↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退職代行サービス哀歌【仕事だけじゃなく、この世からもバックれたい!】  作者: 尾妻 和宥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/10

7.「マミーたん、二匹退治でちゅう!」

 手にすると、まるで水牛の角をぶった切ったような物体。

 私は血眼になってそれを裏返したりこねくり回して調べたが、およそ殴りつけるに適した武器には到底見えない。あまりにも軽すぎるからだ。


 すぐ背後で、マミーたちが迫る陰鬱な擦《す》り足が聞こえた。

 万事休す!

 せっかくのアイテムだったのに、これでは対抗できない。

 天に祈る気持ちでそれを手にしたままモンスターと向かい合った。


 今やマミーどもはすぐ手の届くところまで接近している。

 角の細い部分を見る。穴が開いていた。

 とっさにひらめく。――もしやこれは、角笛ではないか?




 ええい、どうにでもなれ!

 私は角笛の細い側の先端を咥《くわ》えると、深呼吸ひとつし、思いっきり息を吹き込んだ。


 ブォオオオオオオオ――――ン!


 頭が割れそうな、なんとも形容し難い重低音は、通路のはるか先までこだました。

 その角笛の音色が、どう作用したのか、なんと眼の前まで迫ったマミーたちはたじろぎ(、、、、)、その場で回れ右をしたのだから驚かずにはいられない。


 それだけじゃない。

 モンスターはまるで角笛の音色に恐れをなしたか(アンデッドなのに、恐怖するとはこれ如何にだが)、元来た道を戻っていくではないか。


 私はさらに追い討ちをかけた。

 息を吸い込むと、またぞろ一発かましてやった。


 ブォオオオオオオオ――――ン!


 角笛の音に、奴らにダメージを与える力があるのかどうかはわからない。あるいはこの不気味な重低音には、モンスターを遠ざける忌避効果があるのかも……。




 どうにか命拾いしたらしい。

 私は去り行くマミーたちの後ろ姿を見送っていた、まさにそのときだった。

 今度は右の曲がり角から、人影がさっと現れた。

 すると、逃げるマミーの行く手を阻んだ。


 すわ、新たな敵か?

 そんな不安をよそに、その男――鎖帷子《くさりかたびら》を着込み、皮のズボンをつけた若者は弓矢を引き絞っていた。


 まさか、私めがけて狙っているわけじゃあるまいな?

 思わず両腕で頭部をカバーした。


 若者は至近距離から矢を放ち、マミー一体にヘッドショットを決めた。

 鏃《やじり》が後頭部から飛び出すほどの威力。

 矢を打ち込まれたマミーは後ろ向きに倒れ、どう! と音を立てた。

 倒れると同時に塵と化す。なぜか眼にも鮮やかな赤いリンゴがポッと現れた。


 若者は腰を落とした姿勢で、背中の矢筒から新たな矢をつかむと弓につがえ、もう片方のマミーにも攻撃を加えた。

 一発、二発、三発と立て続けに速射し、それでも倒れないと、やけのやんぱちになって弓本体までぶつけた。

 相手がひるんだ隙に、今度は腰の鞘《さや》からショートソードを抜いた。


 剣道で言うところの中段の構えをとり、相手とのタイミングを計るため、今度は右斜めに剣を担ぐような八相《はっそう》の構えへと転じた。


 私は呆気にとられ、その戦いを見守るしかない。彼は戦闘訓練を充分積んだ手練《てだ》れに見えたのだ。

 若者はやおら踏み込み、紫電一閃。

 マミーの胸を袈裟《けさ》斬りにし、返した刀で今度は刺突《しとつ》の一撃を見舞った。見事な手並みは驚嘆に値した。


 マミーの胸に剣がめり込む手応えは、私にも伝わるようだった。

 敵は断末魔の声を洩らすと、身体のくの字に曲げ、ゆっくり頽《くずお》れた。

 石畳に頭から突っ伏すと、灰となって小山を作った。なぜか剥き身のトウモロコシが忽然と現れ、灰の上に着地した。


「マミーたん(、、、、)、二匹退治でちゅう! 戦士レベルと忍者レベルが上がった!」


 と、鎖帷子の若者は嬉々(きき)として言い、ショートソードを掲げ、ガッツポーズを作った。

 呆気に取られていた私は、彼に近づくことにした。彼の快活さから、敵意は感じられないと思ったのだ。




「お疲れさんです――花房《はなぶさ》さん、でしょ? 楽しんでますか?」


 若者は地面に落ちた弓と数本の矢、リンゴ、トウモロコシを回収しながら、私に言った。

 当の私は七種《さえぐさ》 弥勒《みろく》の容姿はおろか、肉声すら耳にしたことがなかった。深夜、窓の外から見下ろしたときはあまりにも離れすぎていたし、言葉も交わしていない。LINEでの仲にすぎなかったのだ。


 それが、ダンジョンで剣と弓を使いこなす器用な戦士は、まちがいなく七種が転生(、、)した姿だと確信があった。頭部まですっぽりと鎖帷子に覆われ、いくつもの修羅場をかいくぐってきたためか、そこらじゅう解《ほつ》れが目立ち、背中のマントも焦げたり、穴が開いていた。


 とはいえ、人懐っこそうな表情は少年のように屈託もない。どこか誇らしげに見えたのは気のせいではあるまい。


「七種君か?」と、私はおずおずと言った。「ここはどこなんだ? 私たちは、さっきの現実世界から、どこへ飛ばされたっていうんだ?」


「どうやら見事なログアウト完了のようですね」七種は快活に笑い、回収した矢を矢筒に戻した。「さっきの世界はブラック企業だらけの病んだ世界であり、強くてしたたかな人、強運の持ち主、富める者しか生き残れない社会だったんでしょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんだか変なやつ出たー!!ww と思ったらやっぱり七種くん♪ww ログアウト……え、この世界がホントの世界なの??
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。