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26.警護団が国の所属になります!

 レーヌがイアサント親子から解放されて、1週間が経過しようとしていた。


 朝食後、医者の診断を受けるため窓際の椅子に腰かけて待っていると、ドアをノックする音が聞こえ、初老の医者が部屋に入ってくる。


 レーヌは医師を迎えるため、椅子から立ち上がり、一礼するとベッドに向かいそのまま腰掛けると、その近くに侍女が椅子を用意し医師が腰掛けた。


 全身にできた内出血の痕を確認してもらうと、だいぶ色も薄くなってきていて包帯を外しても大丈夫と診断される。


「食事も睡眠もしっかりととられていると報告を受けています。この生活を崩さないように気をつけて過ごしてください」


 初老の医師はそう言うとレーヌを優しく見つめ微笑む。


「ありがとうございます」


「お大事に」


 医師はそれだけいうと、椅子から立ち上がり頭を下げて部屋を出て行く。


 レーヌは医師を見送ると、ふぅ、とため息をつく。


「レーヌ様、お疲れ様でした。今日は気分転換に散歩に行きませんか?」


 セレストが微笑みながら、レーヌに一つの提案をする。


「そうですね……。ずっと部屋の中にいましたから、散歩はいいですね」


 レーヌがうきうきとした気持ちでその提案を受けるとセレストは頷く。


「では、お召替えして、外に参りましょう」


「はい!」


 レーヌが散歩に出発しようとしていた時、テオドールは執務室に朝早くから籠っていた。


 今日の午前、レーヌに偽婚約の話をした時に約束した、警護団を国の所属とすることを決める会議がある。


 その会議でなんとしても決議してもらおうと入念に準備していた。


 警護団を国の所属とすることはレーヌ達だけではなくテオドールの願いでもある。


 魔物退治は危険と隣り合わせで、いつ死者が出てもおかしくない。

 国や町を守って亡くなった者たちに国王から名誉を与えないというのはおかしなことだと思っているし、魔物からの攻撃でレーヌのように大けがを負ってしまった時に、最高の治療を受けさせることは国として当然のことだと思う。


 現状は各町で市民や貴族からの寄付金で賄っているが、国の所属となった場合、今まで以上に手厚く活動を支援できるはずだ。

 

 テオドールはそう思い、何度も稟議書を作り、その度にイアサント宰相と宰相に近い貴族達は支援金が出せない、とか、人員をさけない、など何かしら文句をつけて反対をしていた。


 イアサント宰相が捕縛された今なら反対意見はそこまで大きくないだろう、と思っている。

 

 準備の合間に軽食をすませると、会議に挑む。


 ここで、何度目かの警護団を国の所属にするようにと諮る。


 今回の反対意見のほとんどが活動資金についてなのだが、財務と確認し、今の税収入で十分に賄えると連絡があり、細かな明細を書いて届けてくれていて、その書類を見せると反対意見はなくなり、国の所属となることがあっさりと決定された。


 その日の午後、警護団が国の所属となったことをレーヌに報告するため、侍女長エリーズを通してテオドールの執務室に呼んでもらうことにした。


 到着を待っている間に今日処理する予定の書類に目を通しているとドアの近くにいるリアムが机の前に立つ気配を感じる。


「殿下、恐れながら」


「許す」


 テオドールは書類に視線を落としたまま返事をすると、リアムはその言葉に一礼してから口を開く。


「それでは。レーヌ嬢とのことはどうなっているのですか?」


 テオドールはリアムの話に書類から顔を上げると真っ直ぐにリアムを見る。


「プロポーズをした」


 テオドールは手元に持っていた書類をぎゅ、と握りリアムにはっきりと伝えた。

 リアムは嬉しそうな表情をしながらテオドールを見ている。


「だが、返事はまだもらっていない」


 その言葉にリアムは唖然としてテオドールを見ている。


「彼女はリュカに心を寄せているのであって、僕ではない」


 テオドールはリアムから視線を逸らし、手元を見つめる。


「だから、これから、リュカが僕であると、意識してもらうところから始めないといけないんだ」


 リアムがなぜか肩を落としながら口を開く。


「リュカのことを伝えたのですね」


 テオドールは無言で頷く。


「リアム、これから彼女との仲が深まるように手伝ってくれないだろうか?」


 テオドールは顔を上げリアムを見つめた。


「なんでしょうか?」


 リアムが柔らかい口調でテオドールに問いかける。


「1つは、前のように彼女と朝食を一緒にしたいこと。2つ目は城外でデートをしたいと思っているんだけど……」


 テオドールがここ数日考えていることをリアムに告げる。


「朝食の件は、レーヌ嬢の準備が整ってから部屋に行くので、と伝えてみてはどうでしょうか?」


 テオドールは素直に頷く。


「2つ目の城外デートですが、あらかじめどこに行きたいか教えてください。その上で騎士達を配備したりしますので、今すぐではなく、時間をください」


「わかった」


 リアムから反対されずにほっとしながらテオドールは頷く。


「それと、先ほど侍女長のエリーズに聞いたのですが、本日よりレーヌ嬢は王城の中を散歩するようになったとのことです」


 リアムの話の意図がわからずテオドールは首を傾げる。


「城外デートをする前に王城の中をデートするのもいいのではないでしょうか?」


「そうか、彼女が妃としてそばにいてくれるなら、王城の案内も必要だよな」


 テオドールはリアムの提案に心惹かれ、すぐに頷く。


「執務の合間に時間を作ってもらうようにしよう」


 嬉しさで顔がほころぶのを感じながら、どこを案内しようか考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


 すぐにリアムがドアの近くに戻り、誰何したところレーヌだということで、すぐに部屋に招き入れる。


 レーヌは部屋に入ると、軽く膝を折り、頭を下げた。


「よく来てくれた。こちらに」


 テオドールが椅子から立ち上がり声を掛けると、頭を上げ、リアムの案内で部屋の中央に置いてあるソファーに座ると、真向かいにテオドールが座り、その後ろにリアムが立つ。


 話しを始める前にテオドールはレーヌの顔色を見る。

 目覚めてから6日経ち、顔色も戻り、やつれていた頬も少しふっくらとしてきたような感じを受ける。


 テオドールはその姿にほっとすると表情を引き締めた。


「体調はどうだろうか?」


 その質問にレーヌは笑みを浮かべる。


「ご心配頂きありがとうございます。かなりよくなりました」


 数日前まではかすれ気味の声だったが、今日はいつもの声に戻っていた。


「安心しました。その、今日呼び出したのは警護団についてです」


 レーヌがその言葉に表情を引き締めソファーに座ったまま背筋を伸ばす。


「午前中の会議に諮りまして、無事に警護団が国の所属となることが承認されました」


 テオドールが落ち着いた声で伝えると、レーヌは満面の笑みを見せる。


「これから、詳細を詰めていく段階になりますが、まずはユルバンの警護団から国の所属となり、運営にあたっての問題点を洗い出します。問題点が解決されれば他の町の警護団も順に国の所属となります」


 テオドールの説明にレーヌはしっかりと頷く。


「これについては、その、レーヌ嬢も手伝って頂きたいと思っております」


 テオドールの言葉にレーヌは怪訝な表情を浮かべる。


「手伝ってほしいのは、ユルバンの警護団と王城側の人間の間に立って意見の調整をお願いしたいのです。レーヌ嬢は警護団に長らく所属していましたから、どういった点ならゆずれるのか、ボーダーラインを決めてほしいのです」


 テオドールの説明を聞いてレーヌは俯いてしばらく考えたあと、顔を上げる。


「わかりました。その役目引き受けさせて頂きます」


 レーヌの決意にテオドールは感謝しつつもほっとした気持ちになった。


「引き受けて頂きありがとうございます。また面倒なことに巻き込みますがよろしくお願いします」


「はい」


 テオドールの言葉にレーヌは少し笑い、頷いた。


「それと、お願いがありまして……」


 テオドールが遠慮がちに切り出すとレーヌは首を傾げる。


「また、一緒に朝食をしてもいいでしょうか?」


 レーヌの顔が赤くなるのを見たテオドールは慌てて続きを話す。


「いえ、この前のように無茶なことはしません。朝の準備が整った後に呼んでいただければ……」


「ああ、そうなんですね。それなら、はい、大丈夫です」


 レーヌは顔を赤くしたまま俯きながら返事をする。


 テオドールは嬉しさを隠しきれずに食い気味にレーヌに問いかけた。


「ありがとうございます! 明日からでもいいですか?」


「あ、はい、大丈夫です」


 レーヌが小さく頷くのを確認するとテオドールは続けて話す。


「あと、それともう一つお願いがありまして……」


 テオドールは浮ついた気持ちを抑えるように呼吸を整えてから口を開く。


「僕とデートをしていただけませんか?」


「デートですか?」


 レーヌが顔を上げるとあきらかに戸惑いの色が浮かんでいる。テオドールは思いを伝えるために言葉を紡ぐ。


「はい。リュカではなく、僕を好きになってほしいので、2人で過ごす時間を作りたいと思っています」


 テオドールの思いをレーヌに知ってほしくて、力を込めて懇願する。


 レーヌは耳まで顔を赤くしたまま、膝に置いた手でスカートを握ったり開いたりしているが、返事を待っているテオドールも心臓がドキドキとうるさく聞こえる。


 しばらくしてからレーヌはスカート強くぎゅ、と握るとテオドールに顔を向けた。


「デート、お受けいたします」


 レーヌは硬い声でぎこちない笑顔を浮かべながら頷く。


 テオドールはレーヌの様子に戸惑いながらも心の中で喜びを爆発させた。

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