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ハミルトン・ヴァレーの客人令嬢  作者: 駒野沙月


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Ep.4 Kitchen DELI

 とある日の昼前のこと。この日も家を抜け出してはハミルトン・ヴァレーを訪れていたロッテは、ルーカスと共に街を散策していた。

 しかしある時、ぐぎゅるるる、とロッテのお腹が鳴った。淑女にあるまじき失態と、彼女は恥ずかしさと苛立ちで真っ赤になる。

 そんなロッテに、ルーカスは面白がるような笑みを浮かべつつも、気を遣ったように声をかけた。


「あー…そろそろいい時間だな。飯でも行くか?姫さんよ」

「…行く」


 未だ何処となく口角が上がっている様子のルーカスは彼女を連れ、大通りの一本奥に伸びる通り、普段彼女一人では立ち入るなと言い含められている方面へと進んで行く。

 特に迷う様子も無く、歩みを進めていた彼だったが、ある時とある建物の前で足を止めた。


 この世界では一般的な、木材とレンガによって作られたこじんまりとした建物だ。彼の言葉からすれば飲食店か何かだろうか、と彼女は推測するが、この建物の外装にはそれらしきものはどこにも見当たらない。

 一つだけ挙げられるとすれば、表の扉に"CLOSED"の文字が書かれた札がかかっている、ということくらいだろうか。表から見える窓にもカーテンがかかっているため、そこから中を窺い見ることも出来なさそうだ。


「…ここか?」

「そういや姫さんは初めてか。大丈夫、店主の態度はアレだが料理の方は一級品だ」


 扉にかかった札もお構いなしに、ルーカスは慣れた様子で扉に手をかける。彼に促され、おそるおそる足を踏み入れた店内は、これまでの彼女には全く縁のなかった世界である。


 店内にはいくつかのテーブルとカウンター席が置かれ、棚には様々な色の酒瓶と大きな樽がずらっと並んでいる。魔法式のランプこそいくつか灯っているが、窓が少ないことと、その多くにカーテンが閉められているのもあって、店内は少々薄暗い。

 昼の太陽がよく似合うマーサのカフェとは正反対の、夜の似合う店だった。


「…表の札が見えんのか、お前は」

「いいじゃねえか、今更だろ」


 突然、店の奥の方から苛立ったような声が飛んで来た。ロッテは驚いて固まってしまったが、ルーカスはそれに平然と返事を返していた。

 初めて見る空間に目を奪われていた彼女は気が付いていなかったが、カウンターの向こうには人影があったのである。


 声の持ち主は、紺のエプロン姿の青年。どうやら開店準備中だったようで、手には濡れたグラスと布巾を携えている。

 彼は突然やって来たルーカスにまだ何か言いたそうにしていたが、その隣にいたロッテに気が付いて軽く目を見開く。


 グラスと布巾を置き、カウンターの奥で丁寧にお辞儀をする店主は、改めて口を開く。


「ようこそいらっしゃいました、お嬢さん」


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