40.攻撃魔法
「そういうわけで、転属先では上手くやれそうです」
「ふぅん、まあ良かったんじゃない?魔力操作の練習の成果も発揮できたみたいだし」
調薬課での初仕事が終わり、帰宅して夕食を食べている最中に、私は今日の出来事を話した。
すると、ハノンちゃんは我が事のように褒めてくれ、カレンさんは出来て当然でしょと言わんばかりの反応を示した。
「お姉ちゃんってば、内心喜んでるくせに、何とも思ってない顔してるんですよ」
「ちょ!ハノン余計なこと言わないで!」
ハノンちゃんの申告に、カレンさんは顔を赤らめてわたわたとする。
お互いに何でも分かり合ってる、この関係はいつ何度見ても微笑ましいものだ。
くすくすと笑う私を見て、カレンさんはコホンと咳払いをし、場を整えた。
「それじゃあ、魔力の操作に関しては問題なかったのよね?」
「ええ、はい。特には……」
私の返答を聞いたカレンさんは、顎に手を当ててしばらく考え込んだ。やがて何かを思いついたように、小さく頷いた。
「ねえリズ、次の休みはいつだったかしら」
「休みですか?えっと、二日後ですけど、なにか予定でも?」
「二日後ね。私もその日は休みを取るから、リズも予定を空けておいてちょうだい」
カレンさんの意味ありげな笑みに、私は思わず首を傾げた。
何の予定なのか尋ねても、カレンさんは「その日になるまで待ってなさい」と一蹴するばかり。どうやら教える気はないらしい。結局、その日は首を傾げたまま終わることになった。
そして二日後の早朝、私とカレンさんの二人は街の外へとやってきていた。
当日に言われたことといえば、できるだけ軽装で来るように、とだけ。なにか運動でもするのだろうか。
とはいえ、冷え込みが厳しい真冬に、軽装にするにも限度がある。薄手の服を重ね、その上からセーターとコートを羽織ってここまでやってきた。
「それで、カレンさん。街の外までやってきたのはいいですけど、ここで何をするんですか?」
寒さに震える私を他所に、カレンさんはいつもの物よりも大きい鞄を地面に下ろし、なにやら準備をしている。
近くに生えていた木の枝に、円状に加工された木の板を吊り下げると、くるりとこちらへ振り向いた。
「今日ここまで来てもらったのは攻撃魔法の練習をするためよ」
攻撃魔法と聞いて、だから街の外に出たのかと納得した。
今までのような魔力を操作するだけのものなら、他人に危害は及ばない。
だが、攻撃魔法となれば話は別で、万が一魔法が逸れて、その場に居合わせた人に魔法が当たってしまえば一大事だ。狭い空き地でやるべき練習ではない。
「それで、今回はどんな魔法を教えてもらえるんでしょうか?カレンさんが使ってた魔法ですか?」
ここで私は、以前一緒に森へ採取に行った際にカレンさんが使っていた魔法を思い出した。
一瞬で魔獣の首を切り落とした魔法。私もああいったものを教えてもらうのだろうか。
「いいえ、あれはまだ難しいだろうから、今日は基本の魔法を教えるわ。今回教えるのはマジックブレット。つまり、魔力を固めてそれを撃つ魔法よ」
「魔力を撃つ、ですか?聞いてるだけだとすごく単純ですね」
「そう思うでしょ?実際のところ、形にするだけなら難しい魔法ではないわ。でも、どんな魔法を使うにしても、まずは自分の魔力を自在に扱うことが大切なの。マジックブレットは、その練習に最適なのよ。ちなみに、リズが今までやってきた魔力操作の練習はこれをやるための土台みたいなものよ」
そこまで聞いて私はようやく合点がいった。
今までカレンさんに教わっていた魔力操作の練習。それは、ただ魔力を流したり抑えたりするためだけのものではなかったのだ。
魔力を思い通りに動かすための基礎。そして、これから魔法を扱うための土台だった。
「つまり、今までやってきたことの延長線上にあるんですね」
「そういうことよ」
今までやってきた練習と、マジックブレット。一見すると別物に見えるけれど、根本にあるものは同じ。ただ魔力を扱うだけではなく、形を与え、維持し、意図した場所へ動かす。同じ魔力操作でも、求められる精度は今までとは比べ物にならない。
「とまあ、説明はこのあたりにしておいて、実際に私が実践してみるからリズはそこで見てて」
そう言って、カレンさんは先ほど設置した木の板に向き直ると手を振りかざした。
すると、淡い赤色の光が彼女の手のひらに集まっていき、やがてそれは一点へと凝縮され、密度の高い小さな球体へ形を変えた。球体となった赤い光の周りは、わずかにだが空気が歪んで見える。
投げるように腕を振った瞬間、球体は音もなく放たれた。赤い球体は一直線に木の板へ吸い込まれるように飛び、乾いた音とともに中心を貫通した。
「これがマジックブレットよ。どうかしら?」
「どうかしらって、普通に速くて強くて凄いの感想しか出て来ないんですけど……」
魔法の威力に呆気にとられた私の語彙力はどこかに消え失せてしまったようで、幼稚園児並の賞賛しか出て来ない。
あれを私にもやれというのだろうか。
「さっきも言ったけど、これが攻撃魔法の基礎よ。目標は、今日中に私と同じくらいの威力で撃てるようになることよ」
「え、ちょっと待って?さらっととんでもないこと言いませんでした?まだ私、一発も撃ってないんですけど」
私としては、ゆっくり時間をかけて習得していこうと思っていただけに、急な難易度の上昇に仰天である。
こういう類のものは、とりあえず一度様子を見てから決めるのでは?
「そう不安にならなくても大丈夫よ。出来るようになるまでしこたま撃ってもらうから。そしたら出来るようになるでしょ。ほら、ダイエットの時にした魔力操作の練習と何も変わらないわ。ひたすら魔力を使って身体に覚えさせるだけ」
カレンさんは簡単そうに言うが、あの時と今回とではやることの難易度がまず違う。難しいということはつまり、それだけ集中力が要求される。初めての試みなので、どれだけ魔力を消耗するかもわかったもんじゃない。
……これ、本当に倒れない?
「さあ、つべこべ言わずに始めるわよ。時間は待ってくれないんだから。大丈夫、もし倒れても介抱くらいはしてあげるから」
倒れることを前提とした練習というのはいかがなものだろうか。
鬼教官、ここに極まれり。
お読み頂きありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価、感想をいただけると励みになります……!
次回更新につきましては私の都合上1週間お休みをいただきまして、11日から再開とさせていただきます。
次回もよろしくお願いします。




