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私を魔女にしてください!~知らない誰かとして生きることになった私の物語~  作者: ツグハ
一章 新たな人生の始まり

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16.服を求めて

 無事に退院して、カレンさんとハノンちゃんと共に医療ギルドを出発して少し経過した頃。



「あの、今私たちってどこに向かってるんですか?」



 私は今、二人に連れられるまま歩いているのだが、その行き先は未だ伝えられていない。



「いえ、特に行き先は決めてないですよ?」



 へ?とぽかんとする私。フェルノさんから寮を用意すると言われていたので、てっきり、これからの私の住居へと案内されているものだと思っていたが、違ったみたいだ。



 言い忘れてたわね、とカレンさんが説明をする。



「ほら、リズはこの街のことを何も知らないでしょ?だから、ゆっくり散歩でもしながら案内してあげようって話になったの」



 なるほど、と私は納得する。この街はとにかく広く、道も大小の通りや路地裏を含めれば無数にある。土地勘のない私が一人で歩けば、迷子になる事必至である。



 もしかしたら、フェルノさんが事前に迎えを頼んでいたのも、側面としてこの理由もあったのかもしれない。



「でもそうね、一日で道を覚えられるわけもないもの。何か目的を決めて歩いた方がいいかも」



「目的、ですか。リズさんは何かやりたいこととかありますか?」



 やりたいことは、とハノンちゃんに問いかけられ、私は即座に思いついたことが一つある。



「そうだなぁ。じゃあ、買い物に行きたいかな」



「お買い物、ですか?でも、今からだと荷物になりませんか?」



「そうなんだけど、服だけでも買いたいかなって。ほら、私この服しか持ってなくて……」



 この世界に転生して以来、私はこの服のみで過ごしてきた。ギルドでは病院服のような物も支給されていたため着替えはどうにかなっていたが、私とて女の子。洗濯をしていたとはいえ、いつまでも同じ服で出歩くのは抵抗がある。



 そんな乙女の悩みを感じ取ってくれたのか、姉妹ともにあぁ、と納得の表情を浮かべる。



「なるほどです。でも、服を売ってるお店が開くのはもう少し先ですし、どうしましょうか」



 今の時間はまだ朝、十時手前くらい。この街の服飾店が開店するのは十一時あたりとのことなので、まだ一時間近くも猶予がある。ちなみに、時計の読み方は入院中にフェルノさんに教えてもらったが、前世と同じく一日は二十四時間らしい。要所で前世と被るものがあるのは、生活に慣れていくうえで個人的にありがたい。



 どうしようかとハノンちゃんと私の二人が唸っていると、カレンさんがすっと手を上げた。



「だったら、うちのギルドはどう?」



「えっと、カレンさんが所属してるギルドはたしか、裁縫ギルドでしたっけ。ギルドで服を売ってるんですか?」



「ええ。どこのクラフト系のギルドもそうだけど、自身のギルドの敷地内に直売店を設置してるの。そういうとこは、うちも例に漏れず営業開始が早いのよ。ここからもそう遠くないし、どうかしら」



 是非もなし、渡りに船だと私はすぐに賛成し、ハノンちゃんも私が良いならとそれに続く。決まりね、とカレンさんの道案内の下、私たちは裁縫ギルドへと向かう。



 道中に大した出来事が起こる事もなく、姉妹による観光案内やそれぞれのおすすめのお店など、二人と楽しく歓談に励んでいるうちに、気が付けば私たちは目的地である裁縫ギルド前に到着した。



 この世界に来てから何も問題が発生すること事なく、なんていうのは初めてだったかもしれない。我ながら大変だったなと自身を労う。



 医療ギルドに比べたら建物の大きさ自体は劣る。うっかりその旨を口に出してしまい、



「医療ギルドが広すぎるだけよ、これが普通なの」



 カレンさんが苦言を呈し、私がごめんなさいと謝罪を入れ苦笑する。気を取り直して、と裁縫ギルドの中へと入っていこうとする私を、カレンさんが肩を掴んで引き留める。



「どこに行ってるのよ。そっちは作業場みたいなもので、お店はこっち」



 そう言って彼女が指差したのは、隣にある二階建てほどある高さの、裁縫ギルドよりも少し小さい建物。同じ敷地内にあるとは言っていたが、ギルドの建物内に併設されている売店のような物だと私は思っていた。なるほど、そういう意味だったか。



