次回、雛乃死す。
〜雛乃視点〜
12月25日 午前6時。
優しい朝日と小鳥の囀りによって目の覚めた私は、枕元に目をやる。
用意した靴下には、1枚の封筒が入っていた。
おに……サンタさんが来てくれた。
それが嬉しくて、私は封筒を開けた。
そこには1ヶ月分のお菓子の請求が、事細かく記されていた。
私はそっと請求書を封筒へと戻し、すやすやと眠る栞ちゃんの隣へ戻り、再び眠りに就こうとした。
トゥルルル♪
電話の着信音。
私のスマホからだ。
2人を起こすにはまだ早い。
私はスマホを持って、リビングへと向かった。
「もしもーし、おかーさん?」
電話の主はお母さんだった。
どうやらお父さんがぎっくり腰で動けないらしい。
これは大変だ。
なぜなら、私が働かせられるからだ。
それはまずい。
クリスマス本番に私1人。それだけは避けねば……。
せめて栞ちゃんを道連れ……じゃなくて、一緒に働けたら楽しいと思った。
お母さんとの通話を終え、2人が寝ている寝室へと向かう。
ふと、枕元の封筒が目に入った。
ここはお兄ちゃんにも、少しお灸を据えてやらねばと思った。
「おにぃ……! お兄ちゃん!!」
我ながら迫真の演技だったと思う。
「なんだよ……」
「大変なの……!」
「なにが……」
ふふふ、聞いて驚け!!
「お父さんが!!」
「親父が?」
「倒れたって!!」
ぎっくり腰で!!
「……え?」
背後では、寝ていた栞ちゃんが起きてしまっていた。
あっ……。
栞ちゃんが顔を真っ青にしているのが見えた。
やりすぎたかも……。
そう思った時には既に遅し。
お兄ちゃんはベッドから飛び降りて、電話をかけていた。
どうやら職場に連絡しているらしい。
仕事納めとはいえ、お兄ちゃん、本気で休む気だ。
どうしよう。
「おにぃ……」
「静かにしてろ……」
お兄ちゃんに制止される。
やばいぞ、これ。
どうしよう、お母さん。
私、またなにかやっちゃいました。
♢
とんとん拍子で話が進み、手近な衣類を数着まとめて鞄へと詰め込む。
そして、お兄ちゃんが手配したレンタカーへと乗り込む。
いつ帰れるかわからないため、栞ちゃんも一緒だ。
ほんとごめん、ほんとごめん、ごめんなさい。
心の中で、もう何度目かわからない土下座をかましていた。
これはもう絶対に、必ず、120%、確実に、お兄ちゃんに怒られる。
私は身体の震えが止まらなかった。
そして、罪人・相澤雛乃を乗せた車は走り出した。
その先に、希望なんてあるはずないのに……。
わたしって、ほんとバカ。
車を走らせること十数分。
私たち3人を乗せた車は、渋滞に捕まった。
良かった……。
謝るなら今が最後のチャンス。
そう思い、口を開く。
「おにぃ……」
「急かすなっ……」
そうじゃないの。
急かしてないの。
むしろ、引き返して?
今ならまだ間に合うから。
せめて徐行して?
「大丈夫……でしょうか……?」
血の気の引いた栞ちゃんが、心配そうに私たちを見つめる。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
そんな透き通った目で私を見ないでぇ。
現実から目を背けるように、窓の外を眺める。
重く淀んだ空。
差し込む影は暗く、まるで死神のようだった。
ついに天からもお迎えが来たみたい。
この後のお説教。
きっと、おやつもしばらく抜きになるだろう。
ああ、冷蔵庫のプリン、食べておけば良かったな。
そう考えたら、身体の震えが止まらなかった。
「…………」
お兄ちゃんには悪いけれど、私は、このまま目的地まで着かなければ良いとさえ思ってしまった。
人生で渋滞をこんなに愛おしく思えたのは初めてだった。
「恭佐さん……」
心配そうに栞ちゃんが呟く。
「ごめん、栞ちゃん。巻き込んじゃって」
お兄ちゃんが栞ちゃんを気遣う。
ほんとごめん!
私もう栞ちゃんの顔、見れそうにない。
「い、いえ……」
病気で母を亡くしたばかりの栞ちゃん。
そんな人の前で、私はなんてことをしてしまったんだろう。
「悪い。親父はさ、昔消防士だったんだ」
どうしよう。
急にお兄ちゃんが語り出した。
これ以上話を深くしないで!
お願い!
「それで、救助活動中に大怪我を負って引退」
うっそ、そんな話、私聞いたことないんだけど!?
「…………」
栞ちゃんが息を呑む。
「もちろん今ではピンピンしてる。してたんだけどな……」
お兄ちゃんごめん!
ピンピンまではしてないけど、元気だから!
許して!!
そして訪れる、しばしの静寂。
「…………」
パチーンッ!!
「…………!?」
びっくりしたぁ……。
お兄ちゃんが自分の頬を叩いて、気合いを入れ直していた。
そんな気合い入れないで、ほんとに……。
「悪い! 弱気になってた。大丈夫、あのゴリラが簡単にくたばるわけないからな!」
そう言って、栞ちゃんに笑顔を向けるお兄ちゃん。
うん、かっこいいよ?
でもごめん。
お父さん元気だから。
腰、やっちゃってるだけだからぁ!!
私は着々と迫る刑の執行に、涙が溢れそうになるのを必死に我慢するので精一杯だった。
♢
ポーンッ。
『目的地まで、あと5分です』
無機質な機械音声からの余命宣告。
私は耳を塞いだ。
そして、見慣れた景色と共に処刑場が目の前へと現れた。
身体に力が入らない。
私は栞ちゃんに、処刑台へと連行されていった。
ふふっ。
栞ちゃんになら裁かれても仕方ない。
そう思った。
一歩、また一歩と処刑台へと向かう足。
その重い足取りを、なんとか進めようとする栞ちゃん。
ごめんね、こんな私で……。
そして、今までありがとう。
お店の中では、ちょうどお兄ちゃんと両親が顔を合わせたところだった。
ここまで、とはな……。
栞ちゃんの肩から手を離す。
さぁ、人生最後。
せめて、散り際くらい華やかに……。
そして私は祈るように、天を見上げた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
いかがだったでしょうか?
職場や学校、ご家庭で急にニヤニヤして変人に見られているなら幸いです。
次回、雛乃の運命やいかに!?
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