33.過去を越えて
「とまあ、暗い話になっちゃったっすけど、リズが魔女を目指すようになったのはこれがきっかけっすね」
キアナの話が終わると、店内には静かな時間が流れた。さっきまで聞こえていた料理の音や、周囲の客の話し声が、妙に遠く感じる。
私は改めてキアナを見る。いつも明るく振る舞っている彼女が、どれほど長い時間リズさんの隣にいて、支え続けてきたのか。リズさんがどれほどの想いを抱えて魔女になったのか。
そして、志半ばで倒れることになったリズさんの無念と、長年寄り添ってきた友人を失ったキアナの悲しみ。それを思うと胸がズキリと痛んだ。
「……ありがとう、キアナ。話してくれて」
「いやいや、いいんすよ。あーしとしても昔のリズのことを知ってもらえるのは嬉しいっすからね」
へへっとキアナは鼻を掻きながら笑った。
「あーしも久しぶりに昔のことを思い出すいい機会になったっすよ」
そう言って笑うキアナの姿は、いつもの彼女と何も変わらなかった。
けれど、今の私には少しだけ違って見える。いつも明るく振る舞う彼女の笑顔の奥には、リズさんと歩んできた長い年月が刻まれているように感じた。
「……って、なんかしんみりしちゃったっすね」
キアナはぱん、と手を叩きフォークを持った。
「この話はもうおしまいっす!せっかくのご飯っすよ、冷める前に食べなきゃもったいないっすよ!」
「切り替え早いね……」
「美味しいものを美味しいうちに食べるのは大事っすから!」
その後は、重くなっていた空気を吹き飛ばすように、いつものような会話が戻ってきた。キアナはさっきまでの真剣な表情が嘘だったかのように、目の前の料理を次々と平らげていく。
「すいません、あーし追加で注文いいっすか?どうにもまだ食べ足りなくて」
「え、もっと食べるの?今でも十分食べてるのにそれでよく太らないわね」
「なに言ってんすか、まだまだ序の口っすよ」
その後もキアナの追加注文から、食後のデザートまでを平らげ、食事は終了。
店を出る頃には、空はすっかり暗くなっており、秋の夜風が心地よく私の髪を撫でた。
昼間の賑やかな雰囲気とは違い、夜の街には静かな時間が流れている。隣を歩くキアナの声はいつも通り明るかった。
それだけに、ひとつだけ引っかかっていることがあった。
昨日、キアナが見せたあの表情。そして、何も言わずに姿を消したこと。
いつも屈託のない笑顔を浮かべているキアナが見せた一面。私はどうにもそれが気になった。
「ねえキアナ。なにか困ったことがあれば、いつでも相談してね」
「なんすか急に改まって。らしくないっすね」
私の急な気遣いに対してキアナは一瞬きょとんと目を丸くした。
「いいじゃない別に。たまにはこういうことも言うよ」
何もなければ、私の杞憂で終わるだけの事なのだからそれでいい。心配し過ぎるというのも良くない。
「変なリズっすね。まあ、なにかあったら相談させてもらうっすよ」
「うん、その時は遠慮しないでね」
キアナは「了解っす」と笑いながら親指を立てた。その笑顔は、私が知っているいつものキアナそのものだった。
その笑顔を見て、私は小さく胸を撫で下ろす。心配しすぎだったのかもしれない。そう思いながら、私たちは夜道を歩いた。
少し歩いたところで、私たち同居組とキアナとでは帰り道が分かれる。
「私たちはこっちだから。今日はお誘いありがとね。それじゃあ、またね」
「はいっす、また!」
軽く挨拶を交わした後、キアナは背を向けながら手を振り、帰路へついた。見送るキアナの背中が、夜の街並みに溶け込んでいく。
「ほら、私たちも帰るわよ」
キアナの姿が見えなくなり、カレンさんに促され、私たちの家へと向かう。
……店から出て薄々気付いてはいたのだが、今日は食べ過ぎたかもしれない。
キアナの食べっぷりに感化されて、つい私も追加で料理を注文してしまった。そのせいか少々胃が苦しい。
「うぅ……苦しい」
「誰かさんがデザートまで頼むからでしょ。まったく、キアナに影響されすぎよ」
ぐぅの音も出ない正論を叩きつけられ、胃袋どころかメンタル面でも惨敗。
「明日からは食べる量を減らします!」
「その言葉、何回聞いたかしらね」
「今回は本気だから!」
カレンさんとハノンちゃんの笑い声が夜道に響く。
私もつられて笑いながら、ゆっくりと家への道を歩いた。
今回は昔話の締めということで短めになっちゃいました……( ˘ω˘ )
ここから少しずつ物語を動かしていこうと思いますので、これからもお読みいただけると幸いです!
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