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私を魔女にしてください!~知らない誰かとして生きることになった私の物語~  作者: ツグハ
一章 新たな人生の始まり

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19/42

19.初仕事

 姉妹の歓迎を受け、同居させてもらえることが決まった翌日は家から仕事先である医療ギルドへの道を覚えるべく散歩がてら往復しようとして軽く迷子になったり、必要なものを買い揃えたりで忙しく終わった。



 そして今日は、医療ギルドでの仕事が始まる日である。



「今日からよろしくお願いします!」



 ギルドの職員が大勢集まる中、事務室での朝礼にて私は緊張で固まりつつ彼らの前に立って挨拶をする。初めてここにきた時の件があったため、もしかしたら良い顔をされないかもしれないと心配していたが、パチパチと拍手が聞こえ始め、顔を上げて周囲を見渡すとそんなことはなく、職員の皆が歓迎してくれている様子。



「ね、大丈夫だって言ったでしょ」



 隣に立つフェルノさんが私にしか聞こえないような声量でにこっとウインクしながら笑みを浮かべる。事前に根回しでもしてくれていたのだろうか。あとで改めてお礼をしておかないと。



「事前に話した通り、今のリズは記憶がなくなってしまってるの。ここでの仕事内容も、みんなのことも何も覚えていないわ。だから、みんなもそれを理解した上で接してあげてね」



 はい、と職員の揃った声が部屋に響き渡る。他にこれといった報告はなかったようで朝礼はこれにて終了し、それぞれの持ち場に戻っていった。



「さて、これから初仕事に臨んでもらうわけだけど、その前に軽く業務内容の説明をさせてもらうわね」



 フェルノさんのが言うにはこうだ。医療ギルドには医療課と製薬課の二つがある。医療課は怪我の治療や救急などの医療行為。製薬課はその名の通り薬を作り処方する、といった内容。



 私のような新人はまだどちらに配属されるかは決まっていない。製薬課を希望する人はそのまま製薬課のみの仕事を覚えることになるらしいのだが、医療課に限ってはこれからどちらの仕事もやっていく中で、本人の希望や適性を見て決まるのだそう。



「この世界では、医療課と製薬課を二年以上経験したあと、試験に合格した人だけが医師になれるの」


「二年……結構長いんですね」


 私は思わず口を挟んだ。思っていたよりもずっと『ちゃんとした制度』だ。



「それにね、この世界はまだ女性の医師が少ないの」



「少ない、ですか?」



「ええ。女性は早く結婚して家庭に入るべき、っていう考えがまだ強いから」



 その言葉に、胸の奥が少しだけざわついた。



「そんなことがあるんですね……」



 前の世界でも完全に平等だったわけじゃないけど、それでも当然のように言われる感じには少し引っかかるものがある。



「だから、医療の現場で働き続けて資格を取った女性は特別視されるの。尊敬も込めて……『魔女』と呼ばれるわ」



「魔女、ですか……」



 その単語だけ、妙に心に残った。魔女!こういうファンタジー要素を私は待っていたのだ!ついつい興奮して鼻息が荒くなる。



 ただの職業名じゃなくて、称号。怖いものじゃない。むしろ、努力して掴み取った証。



 前世の中世でも魔女という単語は存在していたが、『魔女狩り』なんてものがあったようにそれはあくまでも蔑称。この世界においての『魔女』はただの差別的な呼び方じゃない、むしろ努力して勝ち取った名前みたいに感じた。



「……それ、すごくいいですね」



 気づけば、そう口にしていた。



「いい?」



「はい。魔法とか医療とかかっこいいです」



 自分でも単純だと思うけど、ワクワクしてしまう。



「なら、目指してみる?」



「はい!目指します!」



 返事だけは即答だった。興奮冷めやらぬフェルノさんは落ち着いてと促してきた。我ながらいい歳なのに恥ずかしいところを見せてしまった。反省。



「ふふ。ここで働きたいって話をしてた時もリズは医療魔法に興味があるみたいだったしきっと努力もするだろうから最終的には多分医療課に配属されると思うんだけど、中には独立する子もいるからまずは製薬課の仕事も学ばせなきゃいけなくて。これは決まりなの。少なくともまずは製薬課で半年くらいはちょっとした雑用をしながら知識を蓄えていく期間が続くと思うけど、リズの今後のためにもなるかもだから我慢してくれると助かるわ」



 フェルノさんが少しばかり申し訳なさそうな顔をするが、規則であれば彼女が悪いわけではないのだから仕方がない。それに、新人に任せられることなど限られているのだから、これは妥当だとも思う。



「大丈夫ですよ、気にしないでください。何だかんだでどんな仕事をすることになるのか楽しみですし」



「ありがとう。とりあえずざっと話したけど、詳しいことに関しては今後必要になったら都度説明していくわね。それじゃあ今日の仕事なんだけど……その前に、はいこれ」



「なんですか、これ。なんか文字がたくさん書かれてるみたいですけど」



 フェルノさんが私が私に差し出してきたのは一枚の紙。何やら字がつらつらと書かれているが、いかんせん今の私には読むことができない。



 そうだった、とフェルノさんは苦笑しながら説明を始めてくれた。



「これはざっくり言うと契約書で、私たちが信仰しているパナケイア様にの加護の下で、医療ギルドの一員としてこれから業務に励むことを誓いますって書いてあるの。字が読めなくて不安かもしれないけれど、あなたに不利になるようなことは何も書かれてないわ。ここは私を信じてちょうだい」



