ホラーナイトクリスマス〈後編〉
「おにぃー」
「なんだよ?」
栞ちゃんがお風呂に入っている間、雛乃と2人きりになった。
「久しぶりに一戦、やる?」
にやりと不敵な笑みを浮かべる雛乃。
「仕方ねぇな」
「負けて泣いても知らないよ?」
「言ってろ」
ガチ勢には遠く及ばないが、学生時代は格闘ゲームのオンライン対戦で、上位のランクに食い込めるくらいには得意だった。
数分後。
「あーーーーっ!! くっそ!! ムカつく!!」
「ぷぷぷー、くすくす! おにぃざこぉー!!」
格闘ゲームで妹に見事にボコボコにされた。
「くっそ、もう一回!」
「何度やっても同じだよー」
カチャカチャ
コントローラーの操作音と俺の舌打ちだけが部屋に響く。
「ちっ……あ、くそ! だるっ! うっざぁ……」
「おにぃ……語彙まで死んでるぞい?ぷぷぷ……」
ゲームでも煽られ、リアルでも煽られた。
屈辱的すぎる。
「なんでお前、こんなに上手くなってんだよ……」
「…………」
「…………?」
一瞬、雛乃の表情が曇ったような気がした。
けれど、それはすぐに消えた。
「……おにぃが弱くなったんだよ」
にやりと、いつもの生意気な笑みを浮かべる。
「はぁ!?」
「昔はもうちょっと強かったのになぁ〜♪」「言ったな。もう一回だ!」
「さぁ次は何でボコろっかなぁ〜♪」
一瞬だけ見せた気がした、あの表情は何だったのだろう。
そう思ったところで、栞ちゃんがお風呂から上がってきた。
「お風呂、お先にありがとうございます。あっ、お2人でゲームですか?」
興味深そうに栞ちゃんが画面を覗く。
「そうそう! 今ねー、おにぃボコボコにしてたところ〜♪」
「雛乃ちゃん、ゲーム上手なんですね!」
「いやいやー、それほどでもぉー……あるかな!」
キリッ。
鬱陶しい。
「じゃ、俺も風呂入るから。あんまり騒がしくして、お隣さんに迷惑かけるなよ」
「ご湯っくり〜! あっ、お風呂でちゃんと涙流してこいよ〜!」
くそうぜぇ。
今度マジで練習しようと思った。
♢
〜栞視点〜
恭佐さんがお風呂に入っている間、久しぶりに雛乃ちゃんと2人きりになった。
恭佐さんがいないときの雛乃ちゃんは、どこか少し大人びて見える。
年齢を考えたら勿論そうなのだけれど、時折見せる表情が、なぜかそう感じさせた。
「栞ちゃんもやるー?」
「いえ、私はやったことないですし」
「そーお? じゃあ教えてあげるから、少し見ててー」
「はい」
テレビの画面では、雛乃ちゃんの操作するキャラクターがCPUを一方的に攻め立てていた。
「ここをこうして、こう!」
雛乃ちゃんのキャラクターがCPUを倒し、リザルト画面に勝利の文字が表示される。
「詳しくはわかりませんでしたけど、雛乃ちゃん、本当に上手なんですね!?」
「まーねー。沢山練習したからねー」
そう言って、少しだけ遠くを見るような表情を浮かべた。
たまに見せるこの空気が、なんだかほっとけないような、そんな気がしてしまう。
「雛乃ちゃん?」
「……あっ、うん! なんだっけ?」
けろっとした様子で、いつもの雛乃ちゃんに戻る。
私はそれが、どうしても気になってしまった。
「あの……」
どうして、そんなに優しくしてくれるのか。
他にも、色々と聞きたいことはあった。
だけど……。
「んーー?」
笑顔。
その笑顔を見せられると、なんだか私は踏み込めなくなってしまう。
「せっかくなので、ゲーム、教えてください!」
私はそれを誤魔化すように言葉を紡いだ。
「いいよー! 任せて! みっちり鍛えて、おにぃをボコボコにするぞー! おー!」
「お、おー……」
時折見せる、少し遠くを見るような表情。
だけど、私が声をかけると、いつもの雛乃ちゃんに戻ってしまう。
きっと聞いたら、話してくれると思う。
でも、それを聞いたら私は、雛乃ちゃんと今までと同じように笑うことができるのかわからなくて。
怖くて。
不安で。
その一歩を、踏み出すことができなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
偶然にも24,25話とクリスマス回と被りました。
皆様は昨年のクリスマスは過ごしましたか?
私はインフルで今年は仕事です。
皆様に素敵なクリスマスが訪れる事をお祈りいたします。
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