 先走りで勘違いをするという恥ずかしさを滲み出しつつ、私たちはお店の中へと入っていった。



 店に入って、カレンさんは挨拶をしてくるからと早々に離脱。残された私たちだけで店内を回る。一階はどうやらハンカチ、ぬいぐるみなどの小物や雑貨がメインで、二階が今回の目的である服飾のフロアらしい。



 小物も欲しくはあるが、まずはこっちだと二階へ続く階段を上がる。服を買った後にでもゆっくりと見ればいい。なんなら、付き合ってくれたお礼にハノンちゃんにぬいぐるみでも買ってあげよう。



 さて、物色を始めようとしたところで、健気に私のそばをとことこと歩いて離れないハノンちゃんに声をかける。



「ハノンちゃんも自分のお洋服とか、他にも見てていいんだよ?」



「いえ、私もリズさんに似合うお洋服を一緒に探したいので、大丈夫です。見渡した感じだと、子ども服はあんまり置いてなさそうですし」



 それに、とハノンちゃんは嬉しそうな声で続ける。



「私が持ってるお洋服の大半はお姉ちゃんが作ってくれてるんです。それが楽しみなので、既製品は見るだけであまり買わないんです」



 今日の服もそうなんですよ、とくるりと回ってワンピースの裾をひらりと舞わせる。ところどころに施された細やかな刺繍と、ハノンちゃんの可憐さを活かしたレース。



「そうなんだ、すっごく似合ってるよ」



 妹愛、ここに極まれり。ハノンちゃんのことが可愛くて仕方がないのだろうが、どうせ彼女のことだ。『裁縫の練習に付き合ってもらってるだけ』などと誤魔化す場面が容易に目に浮かぶ。ハノンちゃんも、この年頃の女の子であれば、そろそろお洒落にも気を配り始めるあたりだろう。それなのに、姉の作った服を好んで着ているときた。



 素直に嬉しい気持ちもあるのだろうが、カレンさんの作った服こそが自分に一番似合うと信じているのだろう。もっと見てください、と言わんばかりに小さな体で主張をしてくるハノンちゃんを見ればそれは伝わってくる。



「ハノンちゃん、お姉さんのことが大好きなんだねぇ」



「はい、大好きです!」



 私の問いに対して、ハノンちゃんはきょとんとした後に、満面の笑顔で答えた。



「お待たせ、まだ探してなかったの?」



 丁度いいタイミングというべきか、キリの良いところでカレンさんは合流した。



「なに、立ち話に夢中になっちゃったわけ?何の話をしてたのよ」



 カレンさんの問いに私たちは顔を見合わせる。



「内緒です!」



 そして、息が合ったようにお互いに笑みを浮かべてそう答えるのだった。



 カレンさんも合流したところで、ようやく始まった私の服探し。二階を丸々女性向けの服のフロアにしているのだろう、棚に所狭しと畳まれているものからマネキンのようなものに着せられたもの、ハンガーラックに掛けられているものまで、なかなかに商品数が多い。



 カレンさん曰く、フロアはたくさんの仕切りで区切られており、一つの区画を一人のギルド職員が受け持つ、というようになっているらしい。というのも、誰のものが多く買われているか、というのを分かりやすくするためとのこと。



 カレンさんの受け持つフロアは何処か、と彼女に聞いてみたが、恥ずかしいから教えないと言われてしまった。



 私の年代の女性に向けた商品、ということである程度は絞られているとはいえ、それでも多い。つまり、何を買うべきか迷っている。三着ほど買えばいいお値段になると思っていたが、さすが直売店というべきか。街中にあるお店よりも格安で販売されているらしい。