 正直なところ、医療ギルドのような場所で詐欺に遭う可能性など微塵も考えていなかったのだが。それに、数回会話を重ねただけだが、フェルノさんが嘘を吐くような人ではないと私自身確信を持っている。



「いや、そこまで念を押さなくても大丈夫ですよ。何も疑ってなかったです」



 そう言って、ハノンちゃんから退院祝いに貰った万年筆をインクに浸し、契約のサインをしようとするが。



「……すみません、字を教えてください」



 出鼻を挫かれたような気もするが、こういうのもまた人生、のはず。書き順から教えてもらった私の名前を丁寧にサインしてフェルノさんに手渡す。



「うん、初めての字にしては上手く書けたんじゃない?」



 いつの間にか持っていたファイルに受け取った契約書を入れ胸に抱えると、ついてきてとフェルノさんは歩き出した。



「これからお待ちかねの仕事をしてもらうことになるんだけど、リズには今日から一年間、製薬科で頑張ってもらうことになるわ」



 事務所をから出てT字路を右に曲がり、奥へと進みながら説明を受ける。医療ギルドは医療課と製薬課で綺麗に区画が分けられており、三階建てのうち、一階は玄関から入って左側が医療課、右側が製薬課。二階、三階は全て医療課に振り分けられている。入院患者の病室や手術室などの確保の関係上このような形になっているらしい。



「なんだか製薬課だけ肩身狭くないですか……?」



「やっぱりそう思うわよね。でもまあ、ここでは薬の調合と処方だけしかしてないから。それにフロアの半分って言っても、そもそもフロア自体が広いから部屋数も確保できてるしこれで充分なのよ」



 新人には毎回聞かれているのだろう、フェルノさんは慣れた様子で答えた。この建物内ではないが、別の敷地をギルドは保有しており、製薬課が全スペースを確保して新薬の開発に励んでいるのだそう。専門家の集まりのため、私がそちらへ出向くことはあまり無く、初めて出会ったときのハノンちゃんのように素材採集もといおつかいのついでにあれもこれもと採集を頼まれた時くらいらしい。



「あの人たちは……。うん、個性的で面白い人たちだから」



 言い淀んで絞り出したかのようにフォローを入れる。私は知っている。『個性的』『面白い人』などと表現するしかない人たちは、基本的にどこかネジの抜けまくっている人しかいない。会ったことのない人に対して失礼かもしれないが、あまり関わらない方が吉なのかもしれない。全く興味がないと言えば嘘になるが。



 話し込んでいるうちに、どうやら目的の部屋に到着したらしい。立ち止まったフェルノさんが、ここよと目線で示す。



 建物内の奥へと進んだ、空気がなんだかひやりと乾燥しているような気がする、そんな場所に今回の仕事場はあった。ノックをしたフェルノさんがドアを開けて部屋に入るのに私も続く。



「シャル、いるかしら?」



 いろんな種類のハーブが一部屋に集められたような、えにも言えない匂いが部屋の中に立ち込めており、私は思わず鼻を摘んだ。はいはーい、とこれが聞こえひょっこりと顔を出したのは黒髪のショートカット、やや間延びのする口調で話している、フェルノさんがシャルと呼んだ女性。白衣を着ているのだが、たくさんの汚れが目立っている。



「ありゃ、ここにフェルノさんが来るなんて珍しいねぇ。どうしたの?」




「ほら、さっきの朝礼でリズが挨拶してたでしょ。ここの仕事を彼女に教えてあげて欲しいの」



 フェルノさんの話が終わると同時に、私は彼女の隣に立ち、ぺこりと会釈をする。



「あぁ、私が指導係ねぇ。いいよいいよぉ、私に任せて」



「ありがとう、あなたなら任せやすいし助かるわ。それじゃあ私は行くから、あとはお願いね」



 あいあいさー、と緩い返事をする彼女。フェルノさんは頑張ってねと私に激励の言葉を残して部屋を去っていった。



「てことで、製粉部にようこそ。よろしくねぇリズ」



「あ、はい。よろしくお願いします!」



 最初の挨拶こそ第一印象を決める大事な行動である。ぴしりと挨拶をする私を見て、シャルさんはあははと軽く笑う。



「畏まらなくていいよぉ。そんなことしてたら疲れちゃうでしょ?私もこんなだしゆるーくやっていこー」



 脱力感を滲ませて、言葉通り腕を緩ませながらぱたぱたと振っている。彼女と話していると私まで気が緩んでくるような気がする。自分自身自覚はしていなかったものの、どこか緊張していたのだろう。それをフェルノさんもシャルさんも気付いていたのかもしれない。彼女の人選は正解だったというわけである。



「はい、ゆるーく、ですね」



「そう、ゆるーく。分かってきたねぇ」



 おかげで肩の力は抜けた。いや、多少抜けすぎたのかもしれないが。まあ、締めるべき時はその都度締め直せばいい、そのくらいに考えておけばいい。こうしてギルドの奥片隅、緩く気の抜けた雰囲気の部屋の中で、私の異世界での初仕事は始まった。

お読み頂きありがとうございます!


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次回もよろしくお願いします。

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