくれてるぞ」


 雛乃にそう告げてから栞ちゃんに目を向けると、ちょうど雛乃のあくびが移ったところだった。


「あっ……」

 目が合ったまま、栞ちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。

 口元を手で隠し、恥ずかしそうに俯いてしまった。


 ……なんだか、こっちまで恥ずかしくなってくる。

 俺は上がった熱を冷ますように、コップの水を飲み干した。


「あらあら、朝からお熱いわね〜。そう思わない? 淳さん」

 いつの間にか、雛乃が淳の隣へと移動していた。


「あらやだ、んもう。わたち、恥ずかしくて見てられないわ」

 顔を隠した指の隙間から、こちらをチラチラと覗く淳。

 お前はいちいちそのノリに乗っかるんじゃない。


 ああ、神よ。

 なぜこの2人を引き合わせてしまわれたのですか……。

 俺は神を心底憎んだ。

 そんな俺と栞ちゃんをよそに、2人は勝手に盛り上がり始める。


「淳さん久しぶり〜。いつぶり〜?」

「いぇーい! ひなちゃんおひさー! 元気してたー?」


「元気元気〜! 淳さんは?」

「絶好調〜!」

「「いぇーい!」」

 パァンッ!

 勢いよくハイタッチを交わす2人。


 ……なんなんだ、この空間。

 朝から陽のオーラが強すぎる。

 お前ら2人で太陽光発電でも始めろよ。

 その方が余程世の中のためになる。


「そういえば淳さん、お父さんが倒れたって聞いて来てくれたんでしょ?」

「そうそう。大丈夫なの?」

「うん! 昨日もお母さんに怒られながらテレビ見てたよ!」

「なーんだ! よかったわー!」

「でしょー?」


「いや、心配して来てくれたんだから、もう少し説明してやれよ」

 俺が口を挟むと、2人が同時にこちらを向いた。

「「お前は黙ってろ!」」

 ……おい。

 なんで息ぴったりなんだよ。


「栞ちゃん」

「は、はい?」

「あの2人には近づかない方がいい」

「えっ……?」

「馬鹿が移る」


「聞こえてるぞーばーか!」

「おにぃのばーか!」

 ……ほらな。

 もう帰りたい。


♢


「いらっしゃいませー!」

 開店と同時に、待っていた常連さんたちが次々と店内へ入ってくる。


 仕事納めを終えた人たちが集まり、昼間から酒を飲みながら今年の出来事を語り合う。

 毎年恒例の光景だ。

 もっとも、俺たちにとっては単純に忙しいだけなのだが。


「恭佐さん、山田さんのお料理、できていますか?」

「ああ、ちょうどできたところだ。頼む」


「はい!」

 栞ちゃんが盆を手に取り、料理を運んでいく。

 最初こそ慣れない様子だったが、3日目ともなれば随分と手際がよくなっていた。


 それだけではない。

 ここ数日で、常連さんたちの顔と名前まで随分と覚えたようだった。

「山田さん、お待たせしました。生姜焼き定食です」


「おっ、ありがとう! もう名前覚えてくれたのかい?」

「はい。昨日もいらっしゃいましたよね?」

「ははっ! こりゃ嬉しいねぇ!」

 栞ちゃんが柔らかく微笑む。


「ごゆっくりどうぞ」

 丁寧に頭を下げて、次の仕事へと向かっていく。

 ……うん。

 随分と自然に笑うようになったな。

 そんなことを考えていると、入口から声が聞こえてきた。


「おーい、淳!」

「おっ、来た来た!」

 淳が立ち上がり、入口へと手を振る。

 そこには、男女2人の姿があった。


 ……ん?

