28.ひさしぶりの再開です!
こちらの節も小説家になろう、書下ろしになります。
今年も残すところわずかとなった。
レーヌが王城で暮らすようになって3週間も過ぎた、冬晴れの日。
昨日降った雪が太陽に照らされ白く輝く中、レーヌは午後に王城内の散歩に出た。
「レーヌ様、足元にお気をつけくださいませ」
城から庭園に出る時に一緒に散歩に付き添っている侍女のセレストが心配そうにレーヌの顔を見ながら声を掛けてくる。
「はい、ゆっくり歩きますね」
庭園に敷き詰められた歩道になっている石畳の上は雪が避けられており、黒く濡れているだけだった。
石畳の上をゆっくりと歩きながらレーヌは口を開く。
「寒いですけど、空気が澄んでいて気持ちいいですね」
レーヌは空を見上げながら、深呼吸しながら冷たい空気を吸い込む。
「もう、3週間になるのね……」
12月3日。慰労会の夜にこの王城の1室に閉じ込められ、妃教育を受けながら魔物退治して。イアサント宰相に誘拐されて。テオドール殿下がリュカだと知って。
「父と母は元気かしら……」
あの夜から会うことのない両親を思い出して、ふいに涙で視界がぼやける。
慌てて指で涙をぬぐっている時に名前を呼ばれた気がして振り向く。
「レーヌ嬢!」
声の主はテオドールで、王城の廊下を護衛に守られながら歩いていた。
テオドールは護衛に目配せすると、ひょい、と庭園側に降りてきて、雪の中を小走りでレーヌの元に近づく。
その様子にレーヌと散歩に付き添っているセレストが一斉に膝を折る。
「ああ、気にしないで、おもてを上げて?」
テオドールは息を切らせながらその場にいる全員に伝えたのでレーヌと侍女達は頭を上げた。
「ご機嫌麗しゅう」
レーヌがテオドールに挨拶をすると、嬉しそうに目を細め笑顔を浮かべたが首を傾げる。
「泣いていたの?」
テオドールの言葉にレーヌは、はっとして俯く。
「すみません、冷たい空気で目が痛くなって……」
レーヌは両親のことを考えていたと言えなくて、とっさに嘘をつく。
しばらくの間があって、俯いているレーヌの元にハンカチが差し出された。
「涙を拭いてね」
テオドールの優しい声が聞こえてきて、俯いたままハンカチを受け取ると軽く目元にあてる。
「散歩していたの?」
「はい。雪が積もっているのを見て、小さな雪だるまを作ろうかと思って」
「じゃあ、僕も一緒に作っていい?」
テオドールが弾んだ声でそう言って、レーヌは思わず顔を上げる。
「僕は雪で遊んだことなくて。もしよかったら、作り方教えてほしいな」
頬を少し赤らめながら、テオドールはそう話す。その顔を見てレーヌは笑顔を浮かべた。
「はい、では一緒に……ですが、お仕事は大丈夫ですか?」
「うん、少し位大丈夫だよ」
テオドールは無邪気にそう言っているが、レーヌはちらっと後ろにいるセレストに視線を向けると、すぐに理解してくれたようで、静かに離れていった。
「では、始めましょうか?」
レーヌはそう言うと、近くにある雪の山に近寄ると、雪を丸く固め始める。
「まずはこうやって、雪を丸く固めていきます」
テオドールはレーヌの説明を聞きながら同じように雪を丸く固め始めた。
「ある程度の大きさになった雪玉を、雪の上に転がします」
テオドールはレーヌに言われた通りに手を赤くしながら雪の上に転がし始めたが、少しずつ大きくなっていく様子に目を輝かせる。
レーヌはその様子を見ていると、胸の奥が熱くなりなぜか涙が溢れてきた。
慌てて指で目をぬぐうと丸く固めた雪を転がし、程よい大きさにしたところでテオドールに声を掛ける。
「テオドール殿下、そろそろ組み立てましょうか?」
「組み立てる?」
「はい」
レーヌが作った丸い雪を地面の上に置くと、テオドールから丸い雪を受け取るとその上に押し付けるようにして乗せる。
「これで完成です。本当は目とか鼻を書いたりするのですが……」
説明しながらテオドールを見ると、完成した雪だるまをきらきらとした目で見つめていた。
「すごい! これ、明日も残っているの?」
「雪の解けない気温でしたら、しばらくは残っています」
「そうか。また明日見に来る!」
無邪気にはしゃぐテオドールを見てレーヌはくすくすと笑う。
「テオドール殿下!」
王城の廊下から声が聞こえてきて、テオドールは表情を引き締める。
「これ以上遊んでいると怒られるかも。じゃあ、また明日ね」
レーヌにそれだけ言うと、テオドールは笑顔で手を振り、小走りで廊下にいる護衛の元に戻っていった。
「レーヌ様、私達もそろそろ、お部屋に戻りましょうか?」
いつの間にか戻ってきたセレストに声を掛けられた瞬間、ぶる、と体が震える。
