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私を魔女にしてください!~知らない誰かとして生きることになった私の物語~  作者: ツグハ
一章 新たな人生の始まり

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35.魔力式ダイエット2

「ぐぬぬぬ……」



「はいそこ、力んでも意味ないわよ。もっと肩の力を抜いて」



 魔力式ダイエットが始まって早一時間。進捗はどうかといえば、ほぼ停滞状態。



 カレンさんがあれほど簡単そうにやっていたせいで、これなら私にもできるかもと勝手に思い込んでいた、そんな一時間前の私に言いたい。



 ……全然できません。



 水を浮かせるどころか、ぷるぷると震わせるので精一杯。まるで「そう簡単には浮きませんよ」とでも言いたげだ。



「ふんぬぬぬ……!」



 もう一度水へ魔力を流し込んでみる。



 水面が揺れ始めたかと思った次の瞬間、勢いよく弾け、私めがけて降り注いだ。



「ちょ、冷たっ!」



「はぁ。だから力み過ぎだって言ったじゃない」



 ずぶ濡れの私を見て、カレンさんはため息をつきながら額を押さえた。



「だって、思い通りにいかなくてじれったくなっちゃうんですもん。なにかコツとかないんですか?」



「あら、もう音を上げちゃうのかしら?まだ一時間しか経ってないわよ」



「意地悪言わないでくださいよ。だって、分からないものは分からないんですもん」



 ぷくっと膨らませた私の頬を見て、カレンさんはくすくすと笑う。



「まあいいわ。リズは水に魔力を流し込むとき、どんなイメージでやってる?」



「イメージ、ですか?そうですね……なんかこう、両手で水をすくい上げる感じですかね」



 カレンさんは小さく頷いた。



「なるほど。それが上手くいかない原因ね。リズは水を『持ち上げようとし過ぎてる』のよ。だから、魔力が一点に集中しちゃって水のほうが耐えきれなくなる。いい?水を物として持ち上げるんじゃないの。魔力を流し込んで水に膜を張って、優しく包み込むイメージよ」



「包み込む、ですか……やってみます」



 飛び散った水を汲み直し、もう一度桶の前に立つ。



 私は深く息を吸い、もう一度桶の水へと手をかざした。



 水を包み込むように魔力を流し込み、ゆっくりと持ち上げる。



 すると、今まではぷるぷると震えていただけの水が数センチではあるがぷかりと浮かび上がった。



「浮いた……!」



 が、浮かび上がったのはほんの少しの間だけ。魔力操作の維持に失敗した水は、形を保てなくなり、勢いよく飛び散って私をずぶ濡れにした。



「ちゃんと出来たじゃない。ほんの数秒でも浮かせられたんだから進歩よ。短時間でここまでできれば十分よ」



「ありがとうございます。ちょっとだけ感覚が分かった気がしました」



 コツは掴みつつある。あとはその感覚を忘れないようにするだけ。



「そう、それなら良かったわ。じゃあ、ここでひとつ、リズにもっとやる気になってもらうわね」



 カレンさんは満足そうに頷くと、隣にいたハノンちゃんへ視線を向けた。



「ハノン、やってみてくれるかしら」



「はい!」



 ハノンちゃんがとてとてと桶の前までやってくると、私と同じように桶に手をかざす。



 私の時とは違い、水はぷかぷかと私たちの目線ほどの高さまで浮かび上がった。数秒ほど浮かび続けた水は、形を保ったまま再び桶の中へと戻っていった。



「え、嘘。ハノンちゃんってばそんなにできるの!?」



「少しの間だけですよ。お姉ちゃんみたいに長くはできません」



「ハノンも時間がある時はちゃんと練習してるもの。朝の水汲みの時とか、私の手伝いをしながら練習してるのよ。努力の成果ね」



 ハノンちゃんが練習しているところを、私は今まで見たことがなかっただけに驚いた。



 しっかりした子だとは思っていたが、見えないところでもこうして毎日積み重ねていたんだ。



「ほらリズ?ハノンのほうが先輩とは言っても、こんな小さい子に先を越されたままでいいのかしら?ハノンに負けっぱなしじゃ、お姉さんとしての立場がないんじゃない?」



「ぐぬぬ……」



「ちょっとお姉ちゃん、大袈裟ですよ。あんまりリズさんを煽らないでください」



 確かに悔しい。ハノンちゃんは年下で、魔女の見習いとしても私より先輩だ。それでも、このまま何もできないまま終わるのはなんだか負けた気がする。



「いいですよやってやりますともさ!こうなったら意地です!打倒ハノンちゃん!」



「ええ!だ、打倒ってそんな、敵じゃないんですから」



 おろおろとするハノンちゃんを見て、私たち年上組は思わず吹き出した。緊張感を持って取り組むことも大事だが、たまに緩めてリラックスをするのもまた大事なことだ。何事も緩急をつけてやるべし。



 やる気に満ち溢れた私が再び練習をすること数時間。日も西に傾いてきており、そろそろ終わりにしようかというところで、本日の成果を私は披露する。



「いきます!」



 桶に手をかざし、魔力を流し込む。



 力まずに、水を優しく包み込むように。



 水はゆっくりと私の腰ほどまで浮かび上がる。



 今までのように震えることも、弾けることもない。まるで私の意思に応えるように、水は静かに空中へ留まり続けた。



 水は一滴もこぼれることなく、静かに元の場所へ収まった。



「できました……!」



「リズさん、すごく上達しましたね!」



 私の今日一日の成果を見て、ハノンちゃんはパチパチと拍手を送り、カレンさんは満足そうに私を見た。



「今日が初めてにしてはよくやった方じゃない?お疲れ様。どうだったかしら?思ったよりも体の疲労もすごいでしょ」



「はい。魔力を使うだけでこんなに疲れるものなんですね」



 体は鉛のように重く、早く休ませろと主張してくる。



 走ったわけでも筋トレをしたわけでもない。それなのに全身が心地よく疲れている。魔力式ダイエットとはよく言ったものだ。



「今日はここまでにするけど、今後は自分だけでもちゃんと練習するのよ?今日だけで終わったら何の意味もないんだから。早く痩せたいんでしょ?」



「はい、頑張って痩せます!」



「返事だけはいいんだから。もしこの方法だけじゃ物足りなくなったら言ってちょうだい。もっと実践的な訓練も教えてあげるから」



「えっ、まだあるんですか……?」



「当然よ。今日はまだ基礎の基礎なんだから」



 その一言に、思わず私は乾いた笑みを浮かべた。



 今日の練習だけでも相当にしんどいものがあっただけに、今後のことを考えると、私の体が先にギブアップしそうな気がする。



「あ、そうそう。ダイエットなんだから、今日からリズは食事制限もするわよ」



「え!?そんなご無体な……」



 まさか最後の最後に、一番つらい試練が待っていたとは。



 ……どうやら、本当の敵は魔力操作ではなく食欲だったらしい。



 魔力式ダイエット、恐るべし。

お読み頂きありがとうございます!


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