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私を魔女にしてください!~知らない誰かとして生きることになった私の物語~  作者: ツグハ
一章 新たな人生の始まり

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EX.1 天使のお洗濯

 リズさんは今日が初出勤、お仕事を覚えるために頑張っているであろうお昼前。私ハノンは、病室で使われているベッドシーツの洗濯を済ませて、青空の下で干している最中です。



 私は医療ギルドにて、今は雑用として働かせてもらっています。



『今は』というのも、本当は、すぐにでも医療魔法を使ったお仕事をしたいのですが、私の年齢くらいだと『医療魔法ができるようになるほどのマナを作り出せる体が出来上がっていないから』と教えてくれません。



 以前住んでいたところでは『ハノンちゃんはもう大人の女性みたいにしっかりしてるね』って近所のお爺ちゃんお婆ちゃんに褒められてたのに。大人って奥が深いです。



 でも、まだ駄目と言われて拗ねてしまっても仕方ありません。いつか教えてくれるその日が来るまで、今やれることを私は頑張ります。



「んっしょっと」



 とは言ったものの、この洗濯物を干すというお仕事一つにしても苦難が立ちはだかります。何を隠そう、干すための位置が私には高すぎて、このままでは手が届かないのです。



 気を回してくれたフェルノさんが私専用の昇降台を買ってきてくれたので、他の方々よりはどうしても登り降りをする分、仕事を終えるのに多少時間がかかってしまいますが、おかげで私も皆さんのように仕事ができています。



 いつか、この昇降台が必要なくなるくらいに大きく成長した時には、私も医療魔法を教えてもらうことができているのでしょうか。それが今から楽しみで仕方がありません。ああ、早く大人にならないかなぁ。



 なんて考えながら干していれば、籠いっぱいにはいった追加の洗濯物を持って先輩職員さんがやってきました。



「ハノン、お疲れ様」



「あ、お疲れ様です!こっちももうすぐ干し終わりそうなんで追加の分も手伝いますよ」



「え、ほんと?この籠と台車でもう二個持ってきてたのよ。今日は特に多いから助かるわ」



 ありがとう、とお礼を言われるのは好きです。あぁ、その人のために何かしてあげられたんだなって、私もついつい嬉しくなっちゃいます。嬉しくなったついでに作業の手も捗って、私の籠の分は全部干しきっちゃいました。



 というわけで、先輩さんが持ってきたのを半分こ。私の分を受け取って、よいしょよいしょと運びます。いくら半分とはいえ、濡れているたくさんのシーツを運ぶとなるとやっぱり重いです。



 さて、物干し竿の前まで運び終えたところでお仕事の再開です。



 ですが、ここにいるのは私と先輩さんの女性二人だけ。となるとどうしても会話に花が咲くわけでして。



 あの人とあの人が付き合ってるや好みの男性のタイプとか、恋愛のお話から始まって最近の出来事まで。いろんな話題で盛り上がりながらお仕事をしていきます。



「そういえば、小耳に挟んだけど、ハノンってリズと知り合いらしいじゃない。どう、あの子」



「え?どうってどういう意味ですか?」



「んー、なんていうかな。その、印象というか」



 やっぱり、ここにいる人たちにとっての最近起きた大きな出来事といえば、リズさんのことなのでしょう。私自身どこかで聞かれることはあるだろうなぁとは思っていました。



「印象ですか。えーと、とても気さくで話しやすくて人懐っこくて、可愛らしい一面もある優しい方ですよ」



 これは建前もなにもない、私の本音です。でも、どこか寂しそうな表情を浮かべる時もあって、どうしたんだろうと時々心配になります。



「へぇ、そうなんだ。あのね、私もリズと……あ、これは記憶が無くなる前の話ね。リズと一緒に働いてたことがあるんだけど、その時のリズとハノンから聞いたリズは全くの別人みたいだなって」



 別人みたい、と聞いて私も興味が湧き始めました。あまり他人の過去は詮索するものじゃないと分かってはいますが、好きな人が昔はどんな人だったのか知りたくもなるのです。



 それに、リズさんが寂しそうにしているのも、もしかしたら記憶がないことに関係しているのかもしれないと思うと、気になってしまいます。



「前のリズは、そう。人見知りというか群れるのが好きじゃないというか。人との交流が苦手なのかなって思う節があったのよね。もちろん、普通に話したりするときもあるんだけど、基本は一人でずっと仕事をしてた。休みの日に遊びに誘ったこともあったんだけど、それも断られちゃって」



「たしかに、それだけ聞くと今のリズさんとは真逆な気がしてきました」



 あのリズさんがずっと一人で、なんていうのはなかなか想像できないです。リズさんといえば、人との交流が大好きで、そう、子犬みたいに尻尾を振って『構って!』とこっちに来るのが目に浮かぶよう。それでいて、私たちがリズさんの側についていてあげたくなるような、目が離せないような、ちょっとした保護欲が掻き立てられるような人だと思っています。



「でしょ?そんでさ、ここからが本題なんだけど」



 本題。リズさんの人となりを聞くだけでは終わらないだろうなぁと思っていましたが、いったい何を聞かれるのでしょうか。辺りをきょろきょろと見渡して誰もいないことを確認した先輩さんは、こちらに寄ってきてひそひそと話し始めました。



「さっきも言ったようにさ、私みたいに前のリズを知ってる人たちからすると、今のあの子に対してどう接したらいいかわからなくなっちゃってるの」



「接し方、ですか?」



「そう。フェルノさんの話で、実はリズは生きてましたっていうのはみんな理解したと思う。あの人のお墨付きだしね。もちろん私も、あの子が生きててくれたのは嬉しいんだけど……」



