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part5

それからほかの面々も船に上がり、帰るまで談話を楽しんだ。楽しい時間というのは進みが早いと玖音は思った。一時前から遊びに出かけていたのが今や七時前となっていた。

「あまり遅くまでしていると危ないからね。確かに海はきれいだけれど、同時にとても危険でもある。ほら、美しいものにはとげがあるっていうだろう。それに魅入られるといともたやすく取り殺される」

「雄二には覚えがあるんじゃあない」

久我の言葉を聞いて田中が伊藤に揶揄する。

「あの時のことは何度も謝っているだろ。そろそろ忘れてくれよ」

伊藤にはどうやら手痛い思い出があるらしい。なんとなく解釈一致という感じだ。

「それにしてもすごいです。これがあと二回もあるんですか」

目の前の豪華なバーベキューセットに香が感嘆の声を上げる。トウモロコシやピーマンといった野菜から見るからに高そうなお肉、お酒だって何本かあった。まさしく酒池肉林の境地。一般的に酒池肉林といえば女性に囲まれたといった肉欲のイメージが先行しているが、元来このような意味はなく、そのような使い方は誤植である。

「この程度で驚いてくれるのなら、もう少し手を抜いても良かったかしらね。いいところの私大出身ということだから明日、明後日と飽きさせないためにより豪華なものを用意したというのに」

割りに得意げといった様子でいる真昼。話しぶりからこれらの食材たちは真昼が選り抜いたものなのだろう。玖音は比較的小食であり、奉行というわけでもないが、高くて美味しいものを食べたいという庶民の完成は持ち合わせているため、顔に出しはしないが内心うっきうきである。

「本当にかい。これ以上なんて」

「まあ、楽しみにしておくといいわ」

良が素直に称賛し、それについて小気味よいと鼻を鳴らす真昼。彼女が用意したのではないだろうと思わなくもないが、彼女の父の事業に社交という面でも、純粋に経営者としての目線でも無視できない助言を与えていることこそが彼女の身勝手を許容される要素であることからこれは彼女にとって正当な報酬である。

「もうくたくただ。早く飯食おうぜ」

「そうですね。ごはんにしましょう。僕も準備を手伝いますよ」

「私も手伝います」

真昼は生粋のお嬢様なため料理はからっきし、玖音は一人暮らしなためそこそこ、葵に至っては趣味が料理である。玖音よりも若干うまい。二度言うようで悪いが若干である。

「準備といっても飯盒で米を炊くのと野菜を切るだけだけです」

「そうね。そう手間はかからないはず」

香と田中で飯盒、玖音と葵で野菜のカットだ。

「なあ、玖音。野菜を切るだけというのは忍びない。じゃがバターやコロッケなんかも作らないか」

「いいですよ。真昼も葵の料理には以前舌鼓を打っていましたし」

野菜をカットし終わるのも早々に玖音たちは作業に取り掛かった。

「知っていたか。ジャガイモも玉ねぎ同様水に少し置いておくといいんだ」

「美味しくなるんだ」といって葵は微笑み、器用に包丁でジャガイモの皮をむいていく。

「それは知らなかった」

玖音はそう返事をして、ピーラーでジャガイモの皮をむいていく。

葵のような器用さは玖音にはない。玖音らの作業が終わるのとほとんど同じに、あちら側の作業も完成した。

彼女ら以外の連中は肉には手を付けていなかったが、お酒には手を付けていた。そしてその中には真昼の姿も見えた。

「完成しましたよ」

「私たちが料理している間にやっぱり飲んでやがったか」

「葵ぃ。前に座れやぁ」

料理が完成する三十分弱で伊藤はすでに酔っぱらっていた。

「料理が出来上がる前に出来上がってどうするんですか」

上手いことを言う。玖音は少し微笑んだ。これについては葵も意図したうえで言ったことだと思うが、彼は時にしてその天然ゆえに意図せずとして冗談と見られる言動や素っ頓狂なことを言ったりする。それを指摘すると彼は決まって口を結び不機嫌となってしまう。まあ、玖音としてはそれはそれで望むところではあるという面はあるが、いつも通りにっこにこしているのが好ましい。

葵は伊藤の言葉通り、料理を持ってきて伊藤の前に座った。玖音はその隣へと座った。

「これコロッケとじゃがバターです。お酒のつまみにでもどうぞ」

「気が利くなあ。これお前が作ったのか」

「はい、玖音と一緒にですが僕が作りました」

「随分と家庭的じゃあないか。さぞモテるだろ」

「別に対してモテないですよ」

そんなそんなと手を振り、謙遜する葵。

「嘘だぁ。どうなんだいお嬢さん」

伊藤が玖音に真偽を問う。

「もちろん女子から人気はありますよ。ただ、誰に対しても同じように笑顔を振りまくだけなので半ば偶像の地位を築いていますね。故に実際の人気に見合ったほどの質と量の告白を受けてはいません。それでもギリアウトで嫌味な謙遜だと思いますよ」

「だろうなあ」

葵は本気で疑問符を浮かべている。首を可愛らしく傾けているほどだ。

全く鈍感というか、いや普段の言動から見て天然というのが一番しっくりくる。

「はじめ見たときはなあ、いけ好かないやつだと思ったんだ。人形のような端正な顔立ちに、背もこんなにもある。おまけに美女二人も侍らしてるときてらあ」

伊藤は右手に持ったビールを葵のほうに突き出しながらもう一方の手を上へと上げ、高さを表した。

「侍らしているなんて人聞きの悪い」

葵はそう苦笑いをしながら、首許のチョーカーを軽く撫でた。彼はこのように困ったときにも、嬉しかった時にもこういうしぐさをすることがある。それは彼の幼いころから少なくとも、玖音が葵に初めて会った時からの癖であることをかれこれ長い付き合いである玖音は知っていた。

「それで、実際のところどうなんだい。どっちがお前の彼女なんだ。もしくは、どっちもか」

伊藤は下品ともとれる笑みを浮かべて葵にそう問うた。

全く本人がいる前でよくもまあ堂々と聞けるものだ。酔っ払いというのは面倒な生き物だ。

「どっちも彼女じゃあ、ありませんよ。大事な仲間です」

大事な仲間と言われてうれしくも思うが、別に相手が玖音や真昼でなくても言いそうなセリフではある。それも酔っ払いの戯言に返すだけの言葉なので実に薄っぺらい。

「なんだあ、つまんない」

「おい、本当にその辺でやめておけ。お酒が完全に悪さをしている。これじゃあ、完全にアルハラじゃあないか」

良が伊藤がきつく非難する。いいぞ、言ってやれ。

「へいへい」

「全く分かっているのか。すまない、葵君。昔からこいつは酒癖が悪くてな」

「別に、構いやしませんよ。こちらもそうフランクに来てもらって、やりやすい部分もあるんですから」

「そら見ろ。葵もこういっているじゃあないか」

了承を得たからいいじゃあないかという具合にへらへらと笑う伊藤に良は嘆息する。


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