6話
「むしゃ、むしゃむしゃむしゃ、むしゃむしゃ……」
月明かりすら届かない山中腹の洞窟の中。血に濡れた猿の魔物の死体に、豪快にかぶりつく一匹のゴブリンがいた。
イシバである。
自分でも驚いていた。サンゴが持ってくるのを見た瞬間は吐き気しか催さなかったのに、手にとってみると印象が一変したのだ。食欲を激しくそそる野性的な匂いが鼻腔をくすぐる。
(食える――)
そう思った瞬間、戸惑う間もなく肉にかぶりついていた。
これが信じられないほど美味い。塩も胡椒もかかっておらず、肉質も硬いのに、あまりの美味さに手が止まらなかった。
「美味しい?」
「ふごぅ、美味しい! めっちゃ美味しい!」
「よかったー! 遠慮しないで食べてね」
特に内臓が絶品だった。いまや胃袋の欲望に抗えず、腹の中に顔を突っ込むようにして貪り食っている。人間だった頃は、どちらかといえばモツなんて苦手な部類だったというのに。
それに賞味期限にもこだわっていた。一日でも過ぎたら絶対に口にしなかった。それなのに今は賞味期限も消費期限も分らないものにかぶりついている。
「こんなに美味しいものを本当に一人で食べていいの?」
「いいよ!僕はもう食べたから」
サンゴはとても嬉しそうに言った。
「ありがとう」
「全然大丈夫だよ」
このゴブリンはどれだけいいやつなのだろうか。何か困ったことがあったら絶対に助けてあげよう。イシバはそう誓った。
「美味しいところは最後にとっておいてるの?」
「ん?」
「脳味噌だよ。シンモンで一番美味しいのは脳味噌なんだ」
「食べたことないな……」
「それなら教えてあげる! 簡単だからね」
そう言うと、サンゴは足元に転がっていた手のひらサイズの石を持ち上げた。
「これで頭を割るんだよ。そしたら、中の脳味噌をすするの」
「へー……」
「すっごく美味しいよ!」
戸惑うイシバを励ますように、サンゴが身を乗り出す。
「……ちょっとやってみようかな」
「絶対にその方がいいよ! 本当に美味しいから!」
手渡された石を握り締め、猿の顔を地面にセットする。
「頭を割る……」
「そうだよ!」
イシバは躊躇なく、勢いよく石を振り下ろした。その姿はどこからどう見ても、完全なゴブリンだった。
神様ありがとう、本能を思い出させてくれてありがとう………とは少しも思わなかった。
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