 嬉しいの『だけど』ということは何か不安なことがあるのでしょう。先輩さんはそこで口を噤みました。そんな様子の先輩さんを見て、私も『私が先輩さんの立場だったら』と考えます。



「なるほど、怖いんですね」



「こ、怖い?」



 そう、『怖い』です。ぴーんときちゃいました。少しびっくりしたような先輩さんに説明をするべく、私は話し始めます。



「多分、リズさんが生きているっていうことを皆さんは『理解』は出来てるんだと思います。ですが、『腑に落ちていない』んじゃないでしょうか」



 頭の中ではリズさんが生きていると『理解』していても、本当に?大丈夫?といった疑いが皆さんの心の中には残っていて。だから『腑に落ちていない』のでは、と思いました。



「リズさんが前のリズさんと同じ人だっていうことを証明する方法はないですもんね。だって記憶がないんですから。もしかしたら外見だけそっくりな別人さんかもしれない、なんてこともあるのかもしれません」



 小耳に挟んだお話なんですが、リズさんが新種のアンデッドなんじゃないかなんていうことを言ってる職員さんまでいて、ちょっとだけムッとしちゃったのは内緒の話です。



「なので、言い方はあれかもですが、今の皆さんは得体の知れない腫れ物に触れるような感じでリズさんのことを見てるんじゃないかなって」



 ぺらぺらと私の想像を話して、その間ずっと口を挟まずに聞いてくれていた先輩さんは納得したような表情を浮かべます。



「得体の知れない腫れ物、か。確かにそうかもしれない」



 ありがとう、納得したよと少しすっきりしたように先輩さんはお礼を言ってくれました。でも、まだ悩みは完全に解決してはいないようです。



「でも、そこまでわかったところでどうしたらいいんだろうね。あの子にどう接すればいいか、ていうところは何も解決してないし」



 どう接すればいいのか、なんてそんなのすごく簡単なのに。悩みぼやく先輩さんに、私は一番の解決策を教えてあげます。



「そんなの簡単ですよ、今の先輩さんが私に話しかけてるみたいにすればいいんです」



「今のって、そんな簡単に言われても。それが難しいから悩んでるのに」



 たしかに、普段通り接してあげてなんて言っても、今の先輩さんたちには敷居が高いのかもしれません。だけど。



「その気持ちもわかります。だけど、リズさんはリズさんです。それは変えようのない事実です。それにリズさんはもっと怖いと思うんです。皆さんや家族、友達のこと、ましてや自分自身の過去まで全ての記憶を失ってしまっている中で手探りしながらここで頑張ってるんですよ」



 リズさんがどれだけ思い悩んでここにいるのだろうと思うと、胸が締め付けられます。そんな感情を抱いて私は口早に言葉を続けます。



「昨日だって、皆さんとちゃんと上手く話せるかな、仲良くなれるかなぁなんて、私にずーっと相談してきてたくらいです」



 緊張して眠れない、なんてまるで楽しい行事の前日の子どもみたいにそわそわしてたリズさん。きっとお部屋で一人になってもずっと思い悩んでいたのでしょう、少しだけ目にクマができていました。



「リズさんはずっとずっと不安な中で今もお仕事を頑張って、そんな中で皆さんに必死に歩み寄ろうと努力をしています。それなのに、私たちがリズさんを怖がって避けちゃうようなことをしたら、すごくかわいそうじゃないですか」



 もっと繋がりが欲しくて、寂しくて。みんなと早く打ち解けていきたいのに、手を伸ばしても誰もその手を取ってくれない。でもそれをやめることはできない。だって、やめちゃったら、もっとひとりぼっちになっちゃうから。



 私がリズさんの立場だったら、すごく辛いと思います。だから、私は私が今できることを、精一杯やります。



「だから先輩さんも、今みたいに普段通り接してあげてください。そしたらリズさんは凄く喜ぶと思うんです」



 大好きなリズさんのために。辛いことを減らすだけじゃなくて、あの人が喜ぶことをしてあげたいです。



「そっか……それもそうよね」



 そう言うと、先輩さんはパシッと両頬を叩きました。まるでこっちまで目を覚まして気合いが入るような、とてもいい音が響きます。



「ハノンみたいな小さな子に気付かされるなんてさ、私もまだまだ駄目ね」



「むっ。私はもう十歳ですよ。お姉さんなんです、もう子どもじゃないですよ」



 何やら良い傾向にあるみたいですが、途中の一言は見逃せません。私はもうお姉さんなんですよと胸を張って言い返します。



「はいはい、そうだったわね」



 軽くあしらわれたような気がしてなりませんが、謝ってくれたのでひとまずは水に流してあげます。ごめんごめんと先輩さんは私に謝り、私の顔をしっかりと見て伝えてくれます。



「ありがとね、ハノン。おかげですっきりしたよ。みんなにも普段通り接してあげるように伝えておくから。それと、さっきのハノンの言葉も合わせて、ね」



 先輩さんはウィンクをして私に約束をしてくれました。一所懸命熱弁した甲斐があったというものです。これには私も思わず笑顔を浮かべてありがとうございますっと先輩さんにお辞儀をしました。



 今もおそらく頑張ってお仕事をしているリズさんの助けになれて嬉しいです。



 そういえばリズさんはちゃんとうまくやれてるのでしょうか。帰ったらいっぱいお話を聞きたいところです。



 今後、一日でも早くリズさんと皆さんが仲良くなれたらいいなぁなんて心の中でお空にお願い事を唱えながら。



 お洗濯は、まだまだ続きます。

お読み頂きありがとうございます!


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価、感想をいただけると励みになります……!


次回もよろしくお願いします。


ハノンちゃんはいつだって癒し……( ˇωˇ )

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