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私を魔女にしてください!  作者: ツグハ


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02.前日

 決して絶望するな。たとえ絶望したとしても、絶望のうちからはじめよ。イギリスの政治思想家、エドマンド・バークはこのように言った。



 多くの人々はそれぞれの人生において辛い時期がやってくるが、目の前のことに注力すれば未来への糸口が見つかるかもしれない。人間というものどんな時でも努力を怠れば、なるほど堕落していくものだ。



 が、しかし。



 それができるのは本当の絶望とやらをまだ知らない人間だけだ。


 私のような人間は、この先に絶望しか残っていないような人間は何を糧にすればよいのだろうと問いたい。



 それを体感した時、人は己の無力さを痛感する。抗おうにも何も策がないのだ。



 雲一つない晴れ晴れとした空、広場に面した窓から広場ではしゃぐ子供たちの声とともに心地の良い風が入り込みカーテンがひらひらと揺れる。



 たくさんの管に繋がれた状態で病院のベッドに横たわり、私こと茅野珠璃は落ちていく精神状況の中思考を続ける。



 大腸癌、それが今私がここにいる原因だ。



 当初は、最近軽い腹痛や貧血を起こすことが多いなぁなんて呑気に考えていたものの(この時の私を恨みたくなる)、とある冬の日にうずくまって動けないほどの腹痛に見舞われ、救急搬送され、その後検査をした時にはリンパへの転移が判明し、対処のしようがないほどに進行していた。



 余命およそ半年から一年、担当医からそのように宣告されて十ヶ月が経った。



 入院したての頃は鎮痛剤を投与されさえすれば自由に動かせていた体も段々としんどさが増し、ベッドから起き上がるのも億劫になった。



 そういえば最後に気晴らしにと外に連れて行ってもらえたのはいつだっただろうか。



 外の世界はこんなに近くにある。まだまだやりたかったことは山のようにあるというのに、それにはもう手を伸ばしても届かなくなってしまった。



 日に日に増えて、次第に抱えきれずに心を覆いつくしてしまった後悔が、私を押し潰して窒息してしまいそうなほどになっている。



 ああ。お見舞いの時に聞いた、駅前にオープンしたケーキ屋に一度でいいから行ってみたかった。病気が治ったら行こうと友人たちと約束していたカラオケや旅行にももう行けそうにない。



 そこらにうじゃうじゃといる同年代の女子高生のように、学校で駄弁り、帰りに色んなところに寄り道をして遊ぶ。



 所謂『普通』の人たちができることが、今の私には到底かなわない出来事となってしまった。どうして、と自らの運命を否定したくなるが、今更嘆いても仕方ないと達観している自分もいる。



 まともに体を動かせる状態であれば苦笑を浮かべるなり溜息一つでも吐けただろうが、呼吸をすることで手一杯になるときもあるくらいだ。



 そんな私の最近の気晴らしといえば、下校後に時折やってくる学校の友人の話を聞くことや、時折母が差し入れに持ってきてくれる小説を読むことくらい。



 せめて娯楽だけでもと、私が注文した小説もといラノベを母が持ってきてくれている。ほぼ毎日、私のために遠い自宅から病院まで来てくれる母には頭が上がらない。



 昨日まで読んでいたものはもう読破してしまったので、今日も来てくれるであろう母の到着までスマホを弄り、小説サイトを開いて待つ。



 なにか興味を持つタイトルはないかと、今から漁るジャンルは異世界転生もの。皮肉にも今の私の境遇と通ずるものがある。



 こんな状況なのだ、藁にも縋る思いとは少し違うかもしれないが、本当にこんなことがあるならと妄想を広げることくらい許してほしい。



 小説といえば、最近不思議な夢をよく見るようになった。



 蘇生魔法、魂、術後の状態など、私が見た夢の中で聞き取れた単語たち。そのワードが全て、私が今読み漁ろうとしている転生もの、ファンタジー小説に出てくるようなものばかりだ。



 ファンタジー小説の読みすぎなのだろうか、はたまた私自身がそういった願望を持つ中二病的なやつに蝕まれているのか。



 いいじゃない、好きなものは好きなんだし、魔法を使ったり冒険の旅に出たり、誰だってそんな心躍る世界に憧れたことが一度はあるだろう。それに、夢を見るのは自由なんだから。あ、これダブルミーニングね。



 夢の内容はさておき、気になることは他にある。



 固いものの上に横たわっている冷たい感触や聴覚、視覚。明晰夢、というには少しおかしいかもしれないが、夢で体験したものが、実感が体に残っている。



 もしかすると、自分が知らないだけで本当にそういったものが実在する世界があるのかもしれない、と思うほどに。



 仮に実在していたとしても、自分には縁のなかった話だと自嘲する。



 現代は医療技術を始めとする様々な技術、文化が発展しているのにも関わらず、私はそれらに救われ



 ることは叶わなかった。それに、異世界転生ものにおいてよくある、現代よりも技術が遅れているファンタジー世界で私が生まれて、今の私と同じ境遇であったとするならば、適切な治療もされずにもっと早くこの世を去っていたはずだ。



 私の寿命を最大限にまで伸ばしてくれているのだ。そう考えると、私が生きるこの現代も決して悪いものばかりではなかったのかもしれない。



 閑話休題。



 このように、近い将来に訪れるであろう死という絶望が待ち受けている状況で、私は希望を持つことはおろか、未来を望むことさえも許されていない。



 しかし、長く感じた闘病生活からどういう経緯であれ解放される時が近いのだ。



 死ぬのが怖くないかと言えば嘘になるが、元々我慢強くなかった私からすれば、この苦痛から抜け出せるというのは、例え死であろうとも一種の神からの救いのようなものである。



 その救いとやらのついでにと、私は慈悲深い神とやらに乞い願う。



 もし。もし、仮に神が本当に存在し、輪廻転生というものがあるとするならば。今度はこんな病気にならず、仮に何かに絶望したしても、どうかその中で未来を願い掴み取れる人生を歩ませてほしいものだ。

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