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ハミルトン・ヴァレーの客人令嬢  作者: 駒野沙月


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18/25

3-5

 突如落とされた爆弾に、ちょうどカップを傾けていたルーカスは咽せて咳き込んだ。

 大丈夫?と首を傾げる友人に向かって吹き出さなかっただけ僥倖か、と思いつつも、彼は呼吸を整えて友人を睨んだ。


「…お前、姫さまが今何歳(いくつ)だと思ってる」

「歳の差を考えろって言いたいの?僕らの間じゃ、これくらいの歳の差も割と普通だってことくらい、君なら知ってるだろう」

「俺はただの平民なんだが?」

「君くらいの男なら大丈夫でしょ。父上だって認めてくれるさ」

「…またお前は父親を敵に回す気かよ」

「元より勘当されてないのが僕としては驚きだがね」


 この友人は冗談にしか聞こえないようなことであっても、このような真面目な顔で話すきらいがある。この発言も冗談なのか、それとも本気で言っているのか、彼には正直区別がつかなかった。

 戸惑いを隠せない様子の友人の顔を、リチャードは普段通りの飄々とした、どことなく達観したような面持ちで見つめていた。


「あの子が父親の後を継ぐにせよ継がないにせよ、あの子を正しく導き支える者として、君以上の適任はいないと思ってるんだけどね」

「それは教師か補佐役の役目だろ。夫じゃなくたって出来ることじゃねえか」


 困惑しつつもどうにか彼が答えを返せば、リチャードは「…そうか。うん、安心したよ」と満足気に頷いた。


「何がだよ」

「いやね、結婚云々は一旦置いておくとして。君はこれからもあの子の傍にいてくれるつもりなんだなと」

「…どう解釈すればそうなる」

「だって君、さっきから年齢と身分差ばっかり気にしてるんだもん。拒否しないってことは、少なくとも嫌ではないんだろうなって」


 彼からすれば、嫌だとか嫌ではないとかそういう問題ではないし、そもそも、娘でも一応おかしくない歳の少女が"そういう"対象になる筈がない。

 だがしかし、こうなった友人には何を言っても無駄であるということも、彼はよく知っている。


「…そういう問題じゃねえっての」

「お転婆すぎて困るとか、(友達)の姪っ子だから嫌なのかと」

「…お転婆すぎるのは違いないな」


 一時の沈黙に満ちた部屋に、ノックの音が響く。

 扉の向こうに居たのは、隣の部屋にいるはずのロッテであった。伯父の姿を目にした彼女は、ぱあっと顔を輝かせ、二人の方へぱたぱたと駆け寄って来る。


「伯父様もいらしていたのですね!」

「やあ、ロッテ。今日も元気そうで何よりだよ」


 スカートを摘まんでお辞儀をするロッテに、リチャードは軽く手を挙げて答える。


 そのついでのように時間を尋ねられ、ルーカスは「それくらい自分で見ろよ」とぼやきながらも懐中時計を開く。

 針が指す時刻は2時半。それを伝えれば、彼は満足そうに微笑んだ。


「そうか、お茶にはちょうどいい時間だね。君も一緒にどうだい、ロッテ」

「はい!」

「…さっさと帰れよ、お前ら」


 まるで自分の部屋でもあるかのように椅子と茶を勧める古馴染と、それらを素直に受け取っている小さな"友人"。

 まだまだ帰るつもりはないのであろう彼らに、彼はまたもや深く息をついていた。



 彼は自分のカップに茶を注ごうとして、テーブル上のポットにはもう中身がないことに気が付いた。

 私が行こうか、というロッテの申し出も断り、自ら部屋を出て行く。ここでは湯は湧かせないため、キッチンまで貰いに行ったのである。


 彼の姿が扉の向こうへと消えた頃、リチャードは不意に「…ふふ」と笑みをもらす。

 きょとんとした顔を上げた姪っ子に向かって、彼は口を開く。


「彼の真意はどこにあるんだろうと思ってね。さっさと帰らせたいのか、まだ居てほしいのか」

「…単に、気を回してくれただけなのではないのですか?」


 面白がるように笑っている伯父に対し、少女は不思議そうに首を傾げた。

 ついさっき、友人が出がけに残りの茶を入れていったカップを傾けつつも、その様子を見た彼はまたその口元を綻ばせる。


「それもあるだろうけどね。…良い男だよ、まったく」

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