08.到着
周囲から熱い視線を向けられるのがこんなに疲れるとは思わなかった。
長時間歩き続けて疲労が蓄積した足に、視線という名の重量のある重りを装着されて、引き摺りながら歩いているというイメージだろうか。目的地には着々と近づいているのだろうが、それに比例して足も段々と重く感じられてきた。
が、進むスピードは変わらず。私を連れている二人は、丸腰の私と違い見るからに重そうな荷物を抱えており、それに加えて、私の世話をしながら、ロッサから森への距離を往復してきた。
私の倍程度の距離を歩いてきて、今は私と同じように視線に晒されているのだ。きっと二人の方が疲労が溜まっているに違いない。私よりずっと幼いハノンちゃんでさえ、その小さな足でひたすらに歩き続けている。
こんなときに私だけが、疲れたと泣き喚くわけにはいかないのだ。
『どうして私たちをジロジロ見てるんですか?』などと一人一人に聞いて回る勇気もなければ体力的余裕もなし。
であれば、とっととこの場を切り抜けるのが得策だ。頑張れ私、と心の中で叱咤激励をし、スタスタと視線を振り切るように前へ前へと歩いていく。
「……こっちから行きましょ、着いてきて」
近道だからと路地に入り、何度か道を曲がったりちょっとした坂を登ったり。道中、こちらをチラチラと見ていたカレンさんのことだから、もしかしたら私に気を遣って、人通りの少ない道を選んでくれているのかもしれない。
それを敢えて近道だと言っているのだとしたら、私からなにかを言うのも無粋であろう。感謝は辿り着いてから伝えればいい。
そうして路地を歩くこと十分ほど。ようやく路地を抜けたと思えば、私たちは円状の大きめの広場へ辿り着いた。
「ここまで来れば、もうすぐ着きますからね」
疲れてませんか?とこちらの心配までしてくれる私の天使ことハノンちゃん。正直、すぐにでも座り込んで地面に根を差したいところではあるが、目的地までもうすぐなのであれば話は別だ。あとは彼女の優しさも加わって元気が倍増である。
「この広場はロッサの中心部にあって、景色もいいので男女の逢引きだったり、待ち合わせ場所にも良く使われてるんですよ」
ご丁寧にも、道中にハノンちゃんの観光案内も交えつつ、直径一キロはあるのではないかという広場の中心にある噴水を横切って通過する。
広場を突っ切る際にも、私たちへの視線はやはり復活しており、慣れてきてはいたが少しばかりげんなりした。
この広場が中心なのは本当なのだろう、方々を見渡せば、先ほど歩いていた大通りのように大きな通りがこの広場に連結している。その中でも、私たちは噴水を横切ってそのまま真っ直ぐ歩いた先にある大通りに入り、ハノンちゃんと(時々カレンさんと)雑談をしながら歩くこと数分後。
「ジュリさん、見えてきましたよ。あれが医療ギルド第一支部です」
まだだいぶ離れているであろうこの距離であの大きさ。大通りの最奥のT字路、商業ギルドの倍はあるであろう敷地面積に鎮座する建物をハノンちゃんは指を差す。
「だ、第一?あの大きさで?」
あんぐりと口を開け驚きの様子を隠せない私を見て、カレンさんが補足を加える。
「この街の医療ギルドは三つ支部があるの。ここの人口を考えると、それに比例して医療ギルドも規模を拡大せざるを得なかったのよ」
カレンさんの解説曰く、こうだ。
先刻、私たちが通ってきた門の他にも、街の門は二つ存在しており、一つの門を除いて、それぞれ門の近くとロッサの街を統括する領主宅の近くに医療ギルドは構えているらしい。補足すると、もうすぐ辿り着くのが第一支部、私たちが通ってきた門の近くに第二支部、領主宅近辺が第三支部とのこと。
たしかに、これだけの規模の街だ。怪我だったり病気だったりで収容される人数も少なくないだろう。それに、門の近くに構えていれば外からの急患にもすぐ対応できるから理に適っている。
「それはわかったんだけど、第二支部、でしたっけ?それが一番近かったのならそこに行けばよかったのでは……?」
番号は違えど、中身は同じ医療ギルドのはず。わざわざ距離のあるここを選ぶ必要はあったのだろうか、と疑問をぶつけてみる。
「はいはい!それはですね、私がお勤めしているのがこの第一支部だからですっ!」
ぴしっと手を上げてぴょんぴょんと跳ねるハノンちゃん。年相応の可愛さを出しながら自信ありげに聞いて!と主張してくる様は世界共通。KAWAIIかわいいは正義。
「ああなるほど。私の怪我も診てもらえるし、ついでにハノンちゃんのおつかいも済ませられるからってことですね」
「おつかいじゃないです、お仕事ですっ。これでちゃんとお給金だってもらってるんですから」
ぷんぷんと頬を膨らませながら抗議を申し立ててくる小さな働き者。ギルド、というだけあって、この世界の法での職における年齢制限はクリアしているのだろうし、お給料を貰っているのであればそれは仕事だ。平等に尊重されるべきであって、年齢は関係ない。
ごめんなさいと素直に謝罪をして、ハノンちゃんのご機嫌を取る。
「とりあえず、理由は分かってもらえただろうし、いいかしら?そうしてる間にもう着いちゃうわよ」
先ほど視認したときはだいぶ小さく見えた建物が、残り数百メートルといったところ、目と鼻の先である。今では思い切り見上げなければ最上階が見えないところまでやってきていた。
「ジュリさん、お疲れ様でした。到着してしまえばいくらでも休めます。あとほんの少しです、頑張りましょう!」
どこにそんな体力を持ち合わせていたのか、軽快な足取りで私の前へ進み出たハノンちゃんは、後ろ向きに歩きつつ私への激励を忘れない。
あともう少し、あともうちょっと。この言葉を最後の気力に変換し、残り数百メートルを歩き切って。ようやく私たちは目的地である医療ギルドに辿り着いたのだった。
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