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29.リアムから事件の報告

 レーヌと一緒に雪だるまを作って楽しい気持ちで執務室に戻ってきたテオドールを待ち受けていたのはリアムだった。


「おかえりなさいませ、テオドール殿下。レーヌ嬢とよい時間を過ごせましたか?」


 リアムはこれ以上ないくらいのいい笑顔で執務室の入口でテオドールを迎えながら話しかけてくる。


「……仕事放り投げて遊んで悪かった」


 テオドールは怒られる前に素直に謝ってから執務室に入る。


「いいのですよ。レーヌ嬢との時間は大事にしてください」


 リアムはご機嫌な声で話していて、テオドールは首を傾げながら椅子に座る。


「リアム、なぜそんなに機嫌がいいんだ?」


 思わず、そう尋ねてしまった。


「そう見えますか?」


 なんかこれ以上触れたらダメな気がしてきたので、テオドールは話題を変える。


「そういえばリアムがなぜ、ここにいるんだ?」


 執務机の書類を手に取りながらリアムに尋ねると、目の前に立つ。


「イアサント宰相の件ですが、報告書が上がってきました」


 一転、表情を引き締め、手に持っていた書類をテオドールに渡す。

 テオドールはリアムから書類を受け取ると目を通し始める。


「イアサント元宰相は、レーヌ嬢を監禁したあの部屋に潜ませた間諜に全て聞かれていると思い、素直に供述をしました」


「そうか」


「はい。その後にイアサント侯爵家を家探しして、証拠を確保するために捜索したところ、魔物を呼ぶ黒い本と毒薬を作るために参考にした本、あとおまけで地下の牢にいれられているエドメを発見し、保護しました」


 エドメを確保した、という報告をテオドールは受けていたが、詳細は初めて知った。


「エドメはかなり衰弱しておりましたが、医師の手当と警護団の魔法部隊の治癒魔法で回復させることに成功し、問い詰めました」


 そこまで話を聞くとテオドールは書類から顔を上げ、リアムを真っ直ぐに見つめる。


「……リアム、1点質問していいか?」


「警護団のことですよね?」


「ああ。レーヌをひどい目に合わせたイアサントの手先なのに、みんな協力したのか?」


「ええ。手助けしてほしい、と言った時に処罰を受けさせるため、と理由を説明したところ、納得していました」


 リアムはにやりと笑みを浮かべたが、すぐに表情を引き締めると話しを続けた。


「エドメはどうやら、アデール嬢に恋をしたようですね。テオドール殿下と婚約を結ぶ前によく話しかけていて、結婚をちらつかされてつい、と話していました」


「ん? まて。それならアデール嬢が僕と婚約したと聞いた時、どうしたんだ?」


「はい。私も疑問に思ったので聞き返したところ、テオドール殿下との間に世継ぎが生まれたのなら、時期を見てテオドール殿下を殺害したのち、ほとぼりが冷めたら結婚すると。それまでは父親の権力で出世させるからと言われて我慢したと話していました」


「……それだけで待てるなんて、エドメはおめでたいんだな」


「まあ、そこは、男と女ですから、ね」


 テオドールは心底呆れた声を出したがリアムは苦笑いを浮かべて口ごもる。


「では、今回の主犯格はイアサント元宰相になるのか?」


「ええ。アデール嬢がテオドール殿下に恋をしたと感じたイアサント元宰相は娘が殿下の子を産めば外戚となり、より王城の中で権力を握れると話していました」


 テオドールは頬杖をつきながらリアムの話に耳を傾ける。


「すこしずつ計画を進めた時に、テオドール殿下がレーヌ嬢と婚約したいという話を聞きつけ、慌てたイアサント元宰相は誰かの弱みをにぎれないか探っていたところ、偶然にもお忍びで外出するアンリ陛下を見つけ、後をつけたところ、1軒の宿屋に入るところを目撃します。それから町中の情報屋を雇い、詳しく調べさせたところ、アンリ陛下の不貞が発覚します」


「……それが、アデール嬢と無理やり婚約させられた理由か」


「その通りです」


 テオドールは大きくため息を吐いて、執務机に突っ伏す。


「ぜったいに許さん」


 テオドールの心の中に黒いなにかがうごめき始める。


 リアムの咳払いが聞こえてきて、テオドールは顔を上げると再び頬杖をついて話を聞く。


「やっと婚約できたところで、次に立ちはだかったのが、アデール嬢の男性関係だったそうです。その中でしつこく言い寄ってきた男性はジキタリスの葉から抽出したエキスとアルコールを混ぜると紅茶に垂らして飲ませ、殺害したと供述しました」


「それはアデール嬢がやったことなのか?」


「はい。アデール嬢も認めています」


 リアムの肯定にテオドールは背筋が凍る思いだった。


「子を成したあとは、同じくジキタリスで殺されていたんだろうな」


「それは間違いなく。ですから、レーヌ嬢が偽婚約者の役目を引きうけてくれなかったら、テオドール殿下の命は数年だったかもしれませんね」


 リアムが目を伏せて深く息をはく。


「そうだな。レーヌには助けてもらってばかりだ。これからは僕が彼女をいつでも助けられるようにそばで見守りたい」


 テオドールは改めて心にそう刻みこむ。


「そういえば、魔物の件は今回のレーヌが連れ去られた件とどのような関係があるんだ?」


「はい。警護団の慰労会で婚約破棄されたとアデール嬢から聞かされたイアサント宰相は魔物と契約を結び、好きな時に好きな場所に魔物を出現させることに成功します。レーヌ嬢の様子を探るのはエドメの役割で、警護団に参加するとどのような状態になるか把握していたと供述しています」


「なるほど。毎日の魔物討伐に出動させ、疲労困憊でぎりぎりの状態まで追い込み、判断力が低下したところでエドメが僕の名前を使って、監禁した訳か」


「はい。まずイアサント元宰相は婚約辞退を提案したのですが、アデール嬢がレーヌ嬢を毒殺しないと気が済まないと激高して、あやうく、というところでした」


「ぎりぎりで助けられたんだな」


 テオドールはその時の状況を思い出し、心がひやっとした。


「この件はレーヌ嬢にお話しますか?」


「今ではなく、少し時間を置いてから話そう。まだ向き合えるだけの余裕はないだろう」


「そうですね。今頃、レーヌ嬢はご両親とアラベルと楽しい時間をすごしているでしょうか?」


「3週間ぶりくらいだろう。緊張した日々を過ごしてきたんだから、ゆっくりと楽しい時間をすごしてほしい。ああ、そうだ、アストリ夫妻に客間は用意できているな?」


「はい。レーヌ嬢の部屋の近くに用意しましたし、夜の食事もご両親と食べて頂けるように準備しています」


「ありがとう。明日の朝、僕は遠慮したほうがよさそうだな」


 テオドールは寂しい気持ちになるが、両親と過ごす時間を優先させたいと思った。


「寂しいと思いますが、明日だけはご両親にお譲りください」


 リアムは苦笑いしながら、念押しする。


「報告は以上になります」


 リアムは一礼をすると執務室を出て行く。

 テオドールはその後ろ姿を見送りながら、ふぅとため息をついた。

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