11話
スピンキックの練習を頑張ったサンゴと並んで、おしゃべりをしながら山の中腹からの景色を眺める。
なんだか自由だな、と思う。
日本からやってきた身としては、ここには何もないと同然だ。スマホどころか電気すらないのだから。
それなのに、退屈だとは少しも思わなかった。
ただ黙って景色を眺め、言葉を交わしているだけで、穏やかに時間が過ぎていった。
「そうだ! いいこと教えてあげる!」
「いいこと?」
「うん! この虫ね、指でこうやって触ると丸くなるんだよ」
サンゴが指先でつついて見せてくれたのは、見慣れたダンゴムシだった。
「へー、ここにもいるんだ」
この世界は異世界とはいえ、少しだけ地球に似ている。猿、サソリ、ダンゴムシ……どれも元いた世界にいた生き物だ。ゴブリンはいなかったけれど。
「もしかして知ってた?」
「少しだけね」
サンゴは残念そうな顔をした。驚かせたかったのかもしれない。
「それじゃあ、これは!? ここからね、人間が住んでる町が見えるんだよ!」
「え!?」
「やった、驚いた!」
サンゴは嬉しそうにクスクスと笑った。
「どこにあるの?」
「ほら、あそこ! 見えるかな?」
「……見えないな」
指さされた方向を注視してみたが、夜の暗闇が広がるばかりだった。ゴブlinは夜目が利くとはいえ、あまりに遠くまでは見通せないらしい。
「太陽が昇ってきたら見えるよ! その時になったら、一緒に見ようね」
「うん」
『人間の町』――その言葉を聞いただけで、胸がドクンと跳ねた。今の自分はゴブリンだ。町があったとしても、行けるはずもない。それなのに、無性に行ってみたかった。
「イシバも、やっぱり人間が気になるの?」
「うん」
「実は僕も……。お父さんお母さんには、絶対に近づいちゃダメだって言われてるんだけどね」
「そうなんだ……」
ゴブリンといえば、真っ先に人間に襲いかかる凶暴なイメージがあった。けれど、この世界のゴブリンにとって人間は「危険で、絶対に避けるべき存在」らしい。
つまり――ゴブリンよりも、人間の方が圧倒的に強いということだ。もし逆なら、ゴブリンは人間を格好の食料として狙っているはずだから。
つまりあのロキという神は俺を弱くしたうえでこの世界に送り込んだという事だ。悪意だ、悪意しか感じない。光りの衣を見に纏った金髪のイケメン。見た目だけは神様っぽい癖にやってることは悪魔じゃないか。
(いつか絶対………)
「あ! 空が明るくなってきたよ!」
考えを巡らせていると、サンゴが声を弾ませた。
「そろそろ寝ようか。スピンキックの練習は、また明日がんばろう!」
「うん」
どうやらゴブリンは夜行性のようだ。サンゴと一緒に洞窟の奥へと戻り、寝る準備を始める。お腹が減ったら食べ、眠くなったら寝る。それが、この世界におけるゴブリンの生き方なのだ。
神様ありがとう、貴方のお陰で僕は生きる喜びを取り戻しました。とは少しも思わなかった。
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