「ここに置かれてるのは、だいたい私みたいにまだ修行中の人たちが作ったものなの。だから安いっていう一面もあるんだけどね」



 私が服を広げてみた感じでは、粗も見当たらない。前世の服飾店で売られていたそれと遜色ないレベルじゃないかと思うほどだ。これで修行中なのか、と裁縫ギルドが要求する技術の水準に驚嘆する。このクオリティのものを格安で。日々努力されているギルドの職人たちに頭が上がらない思いである。



 というわけで、当初の予定よりも多く買えると喜んでいた私だったが、張り切って探せば探すほどなかなかに見つからない。



 物色を始めて小一時間、未だに気になるものは見つからず。



 何かいいものはと考えているうちに、そういえば、と私は先ほどのハノンちゃんとの会話を思い出し、彼女はどこかと探す。



「ハノンちゃん」



 ハノンちゃんを見つけ、私は小さな声で彼女を呼び出す。



「はい。そんな小声で、どうしましたか?」



 周囲を見渡してカレンさんがいないことを確認し、あのね、と私は彼女の耳に顔を近づける。



「なるほど。そういうことであれば任せてください」



 待っててください、と私からの内緒のお願いを聞いたハノンちゃんはフロアの奥へと消えていった。



 そうしてハノンちゃんを待つこと数分、彼女は探し物を見つけて帰ってきた。



「早かったね。もう見つかったの?」



「はい、あっちです」



 彼女に連れられて向かった先は、カレンさんの作った衣服が並べられている区画。ハノンちゃんの着ているようなワンピースはないだろうかと探していて、今のところ気に入ったデザインが見つからなかった。



 これを作ったカレンさんの売り場ならばと思いついたのだが、今の私は字が読めないので見つけることはできない。であれば、とハノンちゃんにお願いして探してもらっていたのだ。



 私の予想通り、ハノンちゃんの服と同系統のような服を作るのがカレンさんは好きなのだろう。フリフリのゴシックからシンプルな作りの物まで、可愛らしい服が並んでいる。



「ありがとうハノンちゃん、こういう服が欲しかったんだ。さすがカレンさんだね」



「どういたしまして。お姉ちゃんは凄いんです」



 彼女が作った服ならきっと今の私に似合う服がたくさんある。いっそのこと全ての服をカレンさんの作ったもので揃えよう、そう決めて物色を始めた。



 ハノンちゃんと試着をしながら相談をしつつ、購入する服を着々と決めていく。最終的に、購入を決めたのは五着と靴を二足ほど。当初の予定よりも多いが、格安らしいので奮発である。いっぱいに積まれた買い物かごを持って、ハノンちゃんとともに精算所へと向かい、彼女の手伝いの下で精算を済ませる。



「カレンさん、驚くかな」



「ふふ、どんな顔をするか楽しみです」



 かごから紙袋へ持ち替え、久しぶりの買い物を満喫した私たちは、フロアを練り歩いているカレンさんに合流した。



「お、戻ってきた。その様子だと満足したようね」



 どんなのを買ったのと彼女に聞かれ、紙袋から購入した服を取り出していく。



「ちょ、ちょっと!これ全部……!」



「カレンさんの作った服ですよ!ぬいぐるみのお話でも思いましたけど、やっぱりこういうのがお好きなんですね。好みだったんで思わず買っちゃいました。カレンさん、やっぱり可愛いです」



 可愛いよねー。ねー、とハノンちゃんと声を合わせる。



「いや、買ってくれたのは嬉しいけど……けど……!」



 恥ずかしいから、と服を見せびらかすのをやめろとこちらに迫ってくるカレンさん。



 その様子を見て、私は思わず笑ってしまった。



 こうやって誰かと買い物をして、からかい合って、笑って。そんな当たり前みたいな時間が、この世界ではちゃんと『自分のもの』になっていく。



 悪くないな、と思った。

お読み頂きありがとうございます!


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次回もよろしくお願いします。

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