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退職代行サービス哀歌【仕事だけじゃなく、この世からもバックれたい!】  作者: 尾妻 和宥


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9/10

9.「花房さん、だからこそ鍛錬あるのみです」

 私たちはともにパーティを組み、通路を歩いた。

 床に落ちていた手裏剣を回収するのも忘れなかった。

 彼からショートソードを譲り受けたので、さっそく手にし、感触を確かめた。


 先ほどのリンゴまでもらい、せっかくだから私は齧《かじ》りついて体力を回復した。――この際、ミイラ男の死骸から湧き出てきたのに不衛生ではないか、という疑念には眼を瞑《つぶ》った。

 七種は持ち物の中から木の棍棒を出して、右手に装備している。


「なんとなくダンマスの世界観に似てるなと思ったんだ。もっとも、PC版が発売された当時、私は3歳だったけど。成人してから、レトロゲームの一つとしてプレイしたことがあるんだ」


 と、私は言った。まさか転生先が、そのレトロゲームの中だったとは。


「僕もダンマスはやり込みましたね。今と比べたらグラフィックはショボいですし、エフェクトも爽快感が皆無ですけど、なんたってリアルタイムRPGの先駆けですから」


「こんな過酷なサバイバル、やっていけるんだろうか……。不安になってきた。だってダンマスは、片時も気が抜けないんだぜ。下手すりゃ、現実世界よりずっと厳しい」


「花房さん、だからこそ鍛錬あるのみです」


 と、七種は白い歯を見せた。

 現代社会とは打って変わって、逞しすぎるほどのメンタリティ。前はバックれてばかりだったのに、現世では生き生きしていた。




 しばらくすると我々はT字路にさしかかった。

 真正面は鉄格子の扉になっている。

 七種は扉に密着した状態で、棍棒をふるった。

 ドスッ、と鉄格子にヒットする音。


「なら、私もやるっきゃない」


 私は剣を構え、扉に向かって斬り付けた。

 ガンッ。火花が散った。

 なんだかひどく無意味な行為に思えてくる。

 時折、イヤオオオゥ! と雄叫びを上げて変化をつけた。

 しこしこ(、、、、)地道に素振りするしかないようだ。


「そうです。この努力こそが大事」


「その熱意を現代社会で活かすべきだったよな」


「またまた皮肉をおっしゃって」


 私たちは扉に向かって素振りをくり返すこと30分。ピロリン、と戦士レベルが二度ほど上がった。

 そうだ。ダンマスはこんな陰の努力が報われるゲームだった。


「ところで僕はもうファイアーボールを撃てるんです。最弱レベルですけども。ちゃっかり魔法使いレベル、僧侶レベルも上げちゃってまして」


 七種は棍棒をふるい、汗水を流しながら言った。


「さすがはゲーマー。ダンマスは戦士レベルばかり上げた特化型じゃなく、万遍なくあらゆるレベルを育てた方がよかったんだよな。特化型キャラが死んだとき、弱点になるから」


「ご存じですか? 壁に密着した状態でファイアーボールをぶつけると、爆発の余波でパーティ全員がダメージを受けるんです。でも、そうすることで耐火力《たいかりょく》のレベルが上がる」


「あったあった。自爆育成だろ。……って、まさか!」


 私が言うや、いきなり七種は呪文のシンボルを唱え、壁に向かって右手をかざした。


「ロー……フル……イルッ!」


 その右手がオレンジ色に輝くと、かすかな向かい風が舞った次の瞬間、サッカーボールほどの大きさの火球が放たれた。


 ドカ――――ン!


 野蛮すぎるゼロ距離射撃。

 壁で火球が砕けると大爆発が起こり、私たちはたちまち紅蓮の炎に巻き込まれた。

 視界いっぱいに真っ赤に燃え、全身に燃え移った炎を消すのに躍起になった。二人とも体力の半分以上をごっそり持っていかれてしまった。続けざまやられたら命を落としかねない。


 私は燃えるチュニックを手で払い、なんとか延焼を防いだ。

 隣りの七種は髪の毛から煙を上げ、身体じゅうが黒く煤《すす》けている。どうりで出会ったときから背中のマントが焦げていたわけだ。


 瀕死の私は、七種が作った秘薬フラスコを飲まされ、無理やり回復させられた。

 その後、ふたたび壁に密着した状態で火球を撃たれ、強制的に鍛えられた。


 ダメージを負うたび回復する。体力の上限を一時的に増やすドーピングまでした。

 こんなマゾで狂気じみた育成があろうか。もはや奇行でしかない……。

 おかげで3度目で、耐火力だか耐魔法だかがレベルアップした。




 もう何度、秘薬の液体を喉に流し込まれたことか。

 全快すると、さっきの火傷の痛みもすっかり忘れ、空腹感ばかりが募った。生のトウモロコシだけじゃ物足りないと訴えると、


「ここより下層《した》の階に、巨大イモムシ(ワーム)の巣を見つけたんです。ワームどもが無限に湧いているエリアですって。あそこならいくらでも食料が手に入りますし、湧水の泉もあります。同時にガンガン経験値稼ぎできますから、ビギナーの花房さんを鍛えるにはもってこい」


「スクリーマーだっけ。カリフラワーに足が生えたようなお化けキノコ。どこかに牧場があったはず。あっちの方が初心者向けだろうが!」


「あえてワームでやっちゃいましょう。その方が効率よくレベルが上がる」

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― 新着の感想 ―
自爆育成なんてあるんですねww まるでドラゴンボールの瀕死で復活すると強くなるサイヤ人みたいですね〜♪ まだまだ続きそうなのに、次で最終回! どういう終わり方になるんだろう??
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