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19. 久しぶりの討伐です

 妃教育が始まり2週間目になると、勉強を始めた頃に比べると少し余裕が出てきたように思える。


 今日もヨランドとの勉強が終わると、話をしながらテーブルの上に広げた本を片付けていく。


「レーヌ様、明日から社交ダンスのレッスンが始まります」


 その話にレーヌは本を片付ける手を止めて大きくため息をつく。


「そうですよね。避けて通れないですよね」


「レーヌ様?」


「ああ、いえ。もちろん社交ダンスのレッスンは家にいた時から受けていたのですが、その、音感がないと言うのでしょうか、どうしてもステップがずれてしまうのです」


 レーヌは急に頭の上に大きな石でも乗ったような気がして、全身が重く感じる。


「……わたくしは応援することしかできませんが、これも妃教育の一環ですので」


 ヨランドの話に無言のまま頷くと、テーブル上の片付けを再開させた。


 片付け終わるとヨランドが部屋から出ていくが、入れ替わりにエステルとリゼットが部屋に入ってくると、湯あみの準備を始めた。


 レーヌはソファーにぐったりと座っているとひさしぶりに頭の中に声が響いてきたので背筋を伸ばし、顔を天井に向ける。


『ひさしぶりに魔物が出現した。この声が聞こえた警護団員は至急、ユルバン郊外の森へ集合しろ』


 バスルームから出てきたリゼットが驚いているのが見えたレーヌは視線を戻すと口を開く。


「驚かせてすみません。私は警護団に所属していて、魔物が出現した時はテレパシーで呼びかけられるのです」


 レーヌはリゼットに説明しながらソファーから立ち上がるとクローゼットに向かう。


『レーヌ? 体調は大丈夫か?』


 クローゼットの中に入り、警護団の洋服に着替えている時にリアムから頭の中に声が響く。


『ええ、問題ないわ!』


『了解した。今から部屋に行くから準備しておけ』


『いつでも大丈夫です!』


 そこまで話した時にドアをノックする音が聞こえ、リゼットが誰何するとリアムだったので、クローゼットまでレーヌを迎えにきたので共にドアまで歩く。


「リゼット、これから行ってきます。湯あみは戻ってから一人でしますので、時間になったら休んでください」


 レーヌの話にリゼットは頷くとドアを開ける。


「お待たせしました」


 レーヌはそういうと一緒に王城の厩舎へと向かうと愛馬のオレリーに乗り、リアムと一緒に夜の闇へと駆けていった。


 今日の見張り当番は警護団魔法部隊のエタンで、リアムがエタンと魔物が出現している場所の確認をしているのをレーヌもしっかりと頭の中で聞きながらオレリーと共に走る。

 

 だが、最後まで聞くことなく、魔物がいる所がわかった。

 

 ドラゴンが王城の裏側、馬を走らせれば3分程で到着する森の上空を飛んでいるのが見えてくる。


 視線を落とすと木よりも高い、一つ目の巨人が1体、目にはいってきた。


 エタンに今日の警護団の稼働状況を確認すると、騎士部隊はリアムを含めて8人、魔法部隊はレーヌを含め3人しかいない、と言っている。


(魔法が使える人が圧倒的に少ない……!)


 その中で最優先されるのはドラゴンだろう。

 