「体を冷やして、風邪をひかれると私達が怒られます」
セレストはおどけた口調で言うので、レーヌは笑いながら頷くと、部屋に戻るため、王城に向かい歩き始めた。
レーヌが部屋の入口についた時、セレストが口を開く。
「レーヌ様にお客様がお見えになっています」
「お客様?」
尋ねてくる人に心当たりがなく、レーヌは首を傾げていたが、セレストはそのままドアを開く。
「レーヌ!」
ひさしぶりに聞く声にレーヌは驚き、涙が零れた。
「お父様、お母様!」
部屋の中にいたのは先ほど思い浮かべた両親で、ソファーから立ち上がり満面の笑みを浮かべている。
「おひさしぶりです」
レーヌは泣きじゃくりながら2人の元に近寄り声を掛ける。
「ひさしぶりだな。体調はもう大丈夫なのか?」
父のマルクの言葉にレーヌは泣きながらこくんと頷く。
「どうぞお座りください」
タイミングを見計らい、セレストが声を掛けると、両親は並んで座り、レーヌは対面のソファーに腰掛けるとリゼットが紅茶をテーブルに並べる。
「私たちは、部屋から出ますので、ごゆっくりとお話ください」
セレストがそう話すとリゼットと共に一礼し部屋を出ていく。
「レーヌ、大変だったな」
マルクがぼそ、と呟くと母のクレールは青ざめた顔をして頷く。
「テオドール殿下が、レーヌが行方不明になったと知らせにきたときは心臓が止まるほどだった」
「テオドール殿下が?」
「ああ。レーヌを守れずに申し訳ない、と土下座しながら報告してくれたのだ」
その話を聞いて、レーヌは更に涙が零れてくる。
「レーヌが見つかった時も同じように土下座してから体調の報告をしてくれた」
「そうだったの……。ねぇ、テオドール殿下から両親には話していると聞いていたけれど、どこまで知っているの?」
レーヌは涙を零しながら疑問に思っていたことを聞いてみると、両親は顔を見合わせた後にマルクはふぅとため息を吐くと口を開く。
「そうだな。あの日、リュカ殿が最後の挨拶にきた時に打ち明けられた」
レーヌは鮮明にあの日を思い出す。
「リュカという名は偽名で、テオドールだと、ウイッグを取って説明してくれたのだ」
「その時はどこまで話したの?」
「ああ。婚姻を許可してほしい、だが、その前にイアサント宰相の犯罪を証明するために囮となってほしいと詳細な計画と共に話してくれた」
「そうなの……」
「ああ。もちろん私たちはレーヌの婚姻には賛成だが、かわいい娘を危険にさらすことはできないと何度も言っていたのだが、殿下は自分の命とひきかえてもレーヌを守ると言い張って、もし万が一にでも、レーヌを死なせるようなことがあれば、殿下が自害すると言い始めたのだ」
マルクはため息をつきながら話しているが、レーヌは左手首につけているブレスレットにそっと右手をのせる。
「そして、一つの約束をした。それは、レーヌが婚姻を拒否するのなら婚約を解消してもらうこと。それを条件にして今回許可したのだ」
マルクの話にレーヌは思い当たるところがあった。
「私、テオドール殿下から、プロポーズを受けましたが、返事はいつでも、と言われたのです」
レーヌの言葉にマルクは目を丸くして驚いている。
「私はその時、王妃としての自信がないから、と保留にしてもらっています」
「……王妃となってしまえば、危険なことなどたくさんあるだろう。よく考えて結論を出してほしい。私達の願いはレーヌの幸せだけなのだ」
マルクの言葉にレーヌはハッとする。
(私はテオドール殿下の隣に立てる器ではない、と思って保留にしたけど、テオドール殿下は王妃という立場の危険性を知っているから、そこも考えて、答えを出してほしいから、急かさなかったのかしら)
その時ドアをノックする音が聞こえて、レーヌはドアに視線を向けると小さく開いた隙間から侍女長のエリーズが顔をのぞかせた。
「レーヌ様、今よろしいでしょうか?」
「ええ。どうぞ」
「それでは」
エリーズはそう言ったが、一旦ドアを閉めるが、すぐにドアを開けると部屋に入ってくる。
「本日より、レーヌ様の侍女として新しく配属させることが決まりました者を連れてまいりました」
エリーズの言葉にレーヌは聞いたことのない話なので首を傾げた。
「入りなさい」
エリーズの凛とした声に部屋の中に入ってきた人間にレーヌは再び驚き涙を零す。
「今日から配属となりました、アラベルと申します」
公爵家でレーヌを支えてくれた、アラベルがそこに立っていた。
「レーヌ様、本日からまたお仕えさせて頂きます」
「アラベル、またよろしくね」
アラベルは笑顔で頷くと、レーヌは涙を零しながらアラベルに抱きついた。




