18.テオドール vs エドメ & リアム
こちらは、なろう版のみの書下しになります。
「エドメ」
テオドールはまとめ上げた書類を執務机の上で整えながら部屋の中央にあるソファーに座っている1人の男性文官の名前を呼ぶ。
名前を呼ばれたエドメはソファーに浅く腰掛け、書類を確認していたが、テオドールに顔を向け、返事をすると立ち上がり茶色の長い髪を揺らしながら執務机に向かう。
テオドールは手にした書類を真向かいにきたエドメが確認しやすいように向きを変えて手渡す。
「確認を頼む」
「御意」
エドメはテオドールから渡された書類10枚の束を1枚目から丁寧に確認していく。
その間にテオドールは執務机の片隅に山のように積んである書類の束を上から一つ取り出し、目を通していく。
「殿下、恐れながら」
テオドールが書類に目を通している時にエドメから低い声で呼びかけられる。
「許す」
テオドールは書類をめくりながら顔を上げることなく返答する。
「それでは。こちらの書類なのですが」
エドメの声に顔を上げるテオドール。エドメは左手に書類を持ち、眉間に皺を寄せながら凝視している。
「なにかあったか?」
「はい。数字が間違っています」
「えっ!?」
エドメは向きを変えて、執務机の上に書類を置くと、間違っている箇所を指さす。
テオドールは慌ててエドメが指した場所に視線を走らせる。
「ここです」
エドメが指さした箇所は貿易相手の国に商品を売った代金の計算で単純に1桁計算を間違えていた。
「ああ、本当だ……」
テオドールは低い声で呟くと頭を抱える。
「それと、こちらの地名が間違えています」
エドメは書類の1枚目を捲り、2枚目の下の方を指さす。テオドールは慌ててエドメが指摘した部分を確認すると、1文字間違えていた。
思わず、ため息をつき、顔を上に向けるテオドール。
その様子を見て、エドメは書類を持ちながら首を傾げる。
「殿下、お疲れですか?」
「いや、疲れてはいないのだが……。少し休憩を挟んでもよいか?」
「御意。それでは、私は間違えていなかった書類を関係部署に届けてまいります」
エドメは皮肉交じりに呟くと間違いのある書類をそのまま執務机の上に置き、先ほどまで座っていたソファーに戻ると、テーブルの上にまとめていた書類を抱えると一礼をして部屋から出て行く。
テオドールは何も言えずにただ、見送った。
エドメが部屋から出た瞬間、リアムが小さく笑う声が聞こえてきた。
「殿下」
今この執務室にはリアムしかいない。何を言われるかと身構える。
リアムはゆっくりとテオドールの元に近づく。
「レーヌ嬢と会わなくなり、1週間は経ちましたか?」
テオドールは何も言わず、執務机の真向かいにきたリアムを上目づかいで見る。
「意地を張らずに、会いに行かれたらよろしいかと」
リアムはからかうような口調で話していて、テオドールはむっとして口を尖らせた。
「だって、悔しいんだもん。早く僕が運命の相手だって、気づいてほしいんだもん」
テオドールは言葉を崩し、頬を膨らませリアムに上目遣いのまま抗議する。
その様子がおかしいのかリアムは笑いを堪えている。
「仕方のないことですよ、殿下」
「そうだけどさ」
リアムの話にテオドールはむっとしながら返事をする。
「そういえば、セレストから聞いたのですが」
意味ありげに笑いながら話すリアムに視線を向ける。
「レーヌ嬢が、殿下の体調を心配されていたそうです」
リアムの話にテオドールは心の底から嬉しさが込み上げてくる。
「レーヌの心の中に僕がいるのかな」
テオドールは顔の筋肉が緩むのを感じる。
「いえ、そういうことではなく、単純に心配しているだけだと思います」
あっさりと否定されてしまい、テオドールはリアムを思いっきり睨みつける。
「確かめに行かれたらどうですか?」
リアムはテオドールに挑むような口調で話をする。
「行きたい! 今すぐに!」
テオドールは両手を、ばん、と執務机の上で叩きつけ音を立てながら椅子から立ち上がる。
「では、ここにある書類を全て間違えることなく処理できたら会いに行きましょうか?」
リアムはにや、と笑うと、執務机の一角を指さす。
テオドールはリアムの指した方向に顔を向けるが、書類が30cm位の高さで山積みになっている。
「……リアム。会わせる気がないだろ?」
テオドールは心の底から怒りが込み上げてきて、思わず声が低くなる。
「いいえ、そのようなことはなく。この書類が片付いたら会えるのですよ? さぁ、頑張りましょう」
テオドールはひょうひょうと話すリアムを睨みつけたまま書類の束に手を付ける。
「ああ、間違えたら当然会いに行けませんからね?」
その話にテオドールは歯ぎしりしながら椅子に座ると、猛然と書類を片付け始めた。