 どこかで見たことがあるような。


「久しぶりー! 相澤くん!」

 女性の方が、こちらへ笑顔を向けてくる。

「ああ、どうも。お久しぶりです」

「元気だった?」

「ええ、おかげさまで」

 ……誰だっけ。

 いや、待て。

 見覚えはある。

 確か大学時代に会ったことが……。


「恭佐、覚えてるよな?」

 淳がニヤニヤと笑っている。

「当たり前だろ」

「じゃあ、名前言ってみ?」

「…………」

 くそ。

 なんでこいつ、こういう時だけ察しがいいんだ。


「いや、ほら。久しぶりすぎて、なんて呼んでたか一瞬迷っただけだよ」

「ふーん?」

「おい淳、いいから席案内してやれよ」


「はいはい」

 危ない。

 余計なことを言う前に話題を変えよう。

「こちらへどうぞ」

 栞ちゃんが2人を座敷へ案内する。


「あら、ありがとう」

 女性が栞ちゃんに微笑みかける。

「お飲み物はどうされますか?」

「じゃあ、私はウーロン茶で」

「俺も同じので」

「かしこまりました」


 丁寧に頭を下げて、栞ちゃんが厨房へと戻っていく。

「……なあ、恭佐」

 淳が小声で話しかけてきた。


「なんだよ」

「あの子って……」

「あとでな」

「……りょーかい」

 珍しく素直に引き下がる淳。

 ……まあ、こいつも馬鹿ではない。

 騒がしいだけで。


♢


 昼の忙しさがひと段落した頃。

 俺は淳たちの座敷へと足を運んだ。


「お疲れー!」

「おう」

「いやー、相変わらず繁盛してんなぁ」

「年末だからな」


 淳の隣では、先ほどの男女が仲良さそうに話していた。

 ……そういえば。

 この2人、確か大学時代の合コンで知り合ったんだっけ。

 確か、そう、田中と佐藤さん。


「相澤くん、久しぶりだね」

「ああ、どうも。ご無沙汰してます」

「なんか雰囲気変わった?」

「そうですか?」

「うん。前より少し、明るくなったような」

「気のせいじゃないですかね?」

「そんなことないと思うけどなぁ」


 ……まあ、7年も経てば人は変わる。

「お前、あの頃はもっと愛想なかったもんな」

 田中が笑いながら口を挟む。


「久しぶりに会ってそれかよ」

「いやいや、褒めてるって」

「どこがだよ」

 そんなやり取りをしていると、女性が改まった様子で口を開いた。


「実は今日、相澤くんに報告したいことがあって」

「報告?」

「うん。私たち、結婚することになったの」


「……おお!」

 思わず声が出た。

「それはなんというか、おめでとうございます。だな」

「ありがとう!」

 笑顔が眩しい。

 疲れた目に沁みてきた。


「いやー、ようやくだよ」

 田中が照れくさそうに笑う。

「長かったなぁ」

 淳がしみじみと頷いた。


 ……なるほど。

 7年前のあの合コンから、ずっと付き合っていたのか。

 素直にすごいと思う。


「それでね、相澤くん」

「はい?」

「よかったらその、結婚式に来てほしいの」

「……俺が?」

「うん。もちろん!」

 佐藤さんが嬉しそうに頷く。


「あの時の合コンがなかったら、私たち付き合ってたかわからないから……」

「まあ、その可能性もありますね……」


「淳くんがみんなを集めてくれたけど、相澤くんも来てくれたから、あの日付き合えたと思ってるの」


 ……そうだったっけ。

 正直、そこまで何かした覚えがない。


「だから、私たちが出会うきっかけの1人なんだよ。ぜひ来てほしいなって」

「……そういうことなら、喜んで」

「本当!? ありがとう!」

 佐藤さんが満面の笑みを浮かべる。

 そして田中も嬉しそうに頭を下げた。


「ありがとうな、相澤」

「いやいや。こちらこそ、おめでとう」


 ……なんだか、こういうのもいいな。

 7年前に偶然出会った2人が、こうして結婚する。

 人生、何がきっかけになるか分からないものだ。


「おめでとうございます」

 いつの間にか近くに来ていた栞ちゃんが、2人へ声をかけた。


「あら、ありがとう!」

「ご結婚されるんですね。素敵です」

 栞ちゃんが柔らかく微笑む。


「そうなの。もう7年も付き合ってるんだけどね」

「7年……」

「うん。大学生の頃に知り合って、そのままずっと」

「そうなんですね……」

 栞ちゃんは感心したように頷いていた。


「ちなみに、どこで知り合ったと思う?」

 淳が楽しそうに口を挟む。

「えっと……大学でしょうか?」


「惜しい! 合コン!」

「あっ……!」

 栞ちゃんが小さく声を上げる。

 そして、何かに気づいたように俺たちの顔を見回した。


「……もしかして」

「ん?」

「田中さんと、佐藤さん……ですか?」


「「えっ?」」


 男女2人が同時に声を上げた。


「……えっ?」

 栞ちゃんも不思議そうに首を傾げる。


「……栞ちゃん」

