21.テオドールの呼びだし
ひさしぶりの魔物退治から7日が経とうとしていた。
あれから、毎日のように警護団から呼び出しを受けて出動している日々が続いている。
レーヌが日に日に衰えていく様子をみていたリアムは何度も出動自粛を求めているが、厩舎の場所を知っているため、愛馬オレリーに乗って出動を続けていた。
それを見たリアムは止めても無駄だと思ったのか、怒りながらも参加するのを黙認している。
とはいえ、警護団だけに時間を取るわけにはいかない。
(イアサント宰相の件はどうなっているのかしら?)
レーヌは時折思い出しているが、証拠をつかんだという連絡もないため、まだまだ偽婚約者としてこの王城に滞在することになるのだろう。
滞在する時間が長くなれば、社交や外交の場に呼ばれる確率も高くなる。
もし、その場に立つときがあれば、招待客の前では第一王子の婚約者という立場にふさわしい振る舞いをしなければ、影であざ笑われ、レーヌの評判だけではなく、テオドール殿下の評判さえ落としてしまう。
それだけは避けたかったレーヌは毎日の勉強と毎日の魔物討伐で、肉体的にぎりぎりのところで踏みとどまりながら、日々過ごしていた。
毎朝、侍女たちは声を掛けることなくヨランドがくるまで寝かせてもらうことが続いていたが、魔物討伐から7日目の朝、ひさしぶりに早くに起こされる。
「レーヌ様、体調の悪い時に申し訳ありません」
幼い女性の声でレーヌは目を開ける。
「リゼット……?」
レーヌはかすれた声を振り絞りながら、侍女の名前を呼ぶ。
「はい、リゼットでございます」
目の前にいるリゼットに視線を合わせると、心配そうにレーヌを見る顔が見えた。
「テオドール殿下の側近のエドメ様から伝言があり、話しがあるのですぐに執務室にきてほしい、ということです」
「テオドール様から? 了解しました。すぐに準備してください」
レーヌはそれだけ言うと、ベッドの上で起き上がろうとしたが、体に力が入らない。
その様子をみたリゼットは急いでレーヌの体に手を入れると抱きかかえるようにして上半身を起こした。
「ありがとう」
レーヌの謝辞にリゼットはわずかに首を横にふる。
「それでは準備をしてきます。レーヌ様はここで待っていてください」
リゼットはレーヌのかすれた声に痛々しい表情を浮かべていたが、すぐに桶にお湯を入れるとタオルと共にレーヌに渡す。
レーヌがなんとか顔を洗い、タオルで拭いたのを確認したリゼットはクローゼットに入っていくと1枚のワンピースを手に持ちベッドに近づく。
リゼットはワンピースをベッドの上に広げるとレーヌからタオルを受け取り、桶をサイドテーブルに乗せた。
そのあと、レーヌが立ち上がりやすいように掛け布団をまくると、ベッドの縁に腰を掛けさせると、手早くワンピースに着替えさせると髪を梳き、身なりを整える。
すべての準備が終わるとレーヌはリゼットの手を借りてドアに向かう。
リゼットがレーヌを支えながらドアを開けると茶色の髪を後ろに結び、文官の制服を身にまとっている人物が立っていた。
「レーヌ様、朝早くから申し訳ありません。テオドール殿下の側近で文官をしています、エドメと申します。テオドール殿下がこの時間しかないので至急呼んでほしいとのことで伺わせて頂きました」
エドメは困った顔をしているが、口元は少し笑みを浮かべていた。
レーヌは気力を振り絞ると、背筋を伸ばし、意識して笑顔を作る。
「挨拶をありがとう、エドメ。まいりましょう」
エドメはレーヌのかすれた声に眉を顰めたが、すぐに表情をもとに戻す。
リゼットはレーヌを支えるために一緒に行こうとしたが、エドメに止められる。
「リゼット、先ほど侍女長が探しておりました。早めに行かれたほうがよいのではないでしょうか?」
「侍女長が?」
リゼットは怪訝そうな声で確認しているが、エドメは頷く。
「そうですか……了解しました」
レーヌはリゼットに頷くと体全体に力を入れてその場に立つ。
「エドメ、案内をお願いします」
レーヌの言葉にエドメは頷くとリゼットに会釈をして歩き始める。
その後をレーヌは全身に力を入れながらゆっくりとついて行った。




