第71話 コロシアム
~王都トパーズ~
リアは自分の考えに迷いながら、王都をさ迷っていた。
「これはこれはリア様―――、王都をお散歩ですか?」
聞き覚えのある声が耳に入る。
この声は確か、解放軍から私を誘ったあの紳士風の男―――
名前は確か・・・
「エドワードです―――」
まるで自分の思考を読まれたかのように男は先に口を出してきた。
自信ありげな眼でこっちを見ている。
帝国所属の専属執事だったか―――
老齢ながらギラギラしたモノを持っている。
「エドワード・・・さんが私に何の用です?」
「いえ、特に用ということはございませんが―――、偶々お見かけしたので声を掛けさせてもらいました。」
偶々・・・?
そんなことがあるだろうか。
きっと城を黙って抜け出した私を連れ戻しに来たんだ。
「もしよろしければ、私にお付き合いいただけますか?」
エドワードはリアをそのようにして誘った。
「・・・っ!?」
一体、どこに連れて行こうというのか。
「この先って―――」
リアはこの道に見覚えがあった。
「こちらでございます。」
そう云って、案内されたのが王都の中枢に立つコロシアム。
昔は数多の戦士がここで戦い、それを観戦するという興業が流行った。
しかし、先々代の王がそれは野蛮で人間らしい行為ではないとして、コロシアムでの興行を廃止にした。
私はその行為を同じ王族として誇らしく思う。
それからここは廃れ、人が寄り付かなくなった。
あの侵略戦争の後、帝国がここを改装したのだろう。
中は人で賑わっていた。
「リア様の為に特等席を用意いたしました―――」
そう云って、エドワードに案内された席に着く。
眼下のアリーナでは戦闘、見世物の闘いが行われていた。
大柄の男が獰猛な魔獣と相対する。
暫くの睨み合いの後、両者はその両手を組み合う。
シンプルな『力比べ』だ―――
「いいパワーだ・・・!!」
人間が魔獣と正面からの組み合い?
それも一人で・・・!?
リアは目を疑う。
男も2メートルは優に超す。
体格差はほとんどない。
ボキっ―――!!
骨の折れる鈍い音がアリーナに響く。
「グゴゴオオオォォーーーーッ!!!」
獰猛な魔獣が泣き叫んでいるように声を上げる。
両者は手を離し、距離を取る。
「完璧な肉体!!」
男はそう口に出す。
怯んだ魔獣の胴体をガシッと掴む。
既に男は魔獣を取り押さえ、身体の自由を奪う。
「グオオォォーーーっ!!」
離せと言っているのだろうか、折れた両腕をブンブンと振るって身体の自由を取り戻そうとする。
ボキボキボキボキっ―――
体中の骨が折れる音が聴こえた。
ゾクっ―――!!
リアの背筋が凍る。
S級冒険者で屈強なグランさんだって、武器も持たず、ここまで一方的に魔獣を倒せるだろうか?
「アレは・・・?」
「あの方は我が帝国軍が誇る帝国陸軍第五鉄血師団団長ヒューゴ-エンデ-バルジーナ。」
「アレでもまだ十分の一程度の力しか出していないでしょう―――」
「そんな人間がいるっていうの?」
「あの御方は怪力無双としてその名を轟かせております。」
「その肉体で不可能はございません。」
ゴクリ・・・!?
そんなヒューゴに対して、観客たちはワァーという大きな歓声を上げる。
まさに血で血を洗う見世物―――、そんな興行に皆は興奮している。
「驚きましたか?」
「こんな見世物、悪趣味よ!」
「悪趣味・・・ですか―――、ですが、ここに来る者は皆、その興奮に満足しております。」
「人は皆、心の奥底では争いを求めております。」
「争いという非日常を求めてこれだけの人が集まる―――、それが悪趣味という一言で本当に片付けられて良いのでしょうか?」
エドワードはリアを小馬鹿にするように笑いながらそう云った。
「・・・っ!?」
この王都に戻ってからこんなことばかりだ―――
今まで、王国が作り上げてきた歴史や伝統が塗り替えられている。
コレが『侵略』なのだろう。
ヒューゴと猛獣がアリーナから去り、今度は別の魔獣と戦士が登場した。
また帝国の騎士・・・!
今度は二人・・・。
「邪魔したらブッ飛ばすからな―――」
「そっちこそ、小生の邪魔はしないでもらいたいものだ。」
「あんまり見世物ってのも好きじゃねェーンだがな・・・帝国の為だ、やってやろうじゃねェ―か!」
二人の向かう合う敵はキングヒドラ―――
「これ作ったの絶対ヴィクター博士でしょ・・・。」
サイズが災害級だ―――
アリーナの1/3はある。
観客席に被害が及ばぬように魔法の結界が貼られる。
「まぁ、俺らの敵じゃないっしょ!!」
「いくぞ!アラン!!」
「命令するなっ!!」
二人はそのキングヒドラに挑んだ。
ほとんど時間は掛からなかったと思う。
恐らく数分程度―――
二人の驚くべき戦闘力によって、キングヒドラはなす術なく蹂躙されていった。
火炎や氷結、暴風・・・自然系の吐息や魔法を駆使してキングヒドラは戦ったが、二人は高速で回避し、的確に急所を狙うスタイルで攻めていく。
強力なモンスターが人間にここまで何もできずにやられることがあっていいのだろうか。
「こんな化け物がまだ帝国にいたっていうの・・・?」
「あの二人は帝国陸軍第四鉄血師団団長キルマ-スラ-マルベル、帝国陸軍第六鉄血師団団長アラン-マリ-オーランでございます。」
リアはこのコロシアムで帝国の精鋭たちの実力を見せつけられることになった。




