22.周囲の目
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「お疲れ様でーす。粉持ってきましたー」
決して怪しいものではありません、語弊があるだけで。ちゃんと合法的な粉です。
お昼休憩が終わり、作業を続きをすること数時間。要領を覚えてきていたとはいえ、単純作業による疲労で腕がパンパンになってきたところで本日の目標であるシグの葉の粉作りは完了した。
そこそこ大きい麻袋にすべて移し替えたところで、製薬課の調合室に持って行ってとシャルさんに言われて納品を済ませてきたところである。もちろん抱えてではなく台車に乗せて。手持ちで行こうとなんて思ってないからね。粉と言えど侮るなかれ。数が多くて腰が逝く。
窓越しに外に視線を向ければ、空は夕焼け色に染まっている。業務時間もあと少し。おそらく今日の仕事はこれで終わりだろう。早くシャルさんのところへ戻って報告をしよう。そう思い戻ろうとしたところに私は製薬科の人に呼び止められた。
「急に呼び止めてごめんね。えっとね、これを渡すの忘れてて。久しぶり……じゃなかった、初めての作業でリズも疲れてるんじゃないかなってさ。ほら、ずっと粉作ってたんでしょう?腕パンパンになってるでしょ」
私もそうだったからわかるよ、そう言って手渡されたのは容器に入った緑色の液体。なんだかエナジードリンクの広告で見たような色だなと思いつつ受け取った。というかあの作業ってやっぱりみんなが通る道なのね。
「ありがとうございます。えっと、これは何でしょう?何かのお薬ですか?」
「それはね、ポーションだよ。私たちが調合してて疲労回復によく効くんだ。あとどんなに眠くても一気に目が覚める!色味はちょっと良くないかもだけど安心して。味もそんなに悪くないから」
ポーション!小説で見たやつだ!と内心はしゃぎだす私の心。私の厨二な一面が顔を出してくる。今は引っ込んでなさい、いい子だから。
ささ、グイっと。酒の場でおだてられるかのように勧められるが、エナドリすら飲んだことのない私にとっては未知の領域。とはいえここで飲まないのも礼儀に反する気がする。
ええい、ままよ!迷う前に行動あるのみ!私は腰に手を当ててポーションをグイっと口に含む。その飲みっぷりに職員さんの拍手付き。薬品臭くて飲みづらいのかと思っていたのだが、清涼感のある風味で思いのほか美味しく飲みやすい。
「ごちそうさまでした、ありがとうございます。でも、飲んだ後に聞くのも可笑しな話ですけど、私にくださっても大丈夫なんですか?他の方に怒られたりしないですか?」
ポーションが製薬科で作られているということはつまり、ギルドの商品ということになる。売り物になっていたり、患者たちに処方されていたり。そんなものを気軽に渡しても大丈夫なものなのだろうか?もしかしてバレたらまずいやつ?
「ああ、大丈夫だよ気にしないで。もちろん処方用だったり販売用のものもきちんと作ってるけど、リズに渡したのは職員用に作ったやつだから。備品だよ備品。ギルドで勤めてる人ならだれでも飲めるやつだよ」
そう言ってどこからともなくもうひとつポーションを取り出しグイっと一気に飲み干し、ふふんと笑う職員さん。きっと私に大丈夫だと示してくれているのだろう。え、ちょっと待ってなんで二本目を取り出してるんですか?また飲み干した。そんなに飲んで大丈夫なやつなの?
「いやー、最近ポーションの効きが悪い気がしてさ。調合方法は変わってないはずなんだけどね。素材の材質の問題なのかな?」
いや、それって服用しすぎて体に耐性が出来てるからでは……?どの薬でもそうだけど飲み過ぎに注意。何事も程々が一番である。
「あー、こほん。そんなことよりさ!そういえば、リズってばここに復帰して初めての仕事だよね。記憶がないって聞いてるけど調子はどう?上手くやれてる?」
私が飲み干して空になった容器を回収しながら聞いてくる職員さん。わざと少し大きめの声。周囲の気配が、ほんの少しこちらに集まる。
ああ、これも仕事の一つなんだな、となんとなく理解する。きっと、ポーションはきっかけ作りでこちらが本命なのだろう。辺りで聞き耳を立てている他の職員たちにも聞こえるようにわざと少し大きめの声量で言っているあたり、そういうことなのだろう。多少棒読みになっているのは気になるが。
おそらく私は職員たちの注目を一身に浴びていることだろうし仕方のないことではある。それに、正直なことを言うとコソコソと立ち回られるよりはいい。素直に聞いてくれた方がありがたいことも世の中にはある。
「そうですね……記憶がないせいで分からないことだらけなので今は大変ですけど、多分どうにかなりそうです。シャルさんやあなたも含めて、こうやって歩み寄ろうとしてくれている方もいますし。ありがたい限りです。これからもよろしくお願いします」
「そっか。まあ、何かあったら遠慮なく言ってね」
そう言って職員さんは軽く周囲を見回し、空気をゆるめるように肩をすくめた。
あと、と職員さんは急に小声になって私に耳打ちをしてきた。ちなみにこの体になって初めて気づいたことなのだが、私は耳が弱いらしい。耳打ちをされてぞわっとした。覚えておこう。
「急にこんなこと聞いちゃってごめんね。もう気付いてると思うけど、みんなリズのこと気にしてるみたいでさ。みんなどう接したらいいか迷ってるみたいなんだよ。でも多分、もう大丈夫だから」
ほら、これでいいでしょ?と言わんばかりに辺りを見回す職員さん。きっと気を遣って率先して私に話しかけてくれたのだろう。この会話のおかげか、会話中に感じていた周囲からの視線が薄れているように感じる。
「お気遣いくださってありがとうございます。なんだか嫌な役回りをさせてしまったみたいですみません」
「大丈夫大丈夫、気にしないで。むしろこんな茶番に付き合ってくれてありがとうね」
あははと快活に笑う職員さん。普段からきっと何かと頼られてるんだろうな。この人なら上手くやってくれるだろうって。
「もっとお話していたいんですけど、実はシャルさんを待たせててそろそろ私行かなきゃなので。失礼します」
「ありゃ、たしかにまだ仕事中だもんね。そりゃそうだ。引き止めちゃってごめんね」
あまり長話をするとシャルさんがきっと心配するだろう。戻った時に話す良い話題もできた。ぺこりと頭を下げて、頑張ってねーという職員さんの言葉を背に私はその場を去る。
先ほど貰ったポーションが効いているおかげか足取りが軽い。きっと明日からも頑張れる、そんな気がした。




