9.「花房さん、だからこそ鍛錬あるのみです」
私たちはともにパーティを組み、通路を歩いた。
床に落ちていた手裏剣を回収するのも忘れなかった。
彼からショートソードを譲り受けたので、さっそく手にし、感触を確かめた。
先ほどのリンゴまでもらい、せっかくだから私は齧りついて体力を回復した。――この際、ミイラ男の死骸から湧き出てきたのに不衛生ではないか、という疑念には眼を瞑った。
七種は持ち物の中から木の棍棒を出して、右手に装備している。
「なんとなくダンマスの世界観に似てるなと思ったんだ。もっとも、PC版が発売された当時、私は3歳だったけど。成人してから、レトロゲームの一つとしてプレイしたことがあるんだ」
と、私は言った。まさか転生先が、そのレトロゲームの中だったとは。
「僕もダンマスはやり込みましたね。今と比べたらグラフィックはショボいですし、エフェクトも爽快感が皆無ですけど、なんたってリアルタイムRPGの先駆けですから」
「こんな過酷なサバイバル、やっていけるんだろうか……。不安になってきた。だってダンマスは、片時も気が抜けないんだぜ。下手すりゃ、現実世界よりずっと厳しい」
「花房さん、だからこそ鍛錬あるのみです」
と、七種は白い歯を見せた。
現代社会とは打って変わって、逞しすぎるほどのメンタリティ。前はバックれてばかりだったのに、現世では生き生きしていた。
しばらくすると我々はT字路にさしかかった。
真正面は鉄格子の扉になっている。
七種は扉に密着した状態で、棍棒をふるった。
ドスッ、と鉄格子にヒットする音。
「なら、私もやるっきゃない」
私は剣を構え、扉に向かって斬り付けた。
ガンッ。火花が散った。
なんだかひどく無意味な行為に思えてくる。
時折、イヤオオオゥ! と雄叫びを上げて変化をつけた。
しこしこ地道に素振りするしかないようだ。
「そうです。この努力こそが大事」
「その熱意を現代社会で活かすべきだったよな」
「またまた皮肉をおっしゃって」
私たちは扉に向かって素振りをくり返すこと30分。ピロリン、と戦士レベルが二度ほど上がった。
そうだ。ダンマスはこんな陰の努力が報われるゲームだった。
「ところで僕はもうファイアーボールを撃てるんです。最弱レベルですけども。ちゃっかり魔法使いレベル、僧侶レベルも上げちゃってまして」
七種は棍棒をふるい、汗水を流しながら言った。
「さすがはゲーマー。ダンマスは戦士レベルばかり上げた特化型じゃなく、万遍なくあらゆるレベルを育てた方がよかったんだよな。特化型キャラが死んだとき、弱点になるから」
「ご存じですか? 壁に密着した状態でファイアーボールをぶつけると、爆発の余波でパーティ全員がダメージを受けるんです。でも、そうすることで耐火力のレベルが上がる」
「あったあった。自爆育成だろ。……って、まさか!」
私が言うや、いきなり七種は呪文のシンボルを唱え、壁に向かって右手をかざした。
「ロー……フル……イルッ!」
その右手がオレンジ色に輝くと、かすかな向かい風が舞った次の瞬間、サッカーボールほどの大きさの火球が放たれた。
ドカ――――ン!
野蛮すぎるゼロ距離射撃。
壁で火球が砕けると大爆発が起こり、私たちはたちまち紅蓮の炎に巻き込まれた。
視界いっぱいに真っ赤に燃え、全身に燃え移った炎を消すのに躍起になった。二人とも体力の半分以上をごっそり持っていかれてしまった。続けざまやられたら命を落としかねない。
私は燃えるチュニックを手で払い、なんとか延焼を防いだ。
隣りの七種は髪の毛から煙を上げ、身体じゅうが黒く煤けている。どうりで出会ったときから背中のマントが焦げていたわけだ。
瀕死の私は、七種が作った秘薬フラスコを飲まされ、無理やり回復させられた。
その後、ふたたび壁に密着した状態で火球を撃たれ、強制的に鍛えられた。
ダメージを負うたび回復する。体力の上限を一時的に増やすドーピングまでした。
こんなマゾで狂気じみた育成があろうか。もはや奇行でしかない……。
おかげで3度目で、耐火力だか耐魔法だかがレベルアップした。
もう何度、秘薬の液体を喉に流し込まれたことか。
全快すると、さっきの火傷の痛みもすっかり忘れ、空腹感ばかりが募った。生のトウモロコシだけじゃ物足りないと訴えると、
「ここより下層の階に、巨大イモムシの巣を見つけたんです。ワームどもが無限に湧いているエリアですって。あそこならいくらでも食料が手に入りますし、湧水の泉もあります。同時にガンガン経験値稼ぎできますから、ビギナーの花房さんを鍛えるにはもってこい」
「スクリーマーだっけ。カリフラワーに足が生えたようなお化けキノコ。どこかに牧場があったはず。あっちの方が初心者向けだろうが!」
「あえてワームでやっちゃいましょう。その方が効率よくレベルが上がる」