 レーヌは出動している魔法部隊のリディとアルシェにテレパシーを送り、役割分担を決めていく。


『レーヌ聞こえるか? 俺は水で地上のトカゲの炎を消してから、ドラゴン討伐に加わる。それまで、リディと頑張ってくれるか?』


『アルシェ。地上には炎のトカゲがいるのね?』


『ああ、そうだ。ドラゴン2匹、一つ目の巨人が1体、炎トカゲ1体だ』


『ありがとう。すぐに馬を預けて向かうわ!』


 レーヌは隣を走っているリアムに視線を向けるとお互いに小さく頷く。


 すぐに待機場所が見えてきたので速度を落としながら指定の場所で馬を止めるとすぐにおり手綱を係員に預けるとリアムと共に現場まで走る。


 現場に到着したレーヌは呼吸を整えるとテレパシーでメンバーの確認を始めた。


『リディ、到着したかしら?』


『今、やっと到着したわ!』


 リディの声を確認したあとアルシェにテレパシーを送る。


『アルシェ、これからドラゴン討伐に向かうから!』


 レーヌは風魔法で風を起こすと地上から舞い上がる。


 たが、魔物たちはその場にとどまり、全く攻撃をしてこない。

 不思議に思ったレーヌは出動している警護団員に確認しようとテレパシーを送る。


『ねぇ、一切攻撃してこないけど……』


 レーヌがそう言った瞬間、魔物たちが一斉に消えた。


 警護団員達も戸惑っている様子がテレパシーから伝わってくる。

 その時、慌てた様子のエタンが呼びかけてきた。


『今度は南の方角に出現している!』


 その言葉にレーヌは後ろを振り返るとドラゴンが2匹、ユルバンから少し離れた森の上空に出現していたのが見えた。


『確認できたわ! すぐに南の森に向かいます!』


 レーヌは風の威力を弱めながら地上に降り、急いで待機場所に向かうと預けている愛馬の手綱を受け取る。


 管理している人達が慌ただしく待機場所を片付け始めている中、警護団員達も馬や馬車に乗り込む。


 慌ただしく人が動いている中、レーヌは愛馬オレリーに乗り込むと横っ腹を蹴り、全力で南に向かった。


 ドラゴンが滞空している南の森には、すでに出動していた騎士部隊が待機していた。


 待機場所を作る部隊がまだ到着していないため、魔物の影響が少ない場所で愛馬オレリーを止めると急いでおりる。


 レーヌはあたりを見回し細めの木に愛馬のオレリーの手綱を結ぶと、現場に向かい走り始めた。


 走りながら現場を確認すると先ほどと同じ魔物たちが出現していたが、先ほどとは違い魔物たちは攻撃を始めていた。


 ドラゴンは森に向かい炎を吐き、一つ目の巨人はいつ攻撃されていいように大きなこん棒を構え、炎をまとったトカゲは口から炎を出し、周りの草を焼き払っている。


 レーヌは魔法部隊が今どこにいるか不明だったのでテレパシーで問いかけた。


『アルシェ、リディ、もう南の森にいるかしら?』


 最初に反応したのはアルシェ。


『レーヌ、まだ向かっている途中だ。どんな状況だ?』


『先ほどと同じ編成の魔物がいるわ』


『わかった、早めに向かう!』


『レーヌ、リディです。今やっと馬車に乗れたから、到着するまで時間がかかるわ』


『わかったわ』


 今、この場で魔法を使えるのはレーヌだけだった。個々の魔物に対応できないならば、水を空から降らせ、森の延焼を防ぎつつドラゴンが雨に濡れたところで雷を落とし、地上に落とす。


『騎士部隊のみなさま、これから水と雷の魔法を使いますので、あとは宜しくお願いします!』


 レーヌはテレパシーで騎士部隊にそう伝えると返事を聞かずに、魔法を使う準備を始める。


 レーヌは水と雷の魔法は使えるが苦手としている。だが、迷っている時間などない。呪文を唱え、最後に空に向けて両手をかざす。

 

 レーヌの呪文に応えるようにくっきりと晴れわたっている漆黒の夜空から大量の水が降ってくる。

 ドラゴンは大きな声で咆哮し、地上では一つ目の巨人はそのまま突っ立っているが炎トカゲの周りの火が消えていく。


 レーヌは状況を確認すると、ドラゴンと一つ目の巨人に向かい雷を落とそうと準備を始めたところで、またしても魔物が消えた。


(えっ!?)


 レーヌは目の前の光景に驚き、急いでテレパシーで語り掛ける。


『エタン、魔物が消えたわ! 他の場所に出現している?』


 見張り番のエタンに問いかけると狼狽えた声が聞こえてくる。


『いや、いまのところ出現しているところはない!』


 その話にレーヌはしばらくあたりを注意深く確認していたが、魔物が出る気配は一向に感じられなかった。

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