「はい?」

「それ、誰から聞いた?」

「えっ? 恭佐さんからですけど……」


「…………」

 一同の視線がゆっくりと俺へ向けられる。


 ニヤニヤ。

「へぇ〜? 相澤くん?」

 佐藤さんが口元を押さえている。


「田中さんと佐藤さん、ねぇ?」

 男性も肩を震わせ始めた。


「……いや、あの」

「ぷっ……!」

 淳が耐えきれずに吹き出す。


「ぶははははっ!!」

 そして、3人が一斉に笑い始めた。

「やっぱり覚えられてなかったかー!」

「ちょっと! 7年経っても名前覚えてないの!?」

「しかも田中と佐藤って! 適当すぎるだろ!」


 ……くそ。

 完全にやらかした。


「えっ? えっ?」

 栞ちゃんが困惑した様子で俺と3人を見比べる。


「恭佐さん……?」

「……ごめん」

「えっ?」

「前に話した時のその名前、俺が適当につけた」


「ええっ!?」

 栞ちゃんの顔が真っ赤になる。

「わ、私……失礼なことを……!」

「いやいや! 栞ちゃんは悪くないよ!」

 佐藤さん?が笑いながら手を振る。


「悪いのは全部こいつだから!」

 田中?が俺を指差した。

「……反論できねぇ」

「おにぃー!」


 そこへ、最悪のタイミングで雛乃がやってきた。

「なになにー? なんか楽しそうじゃん!」


「ひなちゃん聞いてよ! こいつさぁ!」

 淳が嬉々として事情を説明し始める。

 ……終わった。

 俺の平穏な年末が、音を立てて崩れていく。


「ぶはっ!」

 雛乃が盛大に吹き出した。

「おにぃ! それはないってー!」


「うるせぇ!」

「しかも栞ちゃん、ご本人の前で言っちゃったの!? 最悪じゃん!」

 腹を抱えて笑う雛乃。


「分かってるよ!」

 ……くそ。

 全員敵かよ。


「ハッ!!ってことはマイケルとキャサリンは!?」

 雛乃が笑いの燃料を追加投入する。

「おいおい、誰がマイケルでキャサリンなんだ?」


 淳もそれに乗っかる。

 そして平和にも大炎上する昔話。

 

 神様。

 先ほどは憎んでしまって申し訳ありませんでした。

 ですから、どうか。

 この馬鹿どもを黙らせてください。


♢


 ひとしきり笑い終えた頃。

 栞ちゃんは厨房の手伝いへ戻り、雛乃も母さんに呼ばれて仕事へ戻っていった。

 座敷には、ようやく落ち着いた空気が戻ってきた。


「いやー、笑った笑った」

「お前ら、笑いすぎだろ」

 佐藤さん?は目尻の涙を拭いながら笑う。


「名前くらい覚えてくれよなー」

「……すまん」

「まあ、いいけどね」

 田中?が苦笑する。


「でもまぁ、結婚式までには覚えといてくれよ?」

「努力します」

「努力じゃなくて覚えろよ!」

 また笑い声が上がる。


 ……まったく。

 今日は一生分笑われた気がする。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 女性が時計を確認して立ち上がった。


「ああ。相澤、今日はありがとな」

「いや、こちらこそ。改めて結婚おめでとう」

「ありがとう。招待状、また送るね」

「楽しみにしておくよ」

 2人を店の入口まで見送る。


 外は相変わらず寒かったが、2人は肩を寄せ合いながら楽しそうに歩いていった。


 ……幸せそうだな。

 7年前。

 あの合コンで出会った2人。

 俺は美麗と付き合うことになり、あの2人も付き合い始めた。


 同じ場所から始まった関係が、7年経ってこんなにも違う形になるとは。

 ……まあ。

 俺も今は、悪くないけどな。


「……恭佐」

 隣にいた淳が、ふいに声をかけてきた。


「ん?」

「ちょっといいか?」

「なんだよ」

 先ほどまでの騒がしい調子とは違う。


 淳は店内をちらりと振り返り、周囲に誰もいないことを確認した。

 そして、俺にだけ聞こえるくらいの小さな声で呟いた。


「……そういえばさ」

「ん?」

「ついこの間、美麗ちゃんから連絡があってさ」


「…………は?」

 思わず眉をひそめる。

 ……美麗?

 今さら、なんの用だ。


 淳は少しだけ言いづらそうに視線を落とした。

「……お前の連絡先、教えてほしいって聞かれたんだよね」


 …………。

 は?

いかがでしたでしょうか?


7年前の合コンメンバーとの再会。

そして衝撃の事実。

はたして田中と佐藤の本名とは!?

次回、田中と佐藤の真名編!!


という冗談はさておき、最後何やら不穏な空気が流れましたね。

まだまだ先ですが、どうなることやら。


引き続きお楽しみいただければ幸いです!


※続きが気になりましたらブックマークや評価して下さると作品の露出が増えて作者が喜びます。

ぽちっとよろしくお願いします笑笑

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