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03.寝覚め

「んえ……?」



 間の抜けた声を出し、両目を擦る。私の寝起きのルーティーンのようなものである。



 なんだか風の音がいつもよりうるさく、というかクリアに感じる。まるで自分が外にでもいるような感じ。それに加えて、体の節々が痛い気がする。寝過ぎて体が凝ってしまったのだろうか。



 もうすぐ見舞いに来るであろう母の到着を待っていたはずの私。いつの間にか寝ていたのだろう、記憶が多少曖昧な部分がある。



 あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。体の不調を確認しつつ、未だに開くことをやや拒んでいる瞼を意志の力で持ってこじ開ける。



「ここどこ……?」



 目前に広がるのは、木々の隙間から見えるだだっ広い青空、周り一面はたくさんの木々、下は大地。どこからどう見ても野外である。



 耳を澄ませても、毎日病院の中庭ではしゃいでいた子どもたちの声も聞こえない。そもそも、私が入院している病院の敷地内はおろか、近辺にもこのような自然たっぷりな場所は存在しないはず。



 自身の体の違和感にも気づいた。そういえば、私に繋がれていた点滴を始めとする、私の命を繋ぎ止めてくれていた医療器具が一切合切見当たらないのだ。



 ここは病院ではないどこか、というところまでは理解した。けれど、なぜ?という疑問が私の脳みそに湧いて出てくる。



「まさか、謎の秘密結社が何らかの理由で私を拉致しようとして……?これは絶対ない。はたまた、私が可愛すぎるから……は、ないな」



 私の健康そのものだった頃の見た目は、高めに見積もっても中の中、平均値である。外見一つ取ってももっと他にいるだろうし、そもそも、後先短いであろう私を誘拐したところで、相手には何のメリットもないだろう。



「うーん、わからん……」



 考え、唸り続けること数分が経過し、私は一つの答えを導き出した。



「うん、これは夢だ」



 最近見ていた夢とはまた違う雰囲気ではあるが、現実ならばほぼ有り得ないであろうことが起きているのだ。今回も、私は夢の世界に迷い込んでしまったに違いない。



 夢の中でここまで意識がはっきりしているのだ、せっかくだから周りを散策してみよう。そう思い体を起こそうとするが、起き上がろうとしても体中の関節がぎちぎちと鳴り、うまく動かすことができない。



 こんなところで寝てしまっていたのだ、血の巡りだって悪くなっていたのだろう、腕を見てみれば青白い肌が見える。体が多少悲鳴を上げていても仕方はあるまい。予想通りというか順当というべきか。しかし、夢の中でくらいやりたいことを自由にさせてほしいものだ。



 まずは体を自由に動かせるようになるところから。体をできる範囲で動かし続けていると、体も血が巡ってきたのか、目が覚めた当初は青白かった肌に血色が戻ってきつつある。



 貧血を起こさないようにゆっくりと体を起こし、少し様子を見る。大丈夫なようなので、片膝を立てて、同じようにゆっくりと立ち上がる。



「立てた……」



 現実の私であれば、誰かの肩を借りたり、点滴スタンドのような補助がなければ立つこともままならなかった。自分の力だけで、立てている。大半の人たちがやれているはずのことがこんなにも感動を生むものだったとは、私自身知らなかった。



 夢にしては妙にリアルな疲労感が体を蝕んでくるが、それ以上にやりきったという達成感が心を満たす。私だっていざというときはやればできる子なのだ。



 ふんす、という効果音が付きそうな鼻息とともに胸の前でガッツポーズを決める。



 さて、小さな目標をひとつ達成したところで目の前に立ちはだかるのは『これからどうしよう』という壁である。



 ざっくりとしたものではあるが、現実で人並み以上に時間が有限であるということを身をもって理解している私だからこそ、やれることが見つからずにただ時間を浪費するというのもなかなか辛いものだ。



「とりあえず散策してみよう」



 せっかく歩ける状態にあるのだ、夢だとはいえこの機会を逃す手はない。もしかしたら、神様とやらが私を不憫に思って、最期に情けをかけてくれたのかもしれない。



「ありがとう神様、フォーエバー神様……なむなむ……」



 神に感謝の言葉を唱え終えたのち、私は改めて辺りを見渡す。



 ここはちょっとした森の中なのかもしれない。だが、少なくとも人の通りはあると私は予想した。



 というのも、現在地が全く人通りのない場所であるならば、もっと枯れ葉などが積もっているはずである。



 地面を見れば、多少枯れ葉や雑草が散乱してはいるものの、大半は固い土が顔を出しており、前方、後方へと道が続いている。



 さて、問題はどちらの道を進むかである。



 片方は人のいる集落や街道へと繋がる道、もう片方は森の奥深くへと続く道。もしかしたら、両方ともに前者かもしれないし後者かもしれない。



 自分の現在地が分からずに立ち往生。夢の中とはいえ、今の私は実質遭難者みたいなものなのだ。



 そういえば、と私は以前テレビで見たとある特集を思い出していた。山の中で遭難してしまった場合はどうするべきか、みたいなものを解説していた気がする。



 私の記憶が正しければ、来た道を戻る、その場を動かずに救助を呼ぶ、山頂を目指して登るなどだったと思う。



 来た道を戻る、そもそもどこから来たかさえ分からないので没。その場を動かずに救助を待つ、人がいつ通るかわからない状態、かつ連絡手段もないので没。山頂を目指す、ここは山なのか、それともただの森なのかさえ不明なので没。



 なにも当てにならない、詰みの状態。で、あるならばと、私はその辺に落ちている枯れ枝を一本拾い上げ、地面と垂直になるように立てる。いわゆる棒倒しだ。



「時には運任せも大事だよね、うん」



 よし、と覚悟を決めて枯れ枝から手を離す。パタリと倒れた枯れ枝は、後方の道を指し示していた。



「こっち、ね……」



 これから進むと決めた道の奥をジッと見つめるが、生い茂る木々のせいもあって、木漏れ日のみが道を照らしている。そのため、どうにも薄暗くて私としては薄気味悪く感じてしまう。



「……ええい、女は度胸!」



 ここでたじろいでいても仕方がない。私は覚悟を決めて歩き出した。

『私を魔女にしてください!』をお読みいただいた皆様、ありがとうございます。ツグハです。


第3話まで一気に公開させていただきましたが、これより先は1日1話投稿を取らせていただきます……!

これからもたくさん書き溜めて更新ペースを崩さないように頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします……!

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