25.テオドールの告白
テオドールの願いが届いたのか、レーヌは翌日に目を覚ました。
侍女長エリーズから、朝の執務中に報告を受けてテオドールはほっとしたが、罪悪感もあり、すぐに会いたいと言えなかった。
ただ、謝罪だけは最初に言いたくて、いつも送っているアングレカムとアスター、それとカードに謝罪文を書いて、侍女長のエリーズに託す。
あれだけひどい目にあったのだから、テオドールに会うことを拒否するかもしれない。
それは自業自得のことだからと理解はしているが、それでも受け入れてほしい、という相反する思いがテオドールの心に渦巻いている。
もし、花を受け取ってくれなかったら……。その時は……レーヌを解放しよう。
それだけを心に決めて、エリーズに花を託した。
託した後は答えを早く知りたい気持ちと、聞きたくない気持ちが入り混じり、どうしても執務に集中できずにいる。
ドアをノックする音にびくっとして、エリーズではないように……と祈る気持ちで執務を行っていた。
執務が終わり、今日処理した書類に間違いがないか確認しつつ、明日処理する書類を準備しているとドアをノックする音が聞こえてくる。
意識しないように、書類に目を通しているとリアムに声を掛けられ顔を上げた。
「これを、レーヌ嬢から、とのことです」
テオドールはリアムの言葉に重い気持ちになりながら、恐る恐る手を伸ばし、白い封筒を受け取る。
「レーヌ嬢から、遅くなりすみません、と言伝もありました」
「そうか……」
テオドールはため息をつきながら、封のしていない白い封筒の中身を出せずにいて持て余す。
「私はこのあと、警護団のメンバーに会いに行ってきます」
リアムはそうテオドールに告げると部屋から出て行く。
1人きりになった執務室で封筒を見つめ続け、やっと決意をかため白い封筒から手紙を取り出し、目を通した。
翌日、テオドールは覚悟を決め、いつも送っている花2輪を持ってリアムと一緒にレーヌの部屋へと向かった。
レーヌの部屋を訪ねたテオドールはしばらく2人にしてほしいとエステルとセレスト、リアムに伝えると3人はそれを了承し、部屋の中へはテオドールだけが入っていく。
レーヌはベッドの上で上半身を起こし、固い表情のままこちらを見ているのに気づき、思わず手に持っていた花をぎゅ、と握った。
ベッドに近づくたびに緊張が高まるのを感じ心臓の音がうるさく聞こえてくる。
レーヌの元にたどり着いたテオドールはふぅ、と息を吐くと心を決めて口を開く。
「レーヌ嬢、この度は申し訳なかった」
テオドールは手に持っていた花を渡しながら謝る。
レーヌは花を受け取り、表情を少し和らげる。
「いえ。イアサント宰相が捕まったと聞いて安心しました」
レーヌの声はまだかすれ気味で縄で結わかれていた両手首には包帯が巻かれたままで痛々しい。
「体調はどうだろうか?」
テオドールは恐る恐る聞いてみるが、レーヌは微笑みを浮かべた。
「もう、だいぶ。随分と眠っていたようで、体の疲れはとれました」
まだまだかすれている声だが、明るさも感じてテオドールはほっとする。
テオドールは一つ息を吐くとレーヌの顔を見てから口を開く。
「……レーヌ嬢にはお詫びをしないといけないことがある」
テオドールの話にレーヌはじっと耳を傾けている。
「今回は危険な目に合わせてしまい、本当に申し訳ない。イアサント宰相の犯罪を証明するために、貴方を助けることをしなかったのです」
テオドールはレーヌから視線をそらし、俯きながら見つけたあとにわざと放置したことを説明した。
説明を聞いたレーヌは何も言わない。しばらく沈黙が続いたがレーヌが最初に話し始める。
「それは仕方のないことです。それによってイアサント宰相を捕まえることができたのですからお役にたててうれしいです」
その言葉に、レーヌの顔を見たテオドールは昔のことを思い出した。
「貴方はあの日も私を庇ってくれましたね」
そう言うと左の袖をまくり、ブレスレットをレーヌに見せると、驚きの表情を浮かべる。
「……見間違えじゃなかった」
レーヌが呆然と呟きテオドールの左手首についているブレスレットをじっと見つめた。
「なぜ、テオドール殿下がこのブレスレットを持っているのですか?」
レーヌが身体をこちらに向けて問い詰める。テオドールは拳をぎゅ、と握ると話し始める。
「私は王族の中では珍しく、魔法が使えました。ユルバンの警護団については話を聞いていたので、自分の魔法で町の人を救いたいと思い、両親を説得し、リアムと一緒に入団すること、本名は名乗らないという条件で入団を許可してもらいました。入団して最初の討伐はあの日、貴方を怪我させてしまった時です」
突然の告白にレーヌは目を丸くし驚きの表情を浮かべながらテオドールを見上げている。
「怪我をさせてしまった貴方が心配で、屋敷に通い、話しているうちに、人を思う優しい心とどんな困難にもくじけない強さがある貴方に心惹かれ、一緒にこの国を守っていけたら、と思い始めたのです」
テオドールはしっかりとレーヌの目を見て伝える。
「私の両親には貴方と婚約したいと伝え、了承を貰っていました。そこに突然、アデール嬢との婚約が持ち上がりました。私は貴方と一緒にいたい、そのためにどうしたらいいのか、リアムと一緒に考えて、今回の計画を立てました。けど、あそこまでひどい目に合うとは予想しておりませんでした」
テオドールはレーヌから視線を外し俯いてしまう。
「あの、殿下が、リュカなのですか……?」
レーヌが絞り出すような声でテオドールに尋ねるが、それに頷く。
「で、でも、髪色が違いますよね……?」
「リュカでいる時は黒い髪のウイッグを着けていました。そして、一番の証拠はお互いの左手首にあるブレスレットと刻印しているイニシャルです」
イニシャル、と聞いてレーヌははっとした表情を見せる。
「リュカはあくまで架空の人物です。貴方を思っているのはテオドールだと知ってほしくてTを刻印したのです」
テオドールはレーヌを見つめ話し続ける。
「貴方がこの部屋でブレスレットを落とし、リュカのことを思い、泣き出してしまった時、どうやって自分がリュカであるかを知ってもらえるか考えました。それが、毎日送った花なのです」
それを聞いたレーヌは急に頬を膨らませ、上目遣いでテオドールを見る。
「私はあの花を見るたびに、リュカに会えないと気づき辛かったです」
その言葉にテオドールは慌てる。
「それは……申し訳ないことをしました」
謝るテオドールを見るとレーヌはくす、と笑う。
「でもあの日がきっかけで、リュカへの思いにはっきりと気づくことができました」
テオドールは背筋を伸ばし、こほんとわざとらしく咳払いする。
「貴方はリュカに心を寄せていますよね?」
テオドールの言葉にレーヌは耳まで赤くした。
「同じ人物である、僕にも心を寄せてくれていると思ってもいいですか?」
テオドールは一つ大きく息をつくとレーヌをじっと見つめた。
「レーヌ嬢、私と結婚してくれませんか?」




