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27.朝食会再開しました!

 テオドールとの朝食会が再開される日。


 いつもより早く起こされたレーヌは湯あみから1日が始まった。


「今日からテオドール殿下と朝食を再開されると聞きました」


 湯あみしながら、一番若い侍女のリゼットが髪を梳きながら鼻息荒くレーヌに話しかける。


「目いっぱい着飾って、テオドール殿下に褒めて頂きましょう!」


 相変わらず鼻息荒く、そう言い切るリゼットにレーヌは苦笑いしか出てこなかった。


「ひさしぶりの湯あみは気持ちいいです」


 話題を変えようとレーヌは口を開く。実際全身のいたるところにアザがあったので、入浴しない方がいいだろうと医者から止められていたので1週間ぶりになる。


「お湯の温度もちょうどいいです」


「ありがとうございます。眠らないでくださいね」


「はい」


 レーヌは笑いながら短く返事をして、リゼットに手入れを委ねた。

 

 湯あみを終えるとレーヌをソファーに座らせると後の世話をセレストに任せ、リゼットはクローゼットに入っていく。


 リゼットの気合の入った後ろ姿をみたセレストはレーヌの右腕に保湿用のクリームを塗りながら眉を顰め、口を開く。


「レーヌ様、リゼットのこと申し訳ありません」


「なぜですか」


 セレストの謝罪の意味がわからず、レーヌは首を傾げる。


「辛いことを思い出させてしまうのですが」


 セレストは重々しく口を開くと、レーヌの左腕を優しくマッサージしながら保湿クリームを塗っていく。


「レーヌ様が、その、エドメ様と一緒に行かれた時、リゼットがそばにいたのです」


 微かに薔薇の香りがするクリームを手に取りながらセレストは俯いたまま話を続ける。


「レーヌ様が行方不明になったと聞いた時、リゼットは1日中泣いておりまして、食事もあまりとらずに一心不乱に祈っていたのです」


 その話を聞いたレーヌはクローゼットに視線を向ける。


「見つかったと聞いた時は倒れる寸前でした。ですから今はレーヌ様のお役に立ちたいと空回りしているところだと思います」


 レーヌの腕に保湿クリームを塗り終わるとセレストは立ち上がった。


「レーヌ様、今回は本当に申し訳ありませんでした」


 セレストの謝罪の言葉にレーヌは驚いて、頭が真っ白になる。


「いえ、でも、今回は予測不可能のことでしたし、仕方のないことだと思っていますから」


 レーヌは顔を上げてセレストの顔を見上げながら優しく話す。


「ありがとうございます。私達はこれからもレーヌ様のそばで支えてまいります」


「ありがとう」


 レーヌはその言葉にしっかりと頷くとセレストはほっと安堵したような表情を浮かべていた。


「レーヌ様、今日の装い、お持ちしました」


 リゼットが1枚のワンピースを手に持ってクローゼットから出てくる。


「冬の朝なので、銀色のシンプルなワンピースをお持ちしました」


「それでは、急ぎお召替えいたしましょう」


 セレストはいつものきりっとした表情にもどると、てきぱきとリゼットに指示を出し始める。

 レーヌは2人に手伝ってもらいワンピースに着替えると、リゼットが赤いベルベット地を差し出す。

 その上には、リュカ、もといテオドールから贈られた、この世に2つしかないブレスレットが置かれていて、それを手に取るとレーヌは左手首に着ける。


 支度が終わると、ソファーに腰掛けてテオドールがくるのを待つことにした。


(リュカがテオドール殿下かぁ……)


 レーヌは左手首のブレスレットを見ながら、リュカがテオドールであると告げられた時のことを思い返している。


(テオドール殿下のこと、いつかリュカ以上に好きになれるのかな?)


 リュカは貴族だから婚姻したとしても何も不安はなかった。けど、テオドールともし婚姻してしまえば将来の国妃となる。


 しばらく受けていた妃教育を振り返ると、その責任は重く、また、それを受け入れられるだけの覚悟も決まっていない。


 だから、あの日、プロポーズされてしまい戸惑いと不安が入り混じってすぐに返事はできなかった。


 テオドールが返事はいつでも、と言ってくれているが、答えが出そうで出なくてレーヌは考えながらため息をついてしまう。


 その時、ドアのノックが聞こえ、リゼットが対応するためにドア越しに対応を始める。


 その様子をぼんやりと見ていると、リゼットがこちらを向き、テオドールが来たことを告げた。


 レーヌはソファーから立ち上がり、ドアに向かって歩いていく。


 ドアの近くでセレストとリゼットに身だしなみを最終確認してもらった後、ドアを開けてもらった。


「おはようございます、レーヌ嬢」


 朝にふさわしい爽やかな声色の挨拶が聞こえてきて、レーヌは膝をおり、頭を下げてテオドールを迎える。


「おもてをあげてレーヌ嬢」


 レーヌは頭を上げてテオドールを見て驚く。


「テオドール殿下……」


 レーヌの上ずった声にテオドールは微笑みを浮かべる。


「はい、最初にプロポーズした時のジャケットを着てきました」


 そう、リュカが領地に帰ると言って、アングレカムとアスターの花束を持ってきた日のグレーのジャケットをテオドールは羽織っていた。


「貴方を悲しませてしまうかもしれないけど、私がリュカであるのを知ってほしくて」


 レーヌはそのジャケットを見てはっと息をのむ。


「でも、これからは貴方のそばにいることを伝えたかったのです」


 レーヌは頷きながら、部屋の中に招き入れた。


 レーヌとテオドールが窓際のテーブルに移動し、椅子に座ると侍女たちが静かに食事を運びテーブルに並べていく。


「では、いただきましょうか?」


 食事が並び終わり、侍女が一礼して後ろに下がるとテオドールが口を開き食事の挨拶を始める。レーヌは静かに頷くと、ひさしぶりの朝食会が始まった。


「こうやって、また食事ができて嬉しいです」


 テオドールはカトラリーを使いながら笑顔になり弾む声で話しているが、ふと表情を引き締めてレーヌを見つめる。


「レーヌ嬢、その、僕の気持ちは話したのですが、その、レーヌ嬢が今思っている気持ちを聞きたいなと思っていまして……」


 テオドールが上目遣いに見て、どもりながら聞いてくる。


 その問いにレーヌは手に持っていたフォークを皿の上に置き、左手のブレスレットをちらっと見た後、テオドールに視線を向ける。


「そうですね……リュカと打ち明けて頂いてからずっと考えているのですが……リュカとテオドール殿下が同じ人物なら気持ちは変わらず、好きなのですが……」


 テオドールは歓喜と不安の色を浮かべ、レーヌの言葉の続きを待っている。


「婚姻するとなった場合なのですが……私はまだ、将来の国妃としての覚悟ができていない、と思うのです」


 テオドールは頷くと口を開く。


「そうですね。僕は王族として生まれたため、小さな頃から教育を受け、環境もあり、将来は国王になることへの覚悟は自然とできましたが、レーヌ嬢はそうではないですよね? 不安なこともたくさんあるのは当然のことだと思います。それなら、不安に思うことを僕に話してください。ひとつひとつ、一緒に解決していきませんか?」


 テオドールの言葉にレーヌは目を丸くする。


「今までは貴方が私を支えてくれました。今度は私が貴方を支えたいのです」


 テオドールの優しい声色にレーヌは自然と涙が零れる。


「あの、大丈夫ですか?」


 レーヌの涙を見て驚いたテオドールはポケットからハンカチを出すと身を乗り出し、そっと涙をぬぐう。


「あっ、すみません。ありがとうございます。あの、今の言葉を聞いて、前向きに考えようと思いました」


 レーヌは胸の中に広がる温かな思いを感じながら微笑みを浮かべ、テオドールに伝えると無邪気な笑みを浮かべる。


「そうだ、毎日、日記を交換しませんか?」


 その言葉にレーヌは首を傾げてしまう。


「毎朝、できれば食事をしたいと思っているのですが、できない日もあるかもしれません。その時、レーヌ嬢が悩みを抱えていたらすぐに聞くことができません。それなら、日記に書いてもらえばすぐに知ることができます。どうでしょうか?」


 テオドールの提案に驚きつつも、レーヌに寄り添うとしてくれるのを感じて嬉しい気持ちが胸の中にひろがる。


「ありがとうございます。はい、では交換日記をしましょうか?」


「それでは、すぐに準備をして、明日ノートを持ってきますね」


 嬉しそうに話すテオドールに、レーヌは微笑みを返した。

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