2話
手が緑色だ。足も、腹も。そしてなぜか、素っ裸に腰布が一枚巻き付いているだけ。
(なんだこれは……いったい何が起こっているんだ?)
頭上から強い日差しが降り注ぐ深い森の中で、芦屋石橋は呆然と立ち尽くしていた。
「……もしかして、手違いか?」
さっき神が「手違いで殺した」と言っていたことを思い出す。それにしても神か天使か知らないが、あいつらはこんなにも頻繁に事故を起こすものなのだろうか。
「思っていたのと全然違うんだが……」
その時、石橋の目の前に一枚の紙切れがひらひらと舞い落ちてきた。
「あっ」
慌てて掴もうとしたが、紙切れは風に乗ってヒラリと交わし、石橋の緑色の手は思った以上に短かった。
「……」
無言で地面に落ちた紙切れを拾い上げ、ひっくり返して読む。
『転生成功おめでとう! 実はこの技は難易度が高く、失敗する確率も非常に高い危険な術なのだが、上手くいって良かったよ。さすがは天界一の天才、ロキ様だ。我ながら惚れ惚れする腕前である。そんな素敵な私から、とっておきのプレゼントだ。君はたった今から魔法使いになった。『鑑定』と念じることで、瞬時に自分のステータスを確認できるようにしておいた。そうじゃないと実感が出来ないだろからね。さあ、存分に感謝したまえ。あと、人間だと普通過ぎて面白くないから君をゴブリンにしておいてあげたよ。それでは、アディオス!』
石橋はその文章を二度読み返した。そして、紙切れを全力で地面に叩きつけた。
「何がアディオスだ馬鹿野郎―――――――――――!!嫌だ――――!!ゴブリンは嫌だ――――!!ゴブリン転生は嫌だぁああああああああああああああ――――――――!!!」
その時、視界の端で何かが動いた。
「ん?」
人生最強の怒りと嘆きを中断するほどの違和感。しかしその正体が何なのか、どうすればよいのかには全く頭が回らなかった。
茂みに潜んでいた何者かが放った矢が、緑色の額の中心を正確に射抜いたのだ。
ドスッ。
石橋はそのまま後頭部から地面へと倒れ伏した。
新たに生まれ変わった石橋の第二の人生――いや、ゴブリン生は、わずか一分四十五秒で幕を閉じた。
《特殊魔法『100万回生きたねこ』が発動します》
すでに絶命している石橋の耳に、その機械的なアナウンスが届くことはなかった。
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