第70話 頂点
~王都トパーズ~
この地に生まれ落ちて十数年。
私の口から出たことはいつも「正」になる。
誤っていても「正」になる。
全ての者が従い、頭を垂れる。
臣下も、将も、民も、そして敵すらも。
そのすべてが、この一人の意思に運命を預けている。
それが「頂点」の役割、皇帝の仕事。
だが、同時に頂点とは孤独との隣り合わせ。
隣に並び立つ者がいない。
肩を叩く者も、迷いを分かち合う者もいない。
正しさすら、己で決めねばならない。
貴様にその覚悟があるのか?
「私に意見するか―――?」
「ええ、そうよ―――」
「私は貴方達、帝国の侵略を許さないッ!!」
「許さない?・・・では、どうするというのだ?ここでこの私を討つか?もし、そうするというのなら、私も黙ってはいない。」
リアはずっと皇帝を睨んだまま。
その瞳には憎悪の炎を宿している。
「憎しみだけでは物事は解決しないぞ―――」
皇帝はリアに対してそう云い放つ。
「その憎しみを生んだのは貴方でしょ!」
リアの云いたいことはもっともだ。
帝国が平和なこの国に攻め込まなければこんなことにはなっていない。
「ククク・・・自国の弱さを他国のせいにするか―――」
アレフゼロはリアをせせら笑う。
「弱ければ全てを奪われる。」
「そんな当たり前のこともこの国では教えられて来なかった。」
「ただそれだけのこと―――、それがこの結果に結びついたのだ。」
「ジュエル王国は遅かれ早かれ、同じような運命を辿っていただろう。」
アレフゼロは冷たい口調でそう云った。
「なんて非道いことを・・・!?」
リアはアレフゼロのことを非情な人間だと思った。
しかし、彼の言葉が事実であることも同時に理解した。
そうだ―――、理解したからこそ、それ以上は何も言えなかった。
「口喧嘩もこの辺にしておこう―――」
「今日、其方をここへ呼んだのは口喧嘩をする為ではない。」
「客人として呼んだのだ。」
皇帝とセディナ御姉様が結婚するという話。
にわかには信じられなかった。
「カルデキア帝国とジュエル王国は一つになる!!」
皇帝はそう宣言した。
彼の言葉に偽りはない。
「セディナ御姉様!?それでよいのですか!?」
リアは反対する。
自分だって分かっている―――
コレが子どもの我儘なのは。
でも、自分の両親や国民を殺めた者達と一つになるなんて―――
到底耐えることはできない。
もし、それを飲んでしまえば、肉体が死に魂となり、あの世へ行った彼らに申し訳無い。
「分かってください、リア・・・これもこの国の為なのです。」
セディナは優しくリアに微笑みかける。
その顔が後になって何故か忘れられなかった。
どうしようもない無力感が全身を襲う。
プルプルと手を震わせ、小さく頷いた。
きっと自分以上にセディナ御姉様は悔しい想いをしている。
それを自分の感情だけで台無しにしてはいけない。
まだ子どもながらもリアはそう感じていた。
「ランスロット―――、式の準備を進めろ!」
「この国を挙げて盛大に祝うぞっ!!」
「ハッ―――!!」
ランスロットは準備に向かう。
きっと、解放軍の者達が王女を取り返しにやって来る。
警備を・・・この国の警備を強化して、皇帝陛下の邪魔立てを阻止せねば。
ランスロットはそう心に決める。
式は3日後―――
それまではリアは客人としてもてなしを受ける。
リアは街も見て回った。
帝国に侵略された後の王都がどうなっているか気になったからだ。
確かに雰囲気は変わったが、侵略前よりも活気に溢れていた。
そうだ―――、街は間違いなく活気に満ち溢れ、民は幸せそうにしていた。
誰一人、不幸そうにしている人はいない。
貧しさに苦しんでいる者もいない。
争いだってない。
「ウソだよ・・・!?こんなの・・・!」
リアは唐突に自分のやってきたことが正しい事だったのか、不安に襲われた。
ジュエル王国の王族が治めていた頃より今の方がみんな幸せそうだったからだ。
それを勝手に帝国=『悪』だと考えていた。
でも現実は違ったのかもしれない。
国民は満ち足りている。
確かに戦争で傷を負った。
しかし、半年近く経った今、その傷も癒えてきている。
寧ろ、傷口は塞がり、より強靭になっているとも云える。
帝国の高度に発達した科学技術でこの国の生産性は飛躍的に向上したらしい。
それによって貧しさはなくなり、民から飢えは消えた。
それだけでない―――、医学や工学、魔導学によって確実にこの王都の生活は豊かになった。
私達にコレが出来た・・・?
同じことが出来た?
いや、出来ない―――
やろうともしなかった。
悔しいけどそれが現実。
それなのに帝国からこの王都を取り返そうとするのは本当に正しい事なの?
リアは迷う。
自分がやろうとしていたことに。




