20.今日も魔物退治です
すっきりとしないまま、魔物退治を終えた翌朝。
セレストがいつものように優しい声で挨拶をしながらベッドに向かってくる。
レーヌはセレストの声で目を開けたものの、昨日の討伐で魔法を使ったこともあり、全身に力が入らず倦怠感も覚えていた。
なんとか上半身を起こし、ヘッドボードに寄りかかると、ふぅ、と息をはく。
セレストがその様子を見ながら、心配そうな表情でレーヌに声を掛ける。
「レーヌ様? 顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
不安そうな声のセレストにレーヌは気だるく頷く。
「ああ、すみません。大丈夫です」
返答した声も力がなく少しかすれ気味だったため、セレストは更に表情を曇らせた。
「お医者様をお呼びします」
セレストがドアに向かって歩き出していたので、止めようと思い慌てて口を開く。
「待って、医者を呼ぶほどではないの」
レーヌは声を振り絞りセレストを呼び止めた。
「魔法を使ったあとは、こういう症状があらわれます。横になっていれば収まるので心配しなくても大丈夫です」
振り返っているセレストに無理やり笑顔を作ってレーヌは説明をする。
「そうですか……?」
それでもセレストは表情を曇らせたまま。
「ええ。なので、朝食を食べずにヨランドがくるまで、眠らせてください」
「……わかりました。朝食は軽食に変更するようにしておきます。ゆっくりとお休みください」
セレストはしぶしぶという感じで頷いたのでレーヌは布団に潜り込む。
「それと、テオドール殿下からいつもの贈り物がありますのでメッセージはサイドテーブルに置き、花は花瓶に活けておきます」
心配そうな表情のセレストはレーヌの体に布団を掛けると、ベッドから離れる。
「ありがとう」
レーヌは横になりながらセレストにそう伝えるとすぐに眠りに落ちた。
誰かの声が聞こえてきて目を覚ます。
「レーヌ様、間もなくヨランド様が到着されますので、食事をお持ちしました」
セレストの心配そうな声にレーヌはゆっくりと上半身を起こす。
まだまだ、倦怠感は抜けていないが、ヨランドがくるのなら準備を始めないといけない。
レーヌはセレストの手を借りて、ベッドからおり、ソファーに座った。
エステルがクローゼットに入りこれから着替えるワンピースを選び始めるので、その間にセレストの用意してくれたサンドイッチを一口食べる。
サンドイッチを食べ終わるのを見計らい、エステルはクローゼットからワンピースを手に出てくる。
セレストとエステルの手を借りて着替え終わったところでドアをノックする音が部屋に響く。
ヨランドの到着だろう、と思ったレーヌは意識的に背筋を伸ばし、講師を迎え入れる。
「レーヌ様!?」
ドアを開けてレーヌの顔を見たヨランドは驚いた表情を浮かべたまま、立ち尽くしていた。
「ヨランド、驚かせてすみません。大丈夫ですので部屋に入ってください」
レーヌは声を高めに出し、そう言うと背筋を伸ばし足に力をいれると窓際のテーブルに向かい歩き始める。
セレストとエステル、ヨランドもレーヌの後をついて、窓際のテーブルへと向かった。
ヨランドが先に椅子に座るとレーヌも椅子に座る。ヨランドは心配そうな表情をレーヌにむけたままテーブルに本を開いていく。
「では、始めましょう」
ヨランドの話にレーヌは頷くと、テーブルに広がっている本に視線を落とした。
午前の勉強を終えたあと、午後に社交ダンスのレッスンがあるので、体調の回復を優先して、食事を断り、少し眠らせてもらう。
だが、思うように回復しないまま、午後の社交ダンスのレッスンが終わり、部屋に戻ってきた。
「レーヌ様」
部屋に戻りソファーに崩れるように座ったレーヌをセレストは心配そうに声を掛ける。
「あ、社交ダンスのレッスンで少し疲れただけです」
レーヌは無理やり笑顔を浮かべセレストに顔を向けた。
「それと申し訳ないのですが、すぐに眠りたいので、食事はいりませんし、湯あみは明日にしてもらえますか?」
レーヌの話にセレストが慌てて始める。
「せめて食事はおとりください。軽食を持ってまいります」
それだけ言うとセレストは足早に部屋を出て行った。
後に残ったエステルと顔を見合わせたが、その時に警護団の招集を告げるテレパシーが頭の中に響き始める。
テレパシーの送り主は今日の見張り番、シリカからで、場所は昨日と同じ、魔物も同じと連絡が入った。
「エステル、ごめんなさい、警護団の招集が掛かったので向かいます」
レーヌはソファーから立ち上がり、エステルに断わりを入れたあと警護団の洋服に着替えるためにクローゼットに向かう。
エステルの手を借りて着替え終えるとリアムにテレパシーで準備ができたことを伝える。
『レーヌ! セレストから体調のことを聞いている。無理しないでくれ!』
レーヌの話にリアムは驚くと懇願するような声で返事を返してきた。
『リアム、心配してくれてありがとう。だいぶ眠ったから平気よ!』
レーヌはそう返答したが、リアムからすぐに返答がなく、もう一度テレパシーを送ろうと思った時にためらいがちに返事が返ってきた。
『わかった。今から迎えにいくが、本当に無理をしないでほしい。テオドール殿下も心配している』
『ありがとう。テオドール殿下に心配してくれてありがとう、と伝えておいて!』
『わかった』
レーヌはそれだけ言うとクローゼットから出て、ドアの前で待っていると、すぐにドアをノックする音が聞こえてきた。
エステルが誰何し、ドアを開けると憔悴した顔をしたリアムが顔を見せる。
「リアム、すぐに向かいましょう」
レーヌは率先して部屋を出ると小走りで王城の厩舎に向かうとそれぞれ馬に乗り、北の森を目指した。
到着した現場は昨日と一緒で、空にはドラゴンが浮かび、地上には一つ目の巨人と炎をまとったトカゲがいて魔物たちは動かずにいる。
その行動に警戒しながらレーヌは見張り番のシリカにテレパシーで魔法部隊の出動状況を確認すると、レーヌを含めて5人で、魔法部隊のリーダーであるアルシェもいる。
『アルシェ、聞こえる?』
『レーヌか? 聞こえている』
『昨日と同じで全く攻撃をしていないわ。今日は魔法部隊の人数が多いから手分けして地上で見張り……』
レーヌがアルシェと相談している矢先に魔物が消えた。
『シリカ!』
アルシェの焦る声がテレパシーを通して聞こえてくる。
『南の森だ!』
シリカも焦って次の場所を指示すると警護団員が一斉に移動を始めた。
南の森の上空は昨日と同じで、ドラゴンとトカゲが炎を吐いているため、葉や木が焼け焦げた匂いが漂い、煙が立ち上がり始めている。
レーヌは煙に巻き込まれないように注意しながらテレパシーで誰が到着しているが確認すると、アルシェとレーヌ、リアムだけだった。
『アルシェ聞こえている? 空から水を降らせてもらえる? そのあと私が雷を落とすから!』
『レーヌ了解した。すぐに水を降らせる』
『ありがとう! リアム、地上は任せたわ』
『了解!』
『じゃあ始める!』
リアムの返事を聞いたアルシェはその後すぐに空から水を落とし始める。
水が落ちてきたのを確認したレーヌは雷の魔法を使うため呪文を唱え、空から雷を落とした。が、ドラゴンに当たる、と思った矢先にまたしても魔物が跡形もなく消えてしまう。
『またか……!』
リアムが舌打ちしながら呟く声がテレパシーで聞こえ、今日の討伐任務終了